スンバ島で出会った長老に聞いた〝神が宿る家づくり〟~インドネシア 森と島を守る4
島のリゾートNIHI SUMBAと島の生活向上のために作られたスンバ財団は、島の人々の信仰する宗教や文化をリスペクトしつつ、村人の教育、衛生、水の確保、子どもたちの教育をサポート、島の人々との共存を図っている。リゾート滞在中は希望すれば行ってきた活動の成果を見て回ったり、いくつかのボランティアに参加することも可能だ。
スンバ島には「マラプ教」という、現在のインドネシアに殆ど残っていない祖先崇拝を信仰する人々が暮らす。今回我々が訪ねた場所は、財団が整備した水源のそばの小さな集落。家の中央から煙突のような塔があるのが特徴的な彼らの家は、マラプ教独特のスタイル。現在では一部トタン板を使うこともあるようだが、基本的には藁と木材のみを使って建てられる。家は三層の構造。3階は物置きとして利用し、2階は人間が生活する空間、一階は豚や鶏などの家畜や動物のスペース。煙突に見えた塔の部分には先祖神のマラブが宿っており、最も重要で神聖な空間。人が入ることは許されていない。
立ち入ることが許されるのは、死んで祖霊へと転化したとき。その時はじめてそれまでの2階の空間から神聖なる上の空間へと登ってゆく(立ち入れる)。つまり人間としてのカタチは失っても、神となり命を持続し、同じ家に住み続けていくのだ。
持続といえば、家畜を一階(というか床下?)に住まわすこともまた、持続という意味では実に理にかなっている。2階に暮らす人間たちがこぼしたご飯が下に落ちて動物たちの餌になるのだ。ということは、生ゴミを出さずに済み、エサも節約できるという。そんな彼らの古代からの生活の知恵。それまさに現代に通じるサスティナブルな暮らし。
家の壁に誇らしげに飾られている牛の角は、床の下で飼われていた牛ではなく、先祖がなくなった際に行われる儀式に差し出された牛達のもの。基本的に彼らが牛の肉を食べるのは、誰かが死んでその儀式が行われるときのみで、食欲を満たすためだけに、いたずらに動物を殺したりはしない。
元サーファーでバックパッカーだった一人の青年により計画されたリゾートは、その後島に貢献するための財団を仲間と設立し、リゾートの完成度を高める。その結果世界で1番の隠れ家リゾート(2016年、2017年Travel+Leisure誌)に選出され、ヴィラ数わずか27棟にもかかわらず、持続可能な観光モデルを完成させたのだ。
人々の暮らしぶりは、正直キツそうだし大変そうだ。だけどすれ違うみんなが「ミスター! ミスター!」と笑顔で話しかけ、「ピクチャー! フォト!」と自分からキメポーズをとってカメラに向かってくれる。この距離感の無さというは、それだけ島の人とリゾートとの関係が良好だというだけでなく、島にやってくる観光客も歓迎されているということの裏返しである。そう確信したのと同時に、この先もこの関係がずっと繋がって行くことを願う。そのためには我々観光客の姿勢も問われているのは当然なのだ。
島の自然ほぼそのままの中に存在するリゾート、“ニヒスンバ”。周りの環境に溶け込むように建てられている様子は、完成当時と殆ど変わっていない。島の人々と自然との共生を図りつつ、島の自然の中で自分がどう楽しむか、どう楽しめるのかが試される、ある意味そんな場所でもある。
写真、取材、文:山下マヌー