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富山の伝統を越える和紙の新たな可能性 唯一の継承者が語る 

富山の伝統を越える和紙の新たな可能性 唯一の継承者が語る 

TRAVEL 2024.11  富山特集

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伝統や決まりにとらわれなくてもいい 心に残る和紙を作る

立山の小さな集落で、和紙職人・川原隆邦さんに連れられて製作所の裏山へ行く。原料である楮(こうぞ)が生い茂る。空き家の納屋を改修し、楮の栽培、煮る、木槌で叩く、紙漉(す)き、乾燥などの全工程をひとりで行う。

川原さんは、400年ほど前から障子で親しまれた「蛭谷(びるだん)和紙」の唯一の継承者だが、独学でここまで辿り着き、今では世界で注目されている。その作品は「伝統工芸」の枠を度外視する。「伝統工芸から出たかった。材料も、これでないとダメ、という決まりはないと思っています。伝統や決まりに縛られると、和紙の世界は終わってしまう。もちろん障子、便箋など、古典的な和紙も大切。でも、自分は特殊なものが作れるので、そのほうが面白いじゃないですか。今、建築の素材としてのオーダーが多いですが、そうやって世界中の人の心に刺さったら、嬉しいです」。

実際に手ほどきを受けたことはない。師匠の米丘寅吉さんは当時83歳で、体力の衰えから引退していた。口頭での教えをもとに、独学で研究した。

完全受注制。11mの大作も作れば、地元神社のお札も作る。東京・虎ノ門駅の、ガラスとともに張り巡らされた和紙壁面は圧巻。アメリカやフランスのオーダーも多い。

川原製作所

富山県新川郡立山町虫谷29

Instagram kawahara31

土から作り、静かにろくろと向き合う創作活動は心から楽しい

430年以上の歴史を持つ、富山を代表する「越中瀬戸焼」。その第一人者の一人、釋永陽さん。「とても古典的でオーソドックスなスタイルで作っています」。そう言いながら、その作品は誰にも真似できない技術で創作され、美しい曲線を描く。近くの山で土作りをし、釉薬も手がけるという。

人気の代表作、花入れ「mari-mari」。「花を生けるのは難しいと思っている人が多いですが、もっと自由に楽しんでほしいという些細な思いが始まり」。

土作りから行う陶芸家は多くない。父は陶芸家・釋永由紀夫氏。「環境は揃っていましたが、真剣な父の顔を見ていただけで、18歳で初めて触りました。ものづくりをする人に囲まれて育った影響は大きかったかもしれません。受注をいただいて制作に追われることもあります。生みの苦しみとか、辛いという感情もありますが、作ることが楽しいと思う気持ちがとても大きいです」。その微笑みの優しさは陽さんの全ての作品に表れ、国内外の人々を魅了する輝きを放つ。

「この土があってこそ。陶土に恵まれた土地です」。白くきめ細やか、ねっちりと粘りけがある。
自分の窯とは別に、曾祖父から引き継いだ登り窯を70余年使い、20年前に同じ場所に新たに登り窯を築窯。父・由紀夫さんは現役。

夫は和紙作家の川原さん。虫谷の集落の納屋を改修し、それぞれの工房を並べる。暮らしに寄り添う器の作品も人気。

川原隆邦(右)和紙職人、経営者。2003年に伝統工芸、蛭谷和紙最後の継承者の故・米丘寅吉氏に師事、唯一の直系継承者となる。数々の賞を受賞し、国内外で注目される。 釋永陽(左)富山県立山町生まれ。作陶する父の後ろ姿を見て育ち、陶芸の道に進む。2014年に独立し、立山町虫谷の古民家に工房を移す。

釋永陽(しゃくながよう)陶芸

職人でなく「作家」ミリと秒の世界線で作る美しい作品

富山は「ガラスの街」といわれ優れた作家が名を上げる。発端は300年以上の歴史を持つ売薬。明治・大正期は薬びんの製造が盛んだった。しかし、太平洋戦争の空襲でガラス工場が被害を受け、さらにはプラスチックの登場で工房が激減。当時の市長は富山ガラスの工芸としての将来性を目指し、公立では世界一の設備を誇る学校が誕生。富山にいい作家が定着してほしい……安田さんはその思いを受け継いだ富山ガラス造形研究所の第1期生だ。非凡なセンスで独立を果たし、数年後、市に推薦され岩瀬に工房を移した。

「職人ではなく作家だと思って向き合っています。決まったデザインを正確に作るのではなく、デザインを考えて技術を磨いて形にする。大量生産にできないことをやろうとするからこそ、複雑なものを作るエネルギーが湧くのかもしれません」

安田さんが得意とするレース文様。高い技術を要し、計算し尽くされたやわらかで繊細な技法。皿やグラスは全国の飲食店から注文が殺到する。
1200度の溶解炉。工房は一年じゅうその熱を帯びる。冷めると中のガラスが固まり膨張して破裂してしまうため、止まることなく常に自動運転される。

ギャラリーは、岩瀬地区の廻船問屋の土蔵をリノベーションした歴史ある建物で、工房も同エリア。繊細な文様にこだわり、個性的なデザインを生みながら、食器・花器・オブジェなどを制作する。通常2~3人でやる作業もすべて1人でこなす。選ばれた人にしかできない技を持ち、ガラスアートの世界において国内外で高く評価されている。

安田泰三

兵庫県神戸市生まれ。18歳で富山ガラス造形研究所・造形科で第1期生として学ぶ。1993年卒業、1994年同研究科修了。1997年「Taizo Glass Gallery」を設立。現在は富山市岩瀬地区の蔵を改装した工房で制作に励む。

Taizo Glass Gallery

富山県富山市東岩瀬町109

076-438-6205

受注販売が基本。

酒造の国富山「また笑い語り飲むために」復興ボトル誕生

酒造の町、岩瀬を歩いていたら、ふと、華やかなラベルの日本酒を見つけた。富山県酒造組合による『復興2024ボトル』。イラストを手がけたのは、画家の伊東楓さん。現在ドイツを拠点に活動する彼女だが、令和6年の能登半島地震当日、富山の実家に帰省中、震災を経験した。「また昔のように、家族や友人と、いろんな場所で集まり囲み合って、笑いながら日本酒を飲み明かせる日が戻ってくるように。復興への想いを、今回のタイトルと絵に託しました」。プロジェクトには18の蔵が参加し、売上の全額が被災地へ寄付されている。

伊東 楓 | いとう かえで

2016年、アナウンサーとしてTBS テレビに入社。幅広いジャンルの番組で活躍し、2021年、画家に転身。現在はドイツ・ベルリンを拠点とし、個展、ブランドとのコラボ、企業案件にて国内外で活躍する。 Instagram kaede_ito004

伊東 楓 写真

富山県酒造組合

富山県富山市丸の内2-2-10

076-425 -1851

購入は特設サイトから https://kaededesign.base.shop

撮影 yOU(河﨑夕子)、加藤光
文・編集 中野桜子

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