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“職人気質”は時代遅れ? ベルギーのクラフトマンにみる付加価値のつけ方

“職人気質”は時代遅れ? ベルギーのクラフトマンにみる付加価値のつけ方

TRAVEL 2024.07  ベルギー特集

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「翼の王国」7月号特集、“ベルギーの手仕事”では11人の職人やアーティストが登場。彼らには事前にベルギーの職人について、現在の仕事についてなど10の質問を送った。

送られてきた回答の行間から感じるのは、過去の職人達へのリスペクト、自分たちの仕事へのプライドとこの先も伝えていくという強い思い。「ベルギーの手仕事」を通した職人への“熱”を感じさせてくれるのだ。

最初にしたのは「そもそも職人とは?」という質問。日本語の「職人」からは、どこか頑固親父のこだわりの仕事というような、ちょっととっつき難い人というイメージ。ではベルギーではどうなのか。

「素材を知り尽くし、素材を活かしアレンジする人」(革工芸・クレマンティンさん)の回答に代表されるように、まず技術や知識が必要。そこが、クリエイトするアーティストと、職人の違うところだ。

革工芸クレマンティンさん

しかしだからといって彼らが新しいものをクリエイトしていないかというとまったくそんなことはない。

「職人として働くことの魅力はなにか」という質問に、「知識を保存し歴史的な印刷方法を尊重しながら、子供たち(とその親・教師)を教育していく。アナログ技術を使用しながら、現代の社会・職場で一時的な技術と組み合わせていく」(デザイナー/ファンデンベルグさん)。

デザイナー/ファンデンベルグさん

「伝統技術をそのまま継承するというのではなく、その技術をどのように現代の創作につなげられるかに関心がある」(製本職人/乾川さん)。

製本職人/乾川さん

「伝統的な道具を使って個々の職人と仕事をした後、ブリュッセルでデザイナーとしての地位を確立。作品のすべてが職人の知恵と技術と素材の知識からインスピレーションを得たものと言っても過言ではありません」(家具職人/グラインドルさん)

家具職人/グラインドルさん

というように単に職人技を継承するのではなく、それそれに新しい技術や革新を取り込み現代の技を生み出そうとしている。

アトリエの共同オーナー/エロイーズさん、オードリーさん

日本では職人が減少しているといわれて久しい。誤解を恐れずに言えば、その理由の一つにあるのは「仕事として魅力が薄い」ということなのだと思う。しかしベルギーでは状況は異なる。

「ベルギーにはクラフトマンシップに根ざした産業繊維の長い歴史がある。リネンの生産はその良い例で、ベルギーはこの天然繊維の伝統的な技術や生産と再び結びつけようとしています。私たちはこの技術を生かした作品づくりを目指し、フランスから移り住んだ」(アトリエの共同オーナー/エロイーズさん、オードリーさん)のように、職人の技を学び自らの作品に活かそうと他国からベルギーに移り住んでくる若者も少なくない。

日本から移り住んだ製本職人の乾川さんもその一人。「ベルギーは中世以来の本の文化の蓄積があり、特に北方ルネッサンスのころには本の印刷で重要な位置を占めていました。今でもその時代の文化の豊かさをアントワープのプランタン・モレテュス博物館や、ブリュッセルのエラスムの家、あるいは王立図書館の展示などで見ることができ、とても刺激になる」という。

ではこの先、ベルギーにおけるクラフトマンシップが受け継がれていくために重要なことは何なのか?

「知識を広め、他の(若い)人々やグラフィックデザイナー仲間に刺激を与え、教育する。他のアーティストと協力し、自分の知識とスキルを活用してプロジェクトをより高いレベルに引き上げる」(前出ファンデンベルグさん)

「ベルギーの職人のみならず優れた製品を生産し守るために働くすべての職人が直面する課題の 1つは、ますますグローバル化する市場において伝統的な醸造方法の完全性を維持することの難しさ。大量生産により、技術に忠実な職人たちが競争することは困難になる可能性があります。しかし私たちはこれらの課題を、職人による手作りビールの価値を消費者に啓蒙する良い機会だと捉えています」(ビール職人/ヴァン・ロワさん)

「ベルギーのというよりは、一般的に工芸的な仕事についていえることだと思うが、工業的に大量生産された商品があふれる時代に、時間をかけてものを作ることへの経済的な付加価値をどうのように生み出せるのかが課題」(前出乾川さん)

…液晶画面の向こう側の風景やモノを見て満足してしまうこの時代、受け手であるこちら側がどこに、どんなものに価値を見い出せるか、見出すか。つまりそれが問われているのだ。

写真 秋田大輔
文 山下マヌー

<ベルギーへの翼>

成田国際空港(NRT)からブリュッセル空港(BRU)までANA直行便(毎週水・土発)利用で約14時間半。空港から市内中心部まで電車で約20分。市内からアントワープまで同約40分。帰国はブリュッセル空港(BRU)から成田国際空港(NRT)までANA直行便を利用(毎週水・土発)。

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