バンコクの若者エネルギーが創る未来 ソイナナから広がる歴史とクリエイティブの融合
行き過ぎた状態は振り子のように、いずれ揺り戻る。
今のバンコクも同様である。急速な経済成長により高層ビルが乱立する一方、ここ数年、古い町並みを見直そうという動きが若者たちの間で起きている。特に顕著なのがチャイナタウンの外れに位置するソイ69とソイ71のエリア(ソイとはタイ語で通りの意)。バンコクに何度か訪れた方なら、「ナナ」と聞いて真っ先に思い出すのは歓楽街の「ナナプラザ」かもしれないが、そちらではないのでお間違えのないように。
百年近く前に建てられた伝統的な商店や民家、倉庫が並び、バンコクの古くからの歴史を感じさせる地域。近年、若い世代のショップオーナー、アーティスト、クリエイター、起業家たちが注目。アートギャラリーやデザインスタジオ、インディペンデントなバーやカフェが次々とオープンし、若者やクリエイターが集まる場所となった。
ショップのオーナーたちに出店の理由を聞くと、「バンコクの歴史的な街並みを尊重しながら、新しい文化を発信する場所として選んだ」との共通の答えが返ってくる。古い建物をリノベーションしたバーやカフェ、ギャラリーやホテルは、昔ながらの雰囲気を大切にしつつ、クリエイティブな空間を生み出している。
ソイナナエリアで最も多くのインスタグラマー、インフルエンサーを集めているのが、「The Mustang Blu」。1800年代後半に銀行として建てられたこの建物は、歴史的な雰囲気を残しつつ2019年にホテルとして再生。OPEN直後からインスタグラム映えするスポットとして人気を集めた。部屋数は少なく、常に満室の状態のため宿泊は困難だが、建築と歴史、現代アートがミックスした独特の雰囲気は、併設されたカフェからも感じ取ることができる。なお、利用者が注文をすれば店内を自由に移動し、撮影することが可能。
ソイナナの魅力の本質は、バンコクの急速な開発の中で、過去を尊重しつつ新しいことに挑戦する若者たちのエネルギーにある。昔のバンコクの風景が色濃く残る中、新たなアイデアや文化が混ざり合う場所として、多くの人々を惹きつけている。チャイナタウンのにぎわいとともに、ソイナナは今後もバンコクの文化的な多様性を象徴するエリアとして注目されていくにちがいない。
取材・文・写真:山下マヌー