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極寒イエローナイフを生き抜くサバイバル術 デネ族の犬ぞりがつなぐ命と自然 

極寒イエローナイフを生き抜くサバイバル術 デネ族の犬ぞりがつなぐ命と自然 

TRAVEL 2025.02 カナダ・イエローナイフ特集

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北極圏にほど近いカナダのイエローナイフ。この地は冬になるとマイナス30度を超える極寒が日常となる過酷な環境。そこに暮らしてきた先住民族であるデネ族の人々は、何世代にもわたって厳しい自然と向き合いながら、独自の知恵と文化を築き上げてきた。その暮らしを支えてきたのが、忠実な犬たち。

「犬ぞりは私たちの祖先の命をつないできた」。そう語るのは、デネ族の血を引くグラントさん。かつてデネ族の暮らしにおいて、犬ぞりは欠かせない存在。狩猟の際には犬ぞりで獲物を追いかけ、何十キロも走り、仕留めた獲物の毛皮は防寒具となり、肉は一家の糧となり人々の命を支えた。「犬ぞりがあったからこそ、極北の地で我々は生き延びることができたのです」(グラントさん。以下同)。

現代の移動手段はスノーモービルが主流となったが、グラントさんは今でも犬ぞりを続けている。その理由の一つは「信頼」。スノーモービルが壊れた場合、極寒の地では命取りになる可能性がある。しかし、犬ぞりであれば犬たちが必ず家まで連れ帰ってくれるのだと。

「12歳のときに初めて一人で狩りに出かけた際、親はスノーモービルではなく『犬ぞりで行くなら』と許してくれた」というほど、犬への信頼は厚い。そしてその信頼は、犬と人間が共に生活していく中で築かれていく。(ちなみに、オーロラ鑑賞の地として旅行者に知られているイエローナイフだが、犬たちもまたオーロラが現れると興奮するのがわかるというから不思議だ)

極寒の地で暮らしてきたデネ族は、祖先から受け継いだ知恵を伝承しながら、この地を生き抜いてきた。「極寒で大切なのは常に体をドライに保つこと」。そのため、汗をかいたらすぐに乾いた服に着替える。汗で湿ったシャツが凍れば、命を奪いかねないのだ。

また、デネ族は動物の命を無駄にしない。ムースやバイソンの骨髄まで食し、毛皮は防寒具として加工。その防寒具は化繊の衣服とは異なり、枝に当たっても音を立てないため、獲物に気づかれにくく、狩猟の際には不可欠なのだ。

移動手段だけでなく火を起こすための知恵も重要。グラントさんの場合は濡れないケースに入れたマッチを常に持ち歩くのだという。その理由は、いつでも火を起こせるようにするため。実際、彼は氷の割れ目から水に落ちた際、5分で焚き火を起こし、衣服を乾かし体を温めることができたのだ。

「デネ族の文化や知恵は、次世代に伝えていかなければならない」とグラントさんは強調する。そのために彼は犬ぞりツアーを行い、子どもたちにも体験の場を提供。「犬ぞりはただのスポーツではなく、デネのアイデンティティでもある」のだ。

現代では狩猟や犬ぞりの役割は変わりつつあるが、それでもデネ族のスピリットは失われていない。自然と共に生きる知恵、命を無駄にしない精神、そして犬たちとの絆――それらは極北の地での生活を支え、未来へと続いていく。

「この地で生きるための知恵の多くは自然から学ぶもの。それを次世代に伝えることが、我々の使命でもある」というグラントさんの言葉が重たい。

極寒の地で息づくデネ族の文化と知恵、そして犬たちとの絆。それは我々旅行者にとっても大切な教訓を与えてくれているのだ。

写真 高砂淳二
取材・文 山下マヌー

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