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万博が提示する未来への希望 70年経っても愛されるブリュッセルのアトミウム

万博が提示する未来への希望 70年経っても愛されるブリュッセルのアトミウム

TRAVEL 2024.07  ベルギー特集

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1958年、「科学文明とヒューマニズム」をテーマに、ベルギーの首都で開催されたブリュッセル万博。この万博の会場に未来都市を象徴するような壮麗な建築物が誕生。それが巨大なドームが繋がった不思議な建造物、「アトミウム」。

新しい時代への希望と憧憬が人々の心を高めていた時代背景の中、アトミウムは単なる展示施設ではなく、未来への希望と可能性を体現するシンボルとして構想された。

直径約20メートルの9つの球体が繋がった高さ103メートル、幅60メートルの巨大な構造物は、鉄の結晶構造を拡大したもの。この壮大な構想を実現するのは容易なことではなかった。当時としては画期的な技術を用いたもので、建設には世界最大級の鉄骨構造物が用いられ、ベルギーの技術力の高さを世界に知らしめたのだ。

設計を担当したベルギーの著名な建築家であるアンドレ・ワーテルケイン氏は、アトリウムの設計に際して、自然光を最大限に取り入れることを重視。その結果、アトリウム内部は常に光に満ち溢れ、開放的な空間を実現。
また、ワーテルケイン氏は、アトリウムのデザインにベルギーの伝統的な装飾を取り入れるなど、ベルギーの文化を表現することにもこだわった。

画期的且つ複雑な設計を実現・完成させたのは、ベルギー国内の様々な職人たち。鉄骨加工、ガラス加工、装飾などそれぞれの分野で培われたベルギーの伝統的な職人技が活かされた。例えば鉄骨加工ではベルギーの職人が長年培ってきた精密な技術を用いて、複雑な形状の鉄骨構造物を製作。またアトミウムのガラスパネルは、ベルギーの伝統的なガラス吹き技術を用いて製作された。これは、当時ベルギーで盛んに行われていたガラス産業の技術力を示すものでもある。

さらにベルギーの伝統的なレースや刺繍を用いた装飾が施され、万博期間中アトミウムの空間をより華やかに彩り、ベルギーの文化を表現したものだ。

1958年のブリュッセル万博の開幕と同時に公開され(奇しくも東京タワー完成と同じ年)、多くの人々を魅了したアトミウム。その斬新なデザインと圧倒的なスケールは、当時の人々に未来への希望と可能性を強く感じさせ、万博から約70年経った今も、ブリュッセル市民に愛される憩いの場として親しまれている。また、そのユニークなデザインは、映画やドラマのロケ地として利用され、ハリウッド映画にも頻繁に登場してくる。

ベルギーの職人技に裏打ちされたアトミウム。光に満ち溢れた空間はまるで未来都市に迷い込んだような感覚さえ覚え、70年も前に作られたものとは思えない。単なる建築物ではなくベルギーの人々の創造性と技術力、職人の技と伝統とがそれぞれに深く関わりあって未来への希望を体現するものとして、存在するアトリウム。

「命輝く未来社会のデザイン」をテーマに、間もなく始まる大阪万博。果たしてこのアトミウムのように未来に希望を伝える遺産が残されるのだろうか?

写真 秋田大輔
文 山下マヌー

<ベルギーへの翼>
成田国際空港(NRT)からブリュッセル空港(BRU)までANA直行便(毎週水・土発)利用で約14時間半。空港から市内中心部まで電車で約20分。市内からアントワープまで同約40分。帰国はブリュッセル空港(BRU)から成田国際空港(NRT)までANA直行便を利用(毎週水・土発)。

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