島とともに生きる青島神社の宮司 “中今”が流れる神話の島で…
青島神社の宮司・長友安隆氏は、室町時代から続く家系の二十代目だ。生まれた瞬間から島とともに生きる運命にあり、「青島を守ることは呼吸の一部のようなもの」と語る。禁足地として守られてきた森と海、そして祈りの時間。この小さな島には、人と自然が重なってきた長い歴史が流れている。
「島守り」の家系が見てきた青島
青島神社の宮司・長友安隆氏は、生まれた瞬間から島とともにある。室町時代から続く家系の二十代目として、青島を守ることは「選ばれた役目というより、気づけば自分の呼吸の一部になっていた」と語る。
島は観光地として知られる以前から、禁足地として厳しく守られてきた。飫肥藩(おびはん)の時代には奉行と神職以外の立ち入りが禁じられ、森の木々は一度も伐採されることなく今日まで残された。長友氏は「守られてきたというより、守るしかなかった」と笑うが、その言葉の裏には、自然と文化を同時に背負う家系の重みが静かに滲む。

亜熱帯の森はどこから来たのか?──遺存説と漂着説
青島の森は、宮崎の中でも異質だ。びろう樹を中心とした亜熱帯植物が密生し、島全体がひとつの“緑の壁”のように海風を受け止めている。植生の起源は今も学説が割れており、古い地殻変動の名残とする「遺存説」、黒潮に乗って南方から種子が流れ着いたとする「漂着説」がある。長友氏は「毎年十数個、本物のヤシの実が漂着する」と話し、後者に説得力を感じているという。
さらに興味深いのは、台風の季節になると森が“自ら防御をつくる”ことだ。島の外側には段竹(だんちく)が自然と密生し、潮風を切り、内側の植生を守る。人が植えたわけでもないのに、森が島の形に合わせて役割を分担しているように見える。この“生態の意思”のような現象こそ、青島の魅力のひとつだ。

海に囲まれて湧く真水──玉の井の謎
島の中心部には「玉の井」と呼ばれる浅い井戸がある。古事記にも登場するこの井戸は、海に囲まれた島にもかかわらず真水が湧く。対岸では二千メートル掘っても海水の温泉しか出ないのに、青島では数十センチで真水が得られる。学者の間でも明確な結論は出ておらず、雨水のろ過説が有力視されるものの、決定的な証拠はない。
長友氏は「科学で説明しきれない余白が、この島の魅力を深めている」と語る。海と森が交わる場所に、なぜ命の水が宿るのか──その問いは、島を訪れる人々の想像力を静かに刺激する。

「中今」を生きる場所としての青島
青島は、神話の舞台として語られることが多いが、長友氏が強調するのは“今”をどう生きるかという視点だ。神道には「中今(なかいま)」という概念がある。過去と未来の通過点としての現在を大切にし、今この瞬間に自分がどう在るかを問う思想だ。長友氏は「神社は神々の遊び場であり、人が元気になる場所でもある」と言う。笑い声が太陽の女神を岩戸から導き出した神話を引き合いに出しながら、「楽しさや笑いは、人のDNAに刻まれた祈りの形」と語る姿は、伝統を守る宮司というより、未来に文化を手渡す案内人のようだ。
水と木が交わる場所に人が祈りを捧げるのは、そこに“命の原点”があるからだと長友氏は言う。作物を育て、米となり、命をつないできた循環の記憶が、青島の風景には確かに息づいている。自然と文化が重なり合うこの小さな島は、過去の遺産ではなく、今を生きるためのヒントを静かに差し出してくれる。
写真 清水健
取材・文 山下マヌー
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