富裕層が移り住むカウアイ島　ザッカーバーグも購入した“ハワイ最後の楽園”の今

ここ数年でカウアイ島は少しずつ変化してきた。時代の流れとともに変わっていくことは仕方のないことだし、それを止めてほしいというのは、観光客の勝手願い。しかしそれでもカウアイはカウアイのままーーつまりはハワイの原風景の姿を多く残してきた島ーーであり続けてきた

今回、約8年ぶりにカウアイ島に訪れてみて、驚いた。ここ数年、ハワイ諸島に押し寄せた富裕層の移住ブームが遂にカウアイにも到達。ビリオネアたちの隠れ家になりつつあったのだ。

きっかけは、Facebookの創業者マーク・ザッカーバーグが広大な土地を購入したことから。そこから火がついたように、ビリオネアたちが次々とやってきた。「今では50人程度のビリオネアが土地を購入、それに引きづられるように、100人を超すミリオネアもやってきた」…取材中、島の何人もの人から同様の話を聞いた。

広大な敷地をフェンスで囲い、プライベートビーチを持つような邸宅も建ちはじめ、地元の人々は「ここは本当に自分たちの島なのか？」と首をかしげる。

彼らの目的は誰にも分からない。もしかしたら、世界の喧噪から逃れるために静けさを金で買った？ あるいは、地球規模の変化を察知して“快適な島”を探している？ はたまた、世界の紛争から遠いこの島に安全を買いにきた？…想像は尽きない。だが確かなのは、彼らの存在が島の経済を揺らし始めているということ。

高級住宅が立ち並び、土地の値段は跳ね上がる。

それに引っ張られるように、家賃も、ガソリンも、スーパーの食材もじわじわと高くなっていく。
以前なら10ドルで買えたランチプレートが、今では15ドル前後を超えることも珍しくなく、これはもう、ワイキキ並。いやそれ以上。多くのものがワイキキ経由で運ばれてくるために、運送コストが上乗せされる分、ワイキキ以上の値段になるものも少なくないのだ。

カウアイは長らく“バブルと無縁”の島だった。観光化が進んだ他島とは違い、ここでは自然と人とがほどよい距離を保って暮らしてきた。だが今、そのバランスが崩れようとしている。

富裕層向けのレストランやリゾートが増えつつある一方、地元のカフェや小さな店は姿を消していく。

もちろん、お金もちが全部悪いというわけではない。彼らもこの島の美しさに惹かれ、穏やかな暮らしを望んでいるのだろう。彼らは税金を払い、雇用も生む。しかし同時に物価と土地の値段を押し上げる。

“静けさの価値”が上がると、それを維持できる人が限られてしまう。カウアイの空と海は誰のものでもないはずなのに、いつのまにか値札がつき始めているということだ。

興味深いのは、島の人々の反応だ。

「彼らがここに来てリラックスできるなら、それもいい」という人もいれば、「金持ちが増えて、カウアイらしさが薄れていく」と寂しそうに話す人もいる。

だが、どちらにも共通するのは“この島は金では測れない”という誇り。

タロ畑は昔と変わらず流れる水とともに存在し、サーファーたちは朝の波を待ち、フラの歌声は今も風に乗る。カウアイの魅力は、誰の所有物にもならない。カメハメハ王に唯一征服されなかったという誇り。たとえ島にビリオネアが何人増えようと、この島の“リズム”は金や権力では買えない…と、そう信じたい。

取材・文・写真　山下マヌー　

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