瀬戸田の恵みが導くサスティナブルな「フレンチ」「塩つぼ」「コーヒー」「ワイン」
50km圏内で収穫できる、地の食材にとことんこだわったフレンチ。
味わったことのない野菜の味わいに圧巻。
本来捨ててしまう部分まで野菜のポテンシャルを引き出す
Azumi Setodaのダイニングでは、旧堀内家のダイニングテーブルにて、瀬戸内の食材を使ったフレンチが振る舞われます。統括する秋田シェフは、東京のレストラン時代にも一つ星を獲得する腕前で、季節の野菜を余すところなく調理する「サスティナブルなフレンチ」が得意。
秋田シェフの野菜料理はメインになる満足度の高いもの。もちろん瀬戸内が誇る魚介のお料理もたっぷりと堪能できます。「コンセプトは、半径50km圏内でとれた食材を使用すること。野菜と、そしてタコや鯛など瀬戸内でとれる鮮魚をメインに、その時々の食材で構成しています。畑に野菜の成長を見に通いながら、仕入れされる日まで、どう調理するか考えを温める。とても楽しいですね。東京を離れるときに、やりたかったことのひとつです」。秋田シェフ自 身も自家菜園で、野菜を育てていると言います。このコースを体験したら、〝一皿一皿への愛がすごい〞これに尽きるのではないでしょうか。堀内家で使用されていたお皿に盛りつけられたフレンチは、その味わいの奥行きを表現してくれます。
人参の一皿。3種類の人参を使って、数種類の調理法を用いている。数種類の技法を用いるのはフレンチの伝統的な「デク リネゾン」という手法で、例えば人参を、ピューレ、パウダー、ボイル、といろいろな 調理法で堪能できる。
前菜3種。エビや刺身もすべて地の食材。
タコはシグネチャーメニュー。三原のワイナリー瀬戸内醸造所で作られた“タコのための赤ワイン”をぜひ合わせてほしい。
豚肉とごぼうのグリル。
Azumiのダイニングは外来のかたの予約も可能(3日前まで)。
秋田絢也(あきた・けんや)
福岡のフレンチレストランや京都ホテルオークラでの勤務を経て、2007年渡仏。ロワールの星付きレストランを皮切りに、サボア地方の2つ星レストラン「レテラス」や1つ星レストラン「オーフラブール」などで部門シェフ、スーシェフとして働く。2つ星「ドメーヌオードロワール」を経て、2015年にアヌシーの2つ星、2019年にミシュラン3つ星に輝いた「クロデサンス」で約4年に渡りスーシェフを務める。2020年開業の「Nœud.TOKYO(ヌートウキョウ)」では、『ミシュランガイド東京 2022』で1つ星・グリーンスターの初獲得に導く。2022年7月、Azumi Setodaのヘッドシェフに就任。
かつて製塩業で栄えた地に職人が捧ぐ、使い心地を追求した“塩つぼ”。
しおまち商店街と“塩つぼ”のはなし
今回訪れた〝しおまち商店街〟は、瀬戸田で賑わう、懐かしさを感じさせる商店街。現在は塩が作られる様子は見受けられませんが、その昔は盛んで、堀内家も製塩業で栄えたといわれています。また、生口島への海の玄関口である瀬戸田港を望む立地でもあることから、ここは文字通り〝塩〟の町であり、〝潮〟を待つという意味をも内包して、〝しおまち商店街〟と言われているそう。そんなしおまち商店街の入り口に位置するAzumi / yubune に、堀内家にちなんだ〝塩〟を入れるための〝塩つぼ〟が売られています。陶芸家の惠谷幸史氏による作品で、この地の素材を用いており、塩を入れたときの使用感は抜群。考え抜かれた構造は、瀬戸田への贈り物ともいえる作品です。
この塩つぼは、生口島(瀬戸田)の隣 の高根島の土を陶土に混ぜて作られており、底や蓋に輝く美しいグリーンやブルーは、砂浜に落ちている〝シーグラス〟を再利用しています。シーグラスを混ぜ込み焼くことで、土と溶け合った様 は実に美しく、個々の違いも良いアクセントに。また、同じく砂浜に落ちている牡蠣殻を添えて焼くと、オレンジ色に発色するというのも不思議! 白い釉薬は 柑橘の木の灰と藁灰を使っており、まさ に瀬戸田のエッセンスで構成された焼き物。焼き物の構造上、塩が湿気から守られ、大中小のサイズ感はそれぞれの用途にフィットするように作られています。出会えたときは運命を感じる、個々の表情に溢れた作品。
シーグラスは、海に流されたビンなどのガラスの破片が流されては打ち寄せられ、角が丸くなって砂浜に落ちているもの。どんな色になるかお楽しみ。塩つぼは、yubuneの売店に売られている。
惠谷幸史/えや・ゆきふみ
1977年生まれ。大学卒業後2年間備前焼を学ぶ。26歳から30歳まで備前焼窯元で働いたのち、尾道の向島で独立。向島東製陶所にて、器を製作・販売する。
Instagram @m_h_seitousho
サスティナブルのその先へ。〝オーバービューコーヒー”が地球にできること。
未来の気候変動を抑え、おいしいコーヒーを追求する
SOILの隣の蔵には、コーヒーの焙煎所があります。毎週火曜日、黙々と焙煎機に向き合うのはOverview Coffee Japan 代表の増田啓輔さん。ここにある立派な焙煎機に任せておけばおいしいコーヒーが出来上がるようにも思えますが、誰にでもできるものではなさそう。「気候や豆のコンディションによって、香りや感覚を研ぎ澄まし、人の手で行います。そして、このマシンと使っているソフ トウェアのおかげで焙煎時の豆の温度を測れたり、ログを残すことができ安定的な焙煎が可能。数種類の豆を焙煎し、全国に出荷して います。また他の焙煎機に比べると、75〜80%もガスの使用率がカットされるので、環境負荷が少ないのもメリットです」。そもそも、環境にやさしいとされる〝1オーバービューコーヒー〟とは何なのか、日本ではまだ聞き慣れない人も多いのではないでしょうか。 「まず、オーバービューコーヒーは、〝リジェネラティブ・オーガニック〟農法のコーヒー豆を推奨しています。〝リジェネラティブ・オーガニック〟とは、化学合成物質、遺伝子組み換え作物などを使わないオーガニック農法に加え、気候変動と戦うために土の健康を高めることを目標とする農法。土を耕さず雑草や植物などの有機物で土の表面を覆うことで、人間の生み出した二酸化炭素を貯留し、気候変動を抑制します。世界ではコーヒー以外にも、畜産、海上養殖、農家など色々なところでこの農法が推奨されている。リジェネラティブ(再生)ですから、サスティナブルのさらに先を見つめたい、それが、オーバービューコーヒーが地球にできるミッションだと考えます」。
SOILのワークショップとして、コーヒーの淹れ方やテイスティングも体験できる。
焙煎したてのコーヒーは香りの格が違います。現在は6種の豆を販売している。
焙煎前と焙煎後の豆。コーヒー豆はリジェネラティブ・オーガニック農法のもの。
Overview Coffee
海辺の畑でぶどうが育つのも、大三島の穏やかな気候ならでは。
栽培、収穫、醸造、瓶詰もすべて行う海辺のワイナリー
瀬戸田からしまなみ海道に車を少し走らせると、そこはもう愛媛県今治市に属する、大三島。瀬戸内海で5番目に大きな島で、温暖な気候に恵まれ、みかんを中心とした農業が盛ん。キラキラと輝く海がどこまでも続く海道沿いに、一軒のワイナリーが佇みます。海に面していながらぶどうの栽培、というのはあまり聞き慣れないものですが、それを叶えるのが、瀬戸内海の気候。「大三島みんなのワイナリー」は、もともと農家さんの高齢化で荒れてしまったみかん畑を2015年からぶどう用に改良しようという 建築家の伊東豊雄さんのプロジェクトで始まりました。耕作放棄地はワイナリーのぶどう畑としてよみがえり、研究を重ねながらおいしいワインの醸造にまで成功しました。島を愛する人々に支えられているワイナリーです。種類も、マスカットベリー、シャルドネ、キャンベルアーリー、メルローなど万別。ワイナリー醸造責任者の川田佑輔さんは、ここのワイン作りに尽力するため、島に移住してきたといいます。「島の中ですべて作る、というのがこのワイナリーの魅力です。海が見える畑で育ったワインは果実味やミネラルのバランスも抜群。病気に悩まされる年もありましたが、特に今年はおいしい年。日本のワインのおいしさを味わってもらえると思います」。甘くてジューシーなぶどうのジュースや、島ならではのみかんのお酒も人気。瀬戸田のレストランで飲んだワインのおいしさに訪ねてくる人も少なくないのではないでしょうか。
大三島みんなのワイナリー(醸造所)
大三島みんなの家(ワイン販売所)
案内人/鬼崎翔大 撮影/尾原深水 編集/中野桜子