クアラルンプールでリノベーションブーム 古きホテルも火事跡もアートに転換
東南アジアで最も成長している国の1つマレーシア。
首都クアラルンプール(KL)には急激に高層ビルが乱立。新しいものと引き換えに古いものが取り壊されていくという、都市の発展の際、どこでも起こり得ることがここでも起こっている。しかし同時にその反動というものも起こっている。一部の若者たちにより古い建物や放置されたままの建物が保護され、リノベーションを行うことで新しい価値観を生み出しているのだ。
KLで人気の観光スポット、チャイナタウンにある「ELSE HOTEL Kuala Lumpur」。こちらのホテルは、1930年建造のかつて市内で最高層だったアール・デコ様式のビルをリノベーションしたもの。
当時の外観をほぼそのまま残し、中をスケルトンにした後、ローカルの建築家やアーティストらによって3年かけてホテルへと改修したもの。開業して間もなくKL唯一のスモール・ラグジュアリーホテルズ・オブ・ザ・ワールドの仲間入りを果たしている。
同じチャイナタウンエリアに、かつての賑わいを失い放置されたままの映画館を本屋(Book Xcess Rex KL)へと“転換”した例もある。映画から本へと提供するコンテンツを変えたのだ。それだけを聞くと単に本屋へと業態変化しただけのように思うかもしれないが、そうではない。
映画館時代、おそらくチケット売り場だった場所から客席へと通じる通路を抜けたその先に広がるのは、映画館時代の階段状の客席を活かして並べられた多くの本や写真集、絵本。本を探す楽しみとワクワク感を高揚させてくれると同時に、なかなかのインスタスポットでもある(実際多くの写真がポストされている)。
火事により朽ち果てたまま放置されていたビルをリノベーション、カフェとして蘇らせた例もある。最上階まで吹き抜けになっている店内は、意図してデザインしたものではなく、火事の際に焼け落ちたままの姿をそのまま利用している。
壁もまた同様、一部の焦げ跡と黒ずんだ焼け跡は燃えたときのままの状態として残している。焦げ跡もまたアートとして捉え、新しい価値観を生み出しているのかもしれない。
そのほか町中に残る古い建物にアートを施す活動を通し、街の景観に新たな色気と魅力が与えられている。街の既存の財産を活かし新しい価値観を作っていく。KLはそんな新旧の魅力が混在する場所でもある。
写真・文 山下マヌー