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誰よりも地元の食文化を愛する 「南三河」料理人が誘う醸造の歴史

誰よりも地元の食文化を愛する 「南三河」料理人が誘う醸造の歴史

TRAVEL 2025.02 西三河・知多特集

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「この辺りは魚や肉、野菜などの食材だけでなく、特有の醸造調味料が驚くほど豊富なんです。でも、東京での修業期間が長かった私は、その活かし方を何ひとつ知りませんでした」

そう話すのは、みりんや白しょう油の蔵元が集まる碧南市で日本料理店「一灯」を営む長田勇久さん。この地で100年続く日本料理店を営む家庭に生まれ、大学卒業後には東京の料亭で6年間修業。その後、実家に戻り腕を振るうようになると、そんな葛藤を覚えたそう。そこからは毎日、蔵元や市場に足を運び、無我夢中で生産者に学んだ。また、顔見知りになった蔵元を巻き込み、小学校での食育授業や醸造文化の講演活動にも力を入れるように。それらの功績が認められ、2018年度の地産地消等優良活動の表彰式で「農林水産大臣賞」を受賞。今や誰よりも地元の食文化を愛し、造詣の深い料理人として、彼の名を知らぬ蔵元はいない。

しかしなぜ、これほどまでに多彩な醸造調味料がこの地で生まれ、根付いたのだろう?

平野が広がる温暖な気候ゆえに昔から米や大豆などの農産物が豊富だったことや、塩の生産地があったこと。川が多く、早くから水路や運河が整備されたことで良質な水が確保でき、水運も活発だったことが理由に上がる。また、米と水が豊富ゆえに日本酒の一大産地でもあったことで酒粕を二次加工する技術が生まれ、酢やみりんの発展に繋がった。御三家の筆頭格を誇った尾張徳川家のお膝元だったという場所柄もプラスに働いた。

江戸時代になると、こうして生まれた酒や調味料は、知多半島の港から船で大量に江戸に運ばれ100万人の胃袋を支えただけでなく、愛知の醸造調味料が江戸の食文化の流行までも作っていたというから驚きだ。

「ただ私は、江戸で栄えたこの地の醸造文化が、今も続いていることがすごいと思うのです。それは、次なる世代にも魅力的であり続けた各蔵元の努力の賜物です。伝統を重んじながらも常に新しいこと、面白いことに挑戦してきた姿が歴史を紡ぎ、また未来へと道ができるのだと思います」

豊かな醸造文化の魅力を次世代に伝える“伝道師”としての役割を噛みしめながら、長田さんは今日も包丁を握っている。

「季節のコース」(¥11,000)の前菜は「三河産ローストビーフの握り寿司」「カリフラワーとブロッコリーの白しょう油ドレッシングがけ」など。ふぐ、さわらなどの「地魚の刺身盛り」は3種のしょう油でいただく。「碧南市産カラフルにんじんの茶碗蒸し」「名古屋コーチンと地野菜の炊き合わせ~八丁味噌のせ」も。

豆味噌、みりん、酢、しょう油は地元の各蔵ごとにそろう。「同じ調味料でも蔵元によって個性が異なるため料理によって使い分けています」と長田さん。「愛知県南三河地方」という呼称は行政区としてはないものだが、一灯の料理は西三河や知多地方などを広く総称し「南三河料理」と名付けられている。

日本料理 一灯

愛知県碧南市作塚町1-16

https://kobanten.jp/ittou

写真 秋倉康介
取材・文・編集 小嶋美樹

西三河・知多への翼
東京(羽田)などからANA便で中部国際空港セントレアへ。 岡崎へは車で約1時間、碧南へは車で約40分、 半田へは車で約30分。

※運航情報は変更になる可能性がございます。最新の情報はANAウェブサイトをご確認ください。

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