日本とは逆の発想…! 森と湖の都市フィンランド・タンペレに見る精神哲学
フィンランドの人口はおよそ554万人。日本と同等の国土面積に対し、その人口は北海道とほぼ同じ規模。しかしこの国は、世界幸福度ランキングで常に首位に輝く。幸福の背景には、フィンランド特有の精神性が息づいているに違いない。街を歩けば、公衆浴場=サウナがあちこちに見受けられる。フィンランド人にとってサウナは、一過性の流行ではなく、暮らしに深く根づいたかけがえのない文化だ。フィンランドの空気を肌で感じ、サウナがもたらす自然と人との結びつきを旅しながら、幸福のエッセンスを分かち合いたい。
タンペレの心 互いを認め合うムーミン谷の住人たちの精神
幸福の哲学は、街の随所に潜んでいる。社会の信頼やセーフティネット、教育の充実、文化を尊ぶ空間、整備された街、選択の自由……なかでも「自然とともに生きる」実感は、人間に大きな影響を与えている。
サウナはその象徴であり、大自然と人をつなぐフラットな場だ。ひとたびサウナ室に入れば肩書きは意味を失い、裸の心で自然や他者と向き合うことになる。
森と湖に囲まれたサウナ都市タンペレでは、その体感がいっそう濃い。湖へのダイブや森での深呼吸は日常。見知らぬ者同士が蒸気の中で会話を楽しみ、心地よさを分かち合う。互いを認め合うムーミン谷の住人たちの精神そのものである。誕生80周年を迎えた、トーベ・ヤンソンのムーミン物語に思いを馳せれば、その哲学はまさにフィンランドそのものを映す。

サウナ首都タンペレの湖畔にある公衆サウナ、ラウハニエミ。1929年オープンで創業96年の歴史を持つ。ナシ湖の畔にあり、森も近い。ラウハニエミは「安らかな岬」という意味。大小2つのサウナ室があり、熱さが人気。
森の恵みを食卓へ――「自然享受権」が育む自由な生き方
フィンランドには「自然享受権」(every person’s rights)という権利が根底にある。日本とは逆の発想で、森に入れば植物の恵みを自由に受け取ってよいとされ、狩猟愛好家も多い。自然が暮らしの一部であるからこそ、人々はサバイバルスキルに長けている。


タンペレの奥深い森を歩けば、ランニングを楽しむ人、ゲームに興じる人、ただ森に身を委ねチルする人に出会う。秋にはきのこ狩りやベリー摘みが日常を彩る。自分の手で収穫する自然の恵みは格別であり、食べるもの、身につけるものやファッション、恋愛、過ごし方まですべてにおいて選択の自由度が高い。
自ら選択していく生活環境こそ「生きている」実感を与え、自分が自分の人生の主人公であるマインドを形作るのではなかろうか。
タンペレ市にある北欧最大級の屋内型マーケットホール。生鮮食品やパン、菓子類を購入できるほか、イートインできるレストランも。

タンペレの森と、街のマーケットへ(きのこ狩りは必ずきのこの見分けができる人と)。マーケットはシーフードや乳製品が充実しており、精肉店にはトナカイの肉が並ぶ。北欧のサーモンや「魚介スープ」は絶品。館内には飲食店も。黒いソーセージは、ムスタマッカラといって、伝統料理のひとつ。豚ひき肉に血液や穀物などを混ぜたもの。






Tampereen Kauppahalli(タンペレーン・カウッパハッリ)
Hämeenkatu 19, 33200 Tampere
Photographs Tom Kaneko
Coordinate Ayana Kobayashi
Writing & Editing Sakurako Nakano
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フィンランドへの翼
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