“ゴミになるものをゼロにする”上勝町「HOTEL WHY」に宿泊したら〜〝未来〟を紡ぐ徳島6
未来のために、地球にも人にも優しい取り組みを行う人々を取材した徳島特集。誌面では載せきれなかったことが実は山ほどあるのだが、そのなかのひとつ、上勝町の「ゼロ・ウェイストセンター」内にある「HOTEL WHY」に宿泊して考えたことを少しだけ書きたいと思う。
日本で初めての「ゼロ・ウェイスト」宣言
「HOTEL WHY」について、詳しくは本誌を読んでいただくとして、ここでざっくりと説明しておくと……、2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト」を宣言し、リサイクル率80%を達成している上勝町には、家庭から出たゴミを町民自ら45種類に分別するゴミステーションがあり、「HOTEL WHY」はそのゴミステーションのある「ゼロ・ウェイストセンター」の宿泊体験施設だ。
「ゼロ・ウェイストセンター」の建物は、上空から見ると「?」の形をしていて、「?」の「・」の部分が「HOTEL WHY」。建物には主に町内から集められた廃材などが使われており、その試み自体が既にユニークでワクワクするものなのだが、そのうえ、リサイクルやゴミゼロといった言葉に付きまとう「面倒くさい」「辛気くさい」といったネガティブなイメージを見事に払拭するほどのデザインセンスの良さを感じた。とにかく、スタイリッシュでカッコいい、のである。
ゴミを「45 種類」に分別!?
ここに泊まる醍醐味は、そんなハイレベルにリサイクルやアップサイクルされた建物やインテリアに囲まれて過ごすことだけでなく、やはり、例の、“ゴミを45種類に分別する”という体験だろう。
客室に入ると……すぐ発見! 温泉宿ではバスタオルや歯ブラシなどが収納されているような、ビーチリゾートではビーチタオルやサンダルが収納されているような、天然素材の手編みカゴバッグがふたつ。
中には、きれいなプラスチック容器包装、紙類・金属、生ごみ、汚れているプラスチック・紙類・木材、飲料ボトル、どうしても燃やさなければならないもの、と書かれた6つの容器が収納されていた。
宿泊した翌朝、私たち取材スタッフは6つの容器に自分たちが出したゴミを分別して、ゴミステーションへ持って行き、45種類の分別にいざトライ。初めての45分別は、紙ゴミだけでも9分別とあって、「これはどっち?」と迷うことも。しかし、分別カゴにはわかりやすい説明イラストが掲示されていて、宿泊客にはホテルスタッフさんがそばでアドバイスしてくれるので安心だ。
あたりめの容器で後悔
印象深かったのが、タルタルソース付きのあたりめの容器、もとい汚れているプラスチックゴミ。夜中に小腹が空いて、近くの温泉施設でうっかり買ったあたりめをつい食べてしまったのだが、その透明プラスチックのトレイにタルタルソースがべっとりついてしまっていた。プラスチックゴミは、汚れているものときれいなものでは処理費用が大きく異なる。きれいなものであれば、処理費用が無料になることも。ならばと、分別所横にある水道でトレイをきれいに洗ったのだが、油分まで完璧に洗い落とすことはできなかった。タルタルソースは容器に絞りださず、あたりめに直付けして食べればよかった。後悔先に立たず。
敷地内にはコンポストも!
そしてもうひとつ、生ゴミの捨て方も印象的だった。ホテルスタッフさんに「こちらです」と案内されて向かったのは広場の隅にあるコンポスト。
土の中の微生物が生ゴミを分解してくれるんだそう。その証拠に、2020年のホテルオープンから土の量は増えても減ってもいないとのこと。生ゴミは分解されて、空気中に消えていったのだ。そして不思議と、コンポストからは生ゴミっぽいにおいが全くしない。微生物に感謝しつつ、朝食のみかんの皮とコーヒーかすを土の中に埋めた。
分別体験をして思ったのが、こうした施設に宿泊するにあたって個包装のスキンケアグッズや使い捨て歯ブラシなどを持ち込まないようにしたのだが、それでもゴミは出るものなのだな、ということ。もちろん、分別体験をするために、朝食のみかんの皮など、ある程度のゴミが出るようにとのホテル側の配慮もあってのことだと思うのだが。
あたりめの容器から思うに、食べ物をはじめとする商品の包装だけでもなくなれば、大幅なゴミ削減になるのでは。上勝町には、食べ物や洗剤などの量り売りのショップ「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」もあり、あれはとても理にかなった販売方法なのだな、と思った。
できることから続けてみれば、きっと…
そして、上勝町の「ゴミになるものをゼロにする」という目標は、かなり難易度が高いのだと改めて実感。しかし、だからといってなにもやらないわけにはいかない。たった一泊といえども「HOTEL WHY」でゴミと向き合った経験から、いままでどおりの暮らしをするわけにはいかない気がするのだ。肉は近所の精肉店で必要な分だけ買う。飲み物は自宅で用意し、水筒に入れて持ち歩く。1歳になる娘のオムツを布オムツに……は、ごめんなさい、できませんが、できることから続けてみれば、きっとゴミは減る。いつかゼロに近づいていく。
そうそう。みかんの皮のことしか書いてなかったのだが、朝食がとてもおいしかったこともお伝えしておかなければ。
私たちがいただいたのは地元の菓子工房によるベーグルに、徳島名物のフィッシュカツや地元産の野菜やチーズを挟んだサンドイッチ。上勝晩茶を使用した、香ばしいナッツグラノーラには一目惚れならぬ一口惚れし、「RISE & WIN Brewing Co. BBQ & General Store」で購入して帰ったほどだ。そしてその朝食が入っていたのは、洗って何度でも使える木製ワッパ。抜け目がない。
HOTEL WHY
撮影:鈴木大樹
取材&文:吉田けい
編集:小嶋美樹