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寿司文化を築いた酢の本拠地 オリジナル味ぽん作りで日本の味を体感

寿司文化を築いた酢の本拠地 オリジナル味ぽん作りで日本の味を体感

TRAVEL 2025.02 西三河・知多特集

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愛知県の中央部、岡崎市や碧南市を含む西三河地域と、尾張地域の海沿いにある半田市を含む知多半島には、日本酒や味噌、しょう油、酢やみりんなどの醸造調味料の蔵元が数多く集まる。その歴史は古く、200年以上続く老舗も少なくない。そして、この地域の醸造文化こそが、当時「世界最大の都市」とまで言われ栄華を誇った江戸の胃袋を支え、今日の日本食文化の礎の一端を担ってきたことをご存じだろうか。西三河・知多の醸造文化の歴史と今、未来に向けた取り組みをみていきたい。

食品メーカーの「ミツカン」が手がける体験型博物館「MIZKAN MUSEUM(通称MIM)」がある愛知県半田市は、今や世界的企業となった「ミツカン」創業の地であり、今も本社屋がある場所だ。

ミツカンの創業は、文化元(1804)年。この地で酒造業を営んでいた初代・中野又左衛門が、酒造りの際に出る粕からの酢造りに成功したのが始まりだ。こうしてできた「粕酢」は、それまで主流だった純米酢よりも安価で旨みがあった。当時の江戸では、魚を米と塩で発酵させて作る「なれずし」に代わり、仕込みに時間を要しない、握り寿司の原型となる「早ずし」が台頭し始めた頃。そこに目を付けた又左衛門が、粕酢を江戸に売り込んだことで握り寿司ブームに火が付いたという。今や日本食の代名詞となった寿司は、半田で生まれた粕酢によって発展したと言っても過言ではない。

「MIM」には、こうした歴史が学べるデジタルを駆使した体験スポットや、実際の酢の醸造風景を驚きの仕掛けで見学することができる箇所が設けられている。その場で撮影した自分の写真をラベルにできるオリジナルの「味ぽん」作りも人気だ。美術館のようなスタイリッシュな館内で、醸造文化の壮大な物語に耳を傾け、歴史を再体感してみてはどうだろう。

200年以上の歴史をたどる「時の蔵」ゾーンにある巨大船は、江戸時代、半田運河から粕酢を江戸まで大量運搬していた全長約20メートルもの「弁才船」を実物大で再現したもの。甲板の上に立って見る大型スクリーンを通して当時の航海を体感できる仕組みも面白い。

周囲の景観に溶け込む黒壁の建物。半田市の地域ごとの法被のデザインが並ぶ回廊や半田運河を絵画のように切り取った窓などデザイン性に富んだ館内には、子どもも夢中になる体験型展示が豊富。創業当時からの粕酢「純酒粕酢 三ツ判山吹」や、ここでしか入手できない粕酢「千夜」を購入できるショップも。入館はHPから要予約。

MIZKAN MUSEUM (MIM)

愛知県半田市中村町2-6

https://www.mizkan.co.jp/mim

半田運河沿いには黒壁の蔵が数多く残され、江戸時代の面影を伝える。現役で使用されているものも多く、運河沿いを散策すれば醸造調味料の香りがただよってくることも。

250年の伝統を守る 唯一無二の最高級みりん

江戸時代より「灘の酒と三河のみりんは一文、高く売れる」と名高い三河地方のみりん。なかでも安永元(1772)年創業の「九重味淋」は「三河みりん発祥の醸造元」といわれる老舗だ。

1900年開催のパリ万博にも出品された過去を持つ九重味淋の最大の特徴は、創業当時と変わらぬ手間暇かけた製造工程にある。良質なもち米からできたもろみは、蔵人が混ぜ合わせる「櫂入れ」を行いながら、タンクで2カ月ほど糖化熟成。その後、昔ながらの「佐瀬式圧搾機」で二晩かけて搾り取られると、築300年を超える蔵で熟成を待ち、完成となる。

上の写真は、圧搾後に残るみりん粕を酒袋から出している職人。

大量生産のみりんが数カ月ほどでできるのに対し、九重味淋は約1年半。これが変わらぬ蔵と道具を使い、この地で頑なに守られてきた醸造方法だ。だからこその比類ない味がここにはたしかにあるのだ。

国内産水稲もち米と米こうじ、米焼酎のみを使用した「九重櫻」は、一流の料理人からも愛される本格本みりん。歴史ある建物やみりん造りを学べる蔵見学は水・木・金曜日に開催(要予約)。

九重味淋株式会社

愛知県碧南市浜寺町2-11

https://kokonoe.co.jp

今と昔を抱擁する 琥珀色の白しょう油

年月を重ねた雄大さを醸し出す大きな木桶の下部にある栓を抜くと、美しい色をした液体が勢いよくあふれ出す。

享和2(1802)年創業の「ヤマシン醸造」がある碧南が発祥だと伝わる白しょう油は、一見しょう油には見えぬ琥珀色が特徴だ。一般的なしょう油よりも小麦の分量が多いこと、醸造期間が3カ月と短いことで、そのまろやかな甘みと色が生まれる。素材本来の色を活かすしょう油として吸い物や茶碗蒸しなどに向き、この辺りの家庭だけでなく全国の飲食店で重宝されてきた。近年では淡色のスープを売りにするラーメン店での需要も高い。

ヤマシン醸造は、伝統の味を守りつつも、白しょう油の新たな可能性を広げる調味料の開発に積極的だ。挑戦を続けるその姿勢こそが、長い時を経てなお愛される蔵元の理由だろう。

木桶の中で熟成の進むもろみの目視での確認は、職人が毎日行う重要な工程。電話で予約の上、蔵見学も可能(平日のみ)。伝統的な「白しょう油」だけでなく、エキストラバージンオリーブオイルに8種類のスパイスなどを加えたイタリアンテイストの「オリーブ白しょう油」なども近年の人気商品。

5000~6000リットルものしょう油が入る巨大な木桶が並ぶ「ヤマシン醸造」の蔵。江戸の創業当時より変わらぬ形状の木桶が使われ、この木桶でないと同じ味が出ないという。

ヤマシン醸造株式会社

愛知県碧南市西山町3-36

https://www.yamashin-shoyu.co.jp

写真/秋倉康介 取材・文・編集/小嶋美樹

西三河・知多への翼
東京(羽田)などからANA便で中部国際空港セントレアへ。 岡崎へは車で約1時間、碧南へは車で約40分、 半田へは車で約30分。

※運航情報は変更になる可能性がございます。最新の情報はANAウェブサイトをご確認ください。

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