「なんとかなる」世界が羨むオーストラリアの“スロー”な価値観
オーストラリアでよく聞く言葉、「No worries」。直訳すれば「心配ない」という意味になるのだが、オーストラリアの人々がこれを使うときの感覚はちょっと違う。「大丈夫だから」とか「うまくいくよ」とか、そんなニュアンスに近い。「心配だからどうしよう」と慌てる=ファストではなく、「なんとかなる」とゆっくり=スローに考える。それはまた彼らの生き方、スローライフにも通じている。
世界が羨む価値観、「スロー」を掲げて生きる人々
スローライフとは、自身のスタイルや趣味を優先して日々を過ごすこと。それはなにも田舎でのんびり過ごそうというのではなく、南半球最大の都市シドニーに暮らす多くの人々も実践しているスタイルだ。自らの国を「Lucky country」とも呼び、そこでスローライフを満喫する。そんな彼らを世界の人々の多くが羨ましいと感じているのは、“最も暮らしやすい国ランキング”の類に毎年のようにランクインしていることからも裏付けられている。オーストラリアの人々が実践しているスローライフとは、果たしてどのような人生なのか? 彼らが人生において大切にしているものを教えてもらいながら、人生を「らしく」生きるための持続可能なヒントを見つけに、オーストラリア東海岸の都市であるシドニーでのインタビューをお届けする。
大切なのは、自分がピースフルであること
約500万人が暮らすオーストラリア最大の都市、シドニー。その東部のボンダイビーチはこの国のサーフカルチャー発祥の地であり、1906年に世界最古のライフセービングクラブが発足した場所でもある。毎年1万人近くと、救う命の数にも驚くが、それは多くの人々がビーチと関わり暮らしていることの裏返しだ。ここでライフセーバーとして活動するリカさんに、都市生活者のスローライフについて尋ねてみた。
「朝早く起きて、ビーチを散歩したり泳いだり、サーフィンしたり。都会のシドニーでもスローライフを楽しむことは可能です。訪れれば、レストランやバーが早い時間に閉まることに気づくはず。多くの人が、日の出とともに起きるために早く寝てしまうんです。会社勤めの人が多いシドニーでスローライフを送ることが可能な最大の理由は、上司もスローライフを楽しんでいるから。朝に波乗りをして少しくらい遅刻しても誰も気にしない。『Should be allright』=なんとかなる、という考え方が社会全体に浸透しています。とくに私の場合、スローライフの前にピースフルであることを心がけています。仕事でも街の中でも常にピースフルでいれば、気持ちも行動もスローになっていくんです。
私はこれまで52カ国を訪れましたが、オーストラリアの人々とほかの国の人たちとは考え方が違うし、ここに暮らせていることはラッキーだと思います。バリエーション豊かな自然があって、嫌なことがあってもすぐにマインドをリセットすることができるしね」
自然を守ってこそのスローライフ
オーストラリアには世界で最も多くの世界自然遺産が存在する。それは人と自然との共存が保たれているということ。自然との共存から生まれるスローライフとは? シドニー近郊に位置するブルーマウンテンズ国立公園のチームレンジャー、ヴァネッサさんに聞いた。
「この国は人口密度が低く、居住地域のすぐそばにユニークな自然が存在しています。だから必然的に自然を意識するようになりますし、上手に自然と付き合えなければ生きていけないと理解するんです。自然を守ることと、スローライフは同じです。森の中に身を置き過ごすうち、あらゆる生き物たちが共存していることがわかってくる。でもそれは、観光客を受け入れないということではありません。人々が来てくれることで地元がうるおい、そのお金でできる保護活動もたくさんあるのですから」
スタクレ/
写真:高砂淳二 コーディネーション:ジェイ・エイ・リンクス 取材&文:山下マヌー 編集:山下美咲