日本より“日本らしい”ハワイ・カウアイ島の盆踊り　料理と歌が魂に響く

最近の日本の盆踊りがクラブイベント化している。

櫓の上にはDJブース、炭坑節はEDMにマッシュアップされ、もはや「盆」なのか「ボンバイエ」なのか分からない。

ところが、日本から遠く離れたカウアイ島の盆踊り（ボンダンス）は違った。そこには昭和の夏休みに学校の校庭にみんなが集まり輪になって踊った、あの古き良き正統盆踊りの時代にタイムスリップしたかのような光景があった。

おじいちゃんもおばあちゃんも、子どもも若者も日系人も、ローカルもみんなが輪になって踊る。

先祖の霊を供養し、見送りをするという盆踊りの本来の目的を理解し、真面目に、丁寧に、心を込めてちゃんと踊っている。どんな曲が流れても、みんな真剣に踊る。聞けば、この日のために数カ月前から練習してきたという。

「なぜ続けるんですか？」と参加者の一人に聞いてみた。

「自分たちのルーツが日本にあるということの誇りを認識するためかな」。

その答えに沁みすぎて、涙腺が崩壊寸前となる。

カウアイ名物、ボンダンスの夜にだけ登場する“フライングソーサー”。挽肉とチーズを白い食パンで挟み、パイアイロンと呼ばれる器具で丸い形に焼き上げる、温かいサンドイッチのような食べ物だ。

この日しか食べられないということもあって、皆が買い求めるため、大量に作る必要がある。作るのは男性たち。横一列になり流れ作業で手際よく焼いていく。

その様子を撮影中に流れてきた「上を向いて歩こう」。 カウアイの夜空に、坂本九の声が溶けていく。

ああ、やっぱり流れるんだ、坂本九。しかも、ここでは“ソウルソング”として。

高度成長期の入口だった当時、日本で「がんばろう」と聴かれたあの歌が、ここカウアイでは、異国に渡って生きてきた人たちの「がんばったね」に変わっていた。

年に一度のボンダンスの日には、近隣の日系人の人々が総出でボランティアとして参加。その力が最大に発揮されるのが、料理。会場で販売する料理を、みんなで手分けして作る。海苔巻、煮しめ、天ぷら、魚の揚げ物、お稲荷さん、サーターアンダギー…。手間がかかり日本の家庭では作らなくなってしまった料理も、ここではちゃんと作る。むしろ日本以上に日本の伝統や味を大切にしているのではないだろうか。

その味は、年長者にはふるさとを思い出させ、若い世代には自分のルーツを呼び起こすものなのかもしれない。

流れる曲は炭坑節、東京音頭といった王道から、「涙そうそう」というちょっと（いい意味で）ズラしの曲も。沖縄出身者が多い移民の人々にとって、この曲もまた、ソウルソングなのだろう。そんなことを思うと、また涙腺が…。

カウアイの踊りの輪は、文化のマッシュ。日本人だけでなく、ローカルも、観光客も、みんなが輪になって踊る。踊りの合間に見えるのは、世代を超えたつながり。 祖父母が踊り、孫が習い、踊る。 その輪の中には、血縁だけでなく、文化の記憶が息づいている。 「踊る」という行為の中に 助け合いとシェアの精神が、音楽以上に強く響いている。

カウアイのボンダンスは、 日系移民の歴史と文化と誇りの縮図だった。 そして何より、ピースだったのだ。

取材・文　山下マヌー　
写真　高砂淳二

翼の王国のアンケートにぜひご協力ください。
抽選で当選した方にプレゼントを差し上げます。