瀬戸内現代アートが鮮明に捉える島の歴史と人々の暮らし【犬島×笠岡】
【犬島】島の住民とアーティストが近く作家が根付く

伝統に裏打ちされたそれぞれの色を継承する傍ら、色とりどりのアートやデザインによる地域振興の動きもめざましい。岡山市で唯一の有人島である犬島(いぬじま)はかつて採石業や銅の製錬が主産業であったが、近年では香川県の直島(なおしま)や豊島(てしま)と同様、アートを取り入れた島づくりが盛んにおこなわれている。
これらの島で美術館運営などの事業を手がける福武(ふくたけ)財団で広報を務める早野佳苗さんは、犬島について次のように教えてくれた。
「3つの島の中で最も小さく、移動手段は徒歩のみ。だからこそ、島の住民の方々とアーティストの距離が近く、完成した作品もここに滞在して制作した作家も、家族のように深く愛され土地に根付いていると感じます」

犬島精錬所美術館は、かつての銅製錬所の遺構を保存、再生。建築家の三分一(さんぶいち)博志による、機械式の空調を使わず自然エネルギーのみを利用して温度を保つ構造が採用されている。内部には柳幸典(やなぎゆきのり)が建築と連携しながら、この地の歴史的背景に触発された恒久作品を展示。

かつての石切り職人の家の跡地に道路用の塗料を用いて描かれた、淺井裕介の絵画。

ブラジル出身のベアトリス・ミリャーゼスは、島の豊かな自然から感じ取った生命力を作品に。

荒神明香(こうじんはるか)は角度や焦点距離が異なる約4,000枚ものレンズを通し、見方によって変化する物事のあり方を提示した。

島の南側の海岸から瀬戸内海を望んで佇たたずむ「光と内省のフラワーベンチ」(2022)は、小誌連載「ライト、フライト」の執筆陣にも名を連ねる大宮エリーによる「INUJIMAアートランデブー」というプロジェクトの一環。花々の豊かな色彩をそっと光が透過する。
犬島 アートプロジェクト
https://benesse-artsite.jp/island/inujima
※犬島のアート施設は例年冬季休館となるため、訪れる際は事前確認を。
【笠岡】多分野の才能が集まり未来へ向けた可能性を創出
県の南西部に位置し、穏やかな瀬戸内海に面した笠岡。ここで145年の歴史に幕を下ろした小学校と幼稚園の学び舎をシェアアトリエとして蘇らせた「海の校舎」が、注目を集めている。
代表の南智之(ともゆき)さんは近隣に工房を構える家具職人だったが、廃校の噂を知って即座に建物の再利用を申請。3年の時をかけ、周囲の協力とともに新たなコミュニティの場を始動した。

建物にはできるだけ手を加えず、各教室にそれぞれのクリエイターが入居する形をとる。ふと廊下を曲がれば児童たちの駆けまわる足音や笑い声が響いてきそうな、情趣に富んだ雰囲気が。
「以前から、いろんな業種の人が一緒に仕事できる施設があればと構想していて。広く立派で心地よい雰囲気に“ここで仕事したい”と確信しました。店を出すなどの直接的な営利が目的ではありませんが、ここをきっかけに笠岡に興味を持ってくれる関係人口を増やしていけたら」



「ここの運営を始めてからてんてこまいですが、普段はオーダーメイドの家具製作や包丁研ぎを受け付けています」


笠岡発で高い縫製技術を誇る老舗の「石田製帽」のショールームも。
シェアアトリエ 海の校舎
岡山県笠岡市大島中2553
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