森に暮らす村人と観光客との持続可能な関係とは～インドネシア 森と島を守る３

国の面積の半分を森が占めるインドネシア。森の環境変化は都市にまで影響し、度々洪水を引き起こしている。森林の伐採により雨水を森に貯めておくことができず、高い山から都市部へと大量の雨水が流れ込むからだ。つまりインドネシアでは森を守ること＝都市と人々の暮らしを守ることに繋がる。しかしそのためには森で暮らす村人たちの理解と協力が欠かせない。森を守るための相互理解の方法とは？グヌン・ハリムン・サラク国立公園内、シタラハブ村のムラサリさんに聞いた。

「大切なのは、訪問に対する制限を設けることです。エコツーリズムなので道は舗装しません。悪路のままの状態は、わざとそうしてあるのです。たくさんの観光客を引き寄せるのではなく、特別な興味のある人たちに対して、高い価値を提供していくという考えです。なぜなら、ここに興味を持つ人は現在の状況に満足していて、この地域の熱帯雨林と村周辺の環境を決して高価だとは感じていないはずだからです」

ムラサリさんによると、ここに来る人の多くが自然保護、動物、生態系に興味を持っている人たちで、村を訪れる彼らとの交流は、住民の行動にも変化を起こしたという。
「以前はルールがなかったので森から取ったものを観光客に売っていました。しかし今は森を守るという考えを学びました。生態系や環境に興味を持った観光客、日本を始め様々な国の研究者とも交流してきた経緯があり、たくさんのことを学びましたよ」。

村への訪問者の数も制限していて、１か月あたり最大150名。１か月以内に1人が訪問できるのは2回まで。その数は国が決めたのではなく「生態系を守るため、環境を保護するために」自分たちが決めたことだという。
しかしここで素朴な疑問が湧いてくる。もっと多くの観光客を呼び、村全体が豊かになることは望まないのだろうか？
「そういう風には考えていない。短期的視点ではなく、長期的に考えている。訪問者を増やすことは簡単だと思うが、それは持続的ではない。私たちが望んでいるのは、私たちのリズムを守ること。そのために、訪問者数やホームステイの数を制限している。そうすることで、自然保護を愛し、環境破壊をしないという考え方を広めることができる」と、こちらの下品な邪推はバッサリと切り捨てられたのであります。

「今は、何でも簡単に手に入るようになった。昔は、町に行くのも歩かなければならず大変でした。８年前から電気や携帯電話が入り、コミュニケーションも容易になったし、今のままで十分じゃないか」。
そう笑うムラサリさんに「幸せですか？」と聞いてみた。
「幸せです。何も望まない。質素だけど幸せと言える。他の村に対して、こういう方法で森を守れるという見本を示すこともできている。SNSで宣伝などしなくても訪問者が来てくれて、彼らがこの村のことを広めてくれる。道はボロボロで来るのも大変だけど、訪問者たちはむしろそれを誇らしげに周囲に広めてくれるんだ」。

そんな今の村のスタイルを子供たちに伝えていくことも忘れない。
「子供たちには森を壊すのではなく、守ることを教えています。まずはゴミをきちんと処理すること。それを小さいときから教えます。子供も大人も村のワルン（小さなお店）でプラスチック袋は使わない。自分の袋を持ってきます」（驚くことにこの村でのエコバックの習慣は日本よりずっと早く、2008年から取り組んでいる）。
　グヌン・ハリムン・サラク国立公園の中の小さな集落、シタラハブ村で学び教わることは少なくないということを、訪問者の一人としてそのことを誇らしげに周囲に広げていこうと思う。

写真、取材、文：山下マヌー　協力：インドネシア総合研究所

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