ハワイ・ポケの奥深い文化 「アレンジは自由 でもローカルにとっては伝統」
ハワイ食文化の象徴でもあるポケは、単なる料理ではなく“人と人とを繋ぐ食べ物”。近所の誰かが海から獲ってきた新鮮な魚をカット。切り身をみんなで囲み今日の出来事をそれぞれ語り合う…。
「ポケは食事という枠を超えて人々が集まり時間や空間を共有する、ハワイアンのライフスタイルそのものだったのです」。
シンプルなポケという料理の持つ奥深い魅力を伝えてくれるのは、テディーズバーガーを始めハワイで40以上の飲食店の立ち上げに関わってきたハワイ飲食業界のカリスマ、リンダさんが開く料理スクール。カハラの自宅で教えるのはハワイ料理に限ったものではないのだが、ハワイの伝統料理を教える際には、食を通してハワイの文化についても伝えている。

自分もそうだが、ポケという言葉の意味を『切り身』とか「切る」というふうに理解していた人も少なくないのではないだろうか。それを彼女に伝えると、「間違ってはいないけど、正確ではない」とのこと。正しくは、「交差させながら切る」という動きの意味なのだと。「包丁を魚の筋と交差させながら魚を切ることは、ハワイの海の恵みを最大限に活かすための技法でもあるのです」(リンダ先生)。

伝統的なポケはシンプル。材料は魚、塩、ククイナッツ、オゴ(ハワイ固有の海藻)のみ。かつて胡椒もチリペッパーもない時代、ハワイの海から作る塩=ハワイアンソルトこそが唯一の調味料だった。
また、「同じように見える塩でも、島ごとに特徴があります(リンダ先生)」。カウアイ島では赤土(アラエア)の影響をうけたまろやかで甘みのある赤い塩、ハワイ島では火山活動によるミネラル豊富なブラックソルトやグリーンソルト、モロカイ島では深海から汲み上げた純度の高いディープシーソルト、マウイ島ではミネラルを多く含むクリアな味の塩と、自然環境や製法により塩の個性が異なる。ハワイアンソルトは、料理の味付けだけでなく、ハワイの島ごとの異なる風土を映し出すものでもあるということなのだ。
近年のポケ作りには玉ねぎが使われているものも少なくない。ポケに使う玉ねぎなら「それはもう、マウイオニオン(同)」。マウイオニオンは通常の玉ねぎとは異なり、独特の甘みがマグロの旨味を引き立てるからだ。普通の玉ねぎでは辛みが強くなり、魚の繊細な味を損ねてしまうのだという。
因みに「玉ねぎは扇の形に切ることで食感も良くなる(同)」。
また、ククイナッツはローストして砕いてから加えるることで、大地の恵みを感じる香ばしさが広がる。そう、ポケは「ハワイの海と大地の融合を味わう料理(同)」というわけだ。
時代とともに変化してきたポケ。昔ながらのシンプルなポケに加えて醤油、セサミオイル、チリペッパー、にんにく、生姜、マヨネーズ、うなぎのタレなどなど…。様々な具材を加えたポケも人気を集める。
「今では世界中にポケショップができたのは嬉しいこと。だけどブルーベリーが乗っていたりして『これはちょっと…』と思うものもあるのよね」と、苦笑するリンダ先生。


「ポケは自由。だけど、伝統的な味を知った上で、自分のスタイルを見つけていくことが大事。ポケを作ることは、ハワイの文化を理解することなのだから(同)」。
オリジナルの味を知った上で自分だけのポケを創造する。それはある意味、伝統を尊重しながらも進化し続けるハワイの精神と、そういえるものかもしれない。
取材・文 山下マヌー
写真 内田恒
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