知床・羅臼の守り神シャチの聖地へ 年間1万8千人を案内する観光船船長の挑戦
アイヌ時代も今も羅臼を守る神、海の王者・シャチ
知床半島は、知床連山を挟んで西側が斜里(しゃり)町、東側が羅臼(らうす)町にまたがる。羅臼から望むのは、根室(ねむろ)海峡で、ここは流氷がやってくる世界最南端。
流氷がもたらす特殊な生態系のサイクルが息づいているが、特に根室海峡では流氷がGW頃まで留(とど)まることで植物プランクトンが爆発的に増える。そして動物プランクトン→魚類→ワシやトド、クマと続くが、ここで海での生態系の頂点に立つのが「海の王者・シャチ」。何十頭ものシャチの群れがやってくる。アイヌの人々は「レプンカムイ(沖の神)」と呼んだそうで、カムイ=神として敬った。

そして今なおシャチは、羅臼の「守り神」的存在。世界でもこれほど陸近くで野生のシャチの群れを目にできるのは羅臼だけ。海外からも多くの人が一眼レフを担いでやってくる。知床連山をバックに、突如現れる巨大なヒレ、黒と白の影ーーその間近さと雄大な動きに心が揺さぶられ、忘れられない瞬間となる。シャチ、マッコウクジラ、イルカ、オオワシ……。生き生きと動き、舞う生命の姿に、ここがいかに彼らのオアシスなのかが分かろう。

「知床ネイチャークルーズ」として観光船「エバーグリーン」を操縦する長谷川正人船長の案内で海へ。「会えるか会えないか」皆がドキドキしながら乗船する。羅臼で3代続く漁師の息子として生まれた長谷川さんは、24歳から「第三十八 長榮丸」船長として漁業を継いだ。スケソウダラ漁や、イカ釣り操業で能登半島まで遠征する日々。しかし、奮闘する一方で漁獲量は年々減少……あるとき決意し、漁師を辞め、2006年に観光船事業に乗り出した。

生まれ育った羅臼のよさを熟知する長谷川さんだからこそ、適任だった。この挑戦は、想像を遥かに上回り、乗客数は毎年増え続け、現在は2艘の船で年間約18000人を案内する。
知床ネイチャークルーズ



羅臼神社。アイヌでも神とされるシャチのお守りが大人気。
知床総鎮守 羅臼神社
北海道目梨郡羅臼町栄町127-1
撮影 原ヒデトシ
取材・文・編集 中野桜子
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