本場のベルギービールウィークエンドで気付く “飲み物”を越えた歴史・文化的価値
ベルギーのビールについて語るとき、その歴史の深さにまず圧倒される。ベルギービールの起源は古代まで遡り、中世の修道院で本格的な醸造が始まった。修道院(特にカトリックにおいて)=ワインというイメージが強く、ベルギーのビールが修道院発というのは、自分を含めて意外に思う人も少なくないのではないだろうか。
修道士たちはビール醸造の技術を磨き、独自のレシピを生み出していった。彼らの手によって作られたビールは宗教的な儀式だけでなく、日常の食事や祭りの場でも重要な役割を果たすようになる。ビールに含まれるアルコールは水よりも安全で、ビールは「液体のパン」として貴重な栄養源でもあった。
多様性を誇るベルギービールの中、今回の取材でとくに惹かれたのがランビックビール。ランビックビールとは、中世にブリュッセル地方で生まれたビールの名称。大気中の酵母で自然発酵させて作る、ある意味「運を天に任せて作る」ビール。
醸造技術が発展した現在、100近くあったランビックビールの醸造所は、4代目オーナーのヴァン・ロワさんが営む「こちらのカンティヨン」を含め数軒のみ。
カンティヨンでは醸造所見学を行っていて、伝統的なビール製造の工程を見ることができる。貯蔵庫の木樽の中で熟成されるランビックの香りは独特。その酸味と複雑な風味を持つビールは、他のどのビールとも一線を画している。
ベルギービールはビールそのものだけでなく、それを取り巻く文化や人々との交流によってさらに豊かなものとなる。毎年9月にブリュッセルで開催される「ブリュッセル・ビア・ウィークエンド」では、数百種類ものビールが一堂に会し、多くのビール愛好家たちが集まる。
会場でビールについて熱く情熱的に語り合う人々の姿を目にすれば、ベルギーにおけるビールは単なる飲み物ではなく、ベルギーの文化や歴史を語る重要なツールであることがわかる。
ベルギーにおけるビール。それは「とりあえず」で飲むものではなく、歴史と文化と伝統に感謝しつつ味わうものだった。
写真 秋田大輔
文 山下マヌー
<ベルギーへの翼>
成田国際空港(NRT)からブリュッセル空港(BRU)までANA直行便(毎週水・土発)利用で約14時間半。空港から市内中心部まで電車で約20分。市内からアントワープまで同約40分。帰国はブリュッセル空港(BRU)から成田国際空港(NRT)までANA直行便を利用(毎週水・土発)。