ミシュランシェフが魅せる 富山のサステナブルフレンチ体験
日本のアイデンティティに立ち返る
ノスタルジックな町並みが今も残る岩瀬という町がある。日本酒の町であり、歴史あるこの地に、どっしりと佇む隠れ家的な店を見つけた。ここは、日本酒と蕎麦を極めるための洗練された空間。料理は「おまかせ」のみ。店主、口岩倫彦氏がとことん蕎麦にこだわる。「蕎麦屋は料理屋とは少し違う。蕎麦つくりは職人の仕事だと思っています。この蕎麦を食べたいからこの地に来たいと思ってほしい」。彼の哲学は明確で、蕎麦を味わうために訪れる客には、一品目から蕎麦を提供する。
内装は古民家の力強さを残しつつ、ラグジュアリーな雰囲気が漂う。100年以上の歴史を持つ建物を改装し、岩瀬の風情に溶け込むよう巧みにデザインされている。
蕎麦の風味は季節ごとに変化する。「その時々の蕎麦の味を存分に楽しんでほしい」。そして、「ドレスコードは酒を飲む」と添える。たっぷりの新鮮な井戸水を使う仕込みの蕎麦と、この町ならではのペアリングを堪能することができる。
最後に出される温かい蕎麦。同じ蕎麦粉でも切り方、ゆで方を変えるとまた別の味わいに。この日は富山で採れたきのこと。
蕎麦がきは、つくる様子をカウンター越しに見るのもライブ感があってすばらしい。
酒蕎楽(しょうきょうらく)くちいわ
持続可能で最上級の食材が織りなす唯一無二のフレンチ
厨房に立ちながらそれは楽しそうに料理をする田中シェフ。まるで食材と対話しているかのように。提供される皿を見て口に運べばその思いが伝わる。
自ら生産者を訪ね、持続可能な食材を追求するうち、野菜は自家菜園を始め、捨てるはずの魚の内臓やアラを熟成させ、数年越しで肥料も生み出した。肥料作りに成功。みずみずしい採れたての野菜と富山の海の幸、山の幸はモダンフレンチに生まれ変わり、作家から買い求めた皿が光る。
隣町で採れるあまうららという大豆から搾った豆乳の料理。自家製のきゅうりやトマトから作るガスパチョジュレ、キャビアをのせて。
富山名水ポークのつくね。近くの山で採れるクロモジの葉から作った香りオイルと黒にんにくソースが美味。
田中逸平
1985年大阪府生まれ。10代後半にフレンチの料理人を志す。京都のフレンチレストランで修業を経て、2019年レストラン「レヴォ」スーシェフに就任。 2020年Trésonnierのシェフに就任。
Trésonnier
富山県富山市春日56-2 リバーリトリート雅樂倶内
050-5870-6286
4000冊の古本とハーブ園 ゴミになる資材もインテリアにしたやさしいピッツェリア
本格のピザ窯が置かれ、自家栽培のハーブ園を持つ。そして店内には4000冊の古本がぎっしり。「dadada_」は、富山の外食産業に革命を起こす老舗飲食店と、富山の古紙回収リサイクルのパイオニア「島田商店」とのタッグで完成した。古紙を利用したサステナブルなインテリアで、ゴミになるものに新たな価値をつけた。
オーナー本田大輝氏は「コアコンセプトは、アナログへの立ち返り。紙の本に囲まれた空間で、炎の揺らぎを眺め、基本に立ち返った薪料理を食べてほしい。そしてスマホに奪われていた時間を、食事を共にしている目の前の人や料理に向けてみてください」と言う。地元の人に、そして観光客にも愛される富山を作る。
小川悠
神奈川県出身。イタリアンレストランにて、約12年間シェフ・副料理長の経験を経たのち、SHOGUN PIZZA、dadada_統括シェフに就任。
dadada_
撮影 yOU(河﨑夕子)、加藤光
文・編集 中野桜子