2000年の歴史を継ぐ能登上布 復興と能登観光の今を照らす伝統の灯火
その一枚に、能登の豊かな自然を閉じ込めて
「紙=白という時代、祖父がいきなり草花を漉(す)き込んだ和紙『野集紙(やしゅうし)』を作り始めて。子どもだった私は『なんだ、これ!?』って思ってました」
能登仁行和紙の三代目・遠見和之さんはこう言ってほほえ微笑んだ。自然のものをそのまま漉き込むというスタイルで祖父の代から、和紙を作り続ける。杉皮、草花、桜貝に海藻、そして三代目は土まで漉き込んだ。
「震災では貯水槽などの施設が大きな被害を。9月の水害では工房が水没しました。儲からん紙の仕事、祖父の代からなんとか粘って続けてきたわけで。この程度のことではやめられない。体が動くうちは続けていきたいと思います」
能登仁行和紙(のとにぎょうわし)
石川県輪島市三井町仁行袋前
伝統の灯火は、地域の“希望”に
江戸時代からろうそく生産が盛んだった七尾市。明治25年の創業以来、高澤商店は100年以上もの間、県下で唯一、伝統の七尾和ろうそくを作り続けてきた。今年1月1日。地域の人々にも愛された築100年超の土蔵造りの店舗が震災により全壊。しかし翌2日、同社は早々に店の再建を決める。五代目・高澤久さんは言う。
「地震で多くのものが壊れ、皆さんの心も沈んでいた、こういうときは、希望になるものがあったほうがいいと思った。もしかしたら、私どもが店を再建できたら、地域の皆さんの希望の一つになれるんじゃないか、そんなふうに考えたんです」
3月中旬から仮店舗で営業中。「長く地元のお客様に支えられていて、仮店舗を開く前は『ろうそくは、どこで入手できる?』と地元の方々から問い合わせを多数いただきました。そういった声にも背中を押してもらってます」。
倒壊した店舗は2027年の再建を目指している
七尾和ろうそく 高澤商店
石川県七尾市一本杉町37番地(仮店舗)
古墳時代から紡がれた、唯一無二の麻織物
「2000年の歴史を誇る麻織物、それが能登上布(のとじょうふ)です」
こう話すのは山崎麻織物工房の四代目・山崎隆さん。
「リネンではなくラミー〈苧麻(ちょま)〉が原料。蝉の羽のような透け感や軽さが特徴で、最上級の夏着物になります」
山崎さんの姪で次代を担う久世英津子さんが、言葉を継いだ。「櫛押捺染(くしおしなつせん)と呼ばれる職人の手染技術から生まれる、緻密で凛とした、とても現代的な『絣(かすり)』というのも大きな特徴です」
能登上布唯一の織元。築90年の工房は準半壊と判定されたが「歴史を絶やさず能登上布を守ってほしい」という多くのファンの声を受け、震災の10日後に機織りを再開。
ふくべ鍛冶の工場で、熱した鋼を鍛錬するのは「鍛冶屋の仕事に興味がある」と震災後の6月、能登町に移住し入社した20代の新人。技術を繋ぐ彼のような存在もまた、能登の希望だ
能登上布 山崎麻織物工房
石川県羽咋市下曽祢町ヲの部84番地
案内人 浦出真由(ヌシヤ株式会社代表)
取材・文 仲本剛
撮影 須藤明子