バンコクから市場を動かす審美眼 世界的ビンテージコレクターのサリーム・ガンチ
世界的ビンテージコレクターである、サリーム・ガンチ。彼の物語は、1970年代に祖父が服を扱っていた時代まで遡る。
「父がビンテージを始めたのは30年前。父の趣味がすべての原点」と娘のスーマイは語る。
パキスタンからタイへ移ったのは、「タイにはビンテージを受け入れる土壌がある」という友人の助言がきっかけ。実際、タイには古着文化が根強く、サリームはその波を直感的に掴んだ。
「父から学んだのは“強い心”です。異国から来たパキスタン人というだけで、違う目で見られることがある。でも負けない心を持て、と」
弟のウメルによると、
「父は目をつむって生地を触り、匂いを嗅ぐだけで年代も産地も当てる。アメリカか日本かさえわかるんです。」
そんな家族の証言だけで、すでに“伝説”の輪郭が浮かび上がる。
サリーム本人に「ヴィンテージは未来をつくる素材か」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「未来じゃない。好きだからだよ。愛情のこもるものをそばに置きたい。それだけ」。
流行にもマーケットにも興味がない。ただ好きなものを集めていたら商売になっただけという。
「20年以上、好きなものを集め続けてきた。私はバイヤーじゃない、コレクターだ」


コレクターの中には「(コレクターズアイテムを)あなたのところに置いてほしい」と頼まれることもある。
「世界を転々とするより、私のコレクションに加えてほしいと言われる。愛情を持って扱うから、吸い寄せられてくるんじゃないかな」
世界中からやってきた彼の元へとやってきたコレクターズアイテムの中には、1910年代のプルオーバー(時価200万ドル)、ゴールドラッシュ時代の炭鉱から掘り出されたデニム(プライスレス)、1930年代のジャケット(同)…博物館展示級のものなどが彼の倉庫に無造作に積まれている。
―この中で一着を選ぶとしたら?
「全部愛している。一着なんて選べない」

―バンコクの混沌はあなたのセレクトに影響しますか?
そう尋ねると、サリームは頷きながら、
「バンコクは交流の街。自分がイスラムの友人からタイの古着マーケットの話を聞き、この土地にやってきて27年。混ざり合う街だからこそ、良いものが集まり、そしてそれがマーケットを作っているのだと思う」



―仕入れについては?自身の直感を頼りに仕入れることはありますか?
「今売れているものを把握して仕入れることもある。だけど品揃えはあまり意味のないことかもしれない。実は、我々の荷物タグまでコピーされているんです。つまり、それは自分たちがトレンドになっているということ。私たちの扱う商品がマーケットを作るとそう思われているということでもあるんです」
実際、日本のヴィンテージ市場の半分、韓国の7割、マレーシアの5割、ヨーロッパの4割がサリームの倉庫から流れているという。先の彼の言葉は誇張でもハッタリでもない。
―あなたが選んだ服を着る人に、どんな変化が生まれると思いますか?
彼は少し考えてから、
「ビンテージはお金で買うものじゃない。愛する心がないと買えないし、売れない。大切なものなら額に入れてでもキープしてほしい。それが本来のビンテージだ」
なるほど、ビンテージとは愛する心を繋ぐ、“心の文化”でもあるのか。
―ところで、最初に商品のどこを見る?
「倉庫で最初に見るのはタグでも色でもなく生地。それと量産品かそうでないか。ビンテージとして生きる力があるか。それを父に鍛えられた目で見るんだ。」

最後に「バンコクのヴィンテージを一枚の写真で表すなら?」と尋ねると、彼は迷わず答えた。
「チャトチャックマーケットだよ。私が最初に古着を売った場所で、妻と出会った場所でもある。すべてがあそこから始まったんだ」
世界中から彼のもとへとビンテージが集まり、吸い寄せられる。
サリーム・ガンチ──磁力と魅力を併せ持つ、唯一無二のコレクター。
彼の倉庫は、過去を伝え、未来へと手渡す“創造の空間”として呼吸している。
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