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鹿児島・薩摩に息づく発酵と匠の物語 麹菌を懐に守った男たちの軌跡

鹿児島・薩摩に息づく発酵と匠の物語 麹菌を懐に守った男たちの軌跡

TRAVEL 2025.07 鹿児島特集

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鹿児島には、自然と人の匠が生み出す恵みが根付いている。長い歳月を重ね、息をし続ける桜島に象徴される特異な地形。黒酢、焼酎、鰹節(かつおぶし)といった発酵文化が刻む、時間と歳月の深み。それらを支えてきたのは、常に人の手による匠の技である。職人たちの絶え間ない観察と試行錯誤によって、大切に育まれてきた微生物たちの恩恵を、五感で味わってほしい。

指宿(いぶすき)市の鰹節工場。「本枯節(ほんかれぶし)」生産量日本一を誇る指宿市山川地区にある、山吉國澤百馬(やまきちくにさわひゃくま)商店。鰹を捌(さば)き、煮て、ここから燻製にかける。鰹の鮮度、指宿の風土、発酵の時間×職人の技術が、香りと味わいを大きく左右する。

あらゆる発酵は、ここから始まる……発酵大国・日本を支える「種麹」の繊細かつ力強い世界

「空襲警報が鳴ると、懐のサラシに麹菌の試験管を入れて逃げた」

それほど麹菌に人生をかけた河内源一郎という男がいた。体温が伝わる腹部の環境は麹菌に最適。麹を、病に倒れた日も身につけていた。彼が研究を始めた1909年、当時鹿児島の焼酎は不味(まず)く腐りやすかった。その原因を、暑い土地に向かない黄麹菌で造っていることにあると見抜き、沖縄から黒麹菌を持ち帰って3年かけて「河内黒麹菌」を培養した(学名アスペルギルス・アワモリ・ワァル・カワチ)。

その功績は焼酎文化の礎となり、1931年に創業した河内源一郎商店は、現在も4代にわたり種麹づくりを守り続ける。現在わが国の本格焼酎の8割が河内菌を使用し、韓国のマッコリも多くが河内菌で生産されている。焼酎蔵の裏には、100年の努力と執念が静かに根を張っている。

上から白麹、黄麹、黒麹。河内菌の発端となった黒麹菌はもともと泡盛の種麹。黄麹菌は主に日本酒や味噌、醤油の種麹。白麹菌は黒麹培養のあと研究に成功するも当時は注目されず、23年後に日の目を見る。

人気の甘酒。「河内源一郎商店」では、焼酎、ビール、甘酒、マッコリ、調味料、サプリメントなどを製造・販売している。鹿児島空港からほど近く、隣接する「麹・発酵ホテル」やレストランも人気。

100年にわたり守ってきた種麹ブランドの4代目である山元文晴(ぶんせい)さんはもともと外科医師の経験を持つ。先祖である河内源一郎氏の意思を引き継ぎ、現在はその知見を生かして麹菌と向き合う。

河内源一郎氏。麹の研究に人生をかけた。晩年していた研究はグルタミン酸ソーダの発酵法による精製だったが、戦時中で記録がなく彼の頭の中のみの精製法だったため、それはお蔵入りとなった。

河内菌本舗

鹿児島県霧島市溝辺町麓876-15

TEL0995-58-4341

https://www.kawauchi.co.jp

「黒酢」が産声をあげた老舗 職人による数十年の経験のみが香・音・色を見極める

桜島を背景に、壷畑が見渡す限り広がる。静かにその壷に耳を傾ける職人。壷の中に響く、微生物たちの声を聞く。ここ福山町では江戸後期から壷を用いた米酢造りが始まり、坂元醸造は熟成が進むにつれ色濃くなる美しさから「くろず」と名づけた。一つの壷の中で糖化、乳酸発酵、アルコール発酵、酢酸発酵が行われる製法は、世界でも類を見ない。蒸し米、米麹、地下水のみを用い、太陽と微生物の力を借りて、最大10年かけて発酵・熟成させる。過去には別の土地で試みたが、同じレベルの酢が造れなかったという。

黒酢ガーデンのテラスから見渡せる壷畑は実に壮観!どこまでも広がる壷と、海、桜島が一気に目に飛び込んでくる。坂元醸造の所有する壷は5万2千本!

そして発酵の手助けとして何より重要なのは、五感を研ぎ澄ます職人の技である。黒酢の成長は壷ごとに異なり、香り、音、触感、色みから状態を読み取り一定の味に仕上げる。AIには決してできない技がここに存在する。一人前の醸造技師になるには、最低でも10年は壷と向き合う。受け継がれる技と味の背後には、ひたむきな努力と愛情が息づいているのだ。

この道40年の醸造技師のみぞ知る発酵の音や感触。環境や天候、個体差に左右されずその味を守り抜くことができる。

壷の中はまさに微生物たちの温床。発酵が進むと、美しい膜が張る。長い歳月を経て使われている壷だからこそ微生物を蓄え、発酵させることができる。
熟成が進むにつれて、コクが強い酸味の穏やかな黒酢になる。左から1年、5年、10年もの。
黒酢ガーデンには体にやさしい中華を楽しめるレストランも。黒酢のポテンシャルを最大限に引き出してくれるサンラータン麺は絶品!黒酢酢豚、担々麺なども人気。

坂元醸造 黒酢ガーデン壺畑 SHOP&RESTAURANT

鹿児島県霧島市福山町福山3075

0995-54-7200

https://www.kurozu.co.jp

Instagram @sakamoto_kurozu

挑戦と挫折を繰り返し、納得のいく酒造りを 本格焼酎を世界へ

焼酎の酒蔵である小牧醸造でウイスキーと向き合う小牧伊勢吉さん。ここ5年で試行錯誤を繰り返したウイスキー造りも、いよいよ納得のいくものとなって完成する。ズラリと並ぶ屋久杉でつくられたカスク(樽)たちに、莫大な時間と労力、資金を注いできた。

ズラリと並ぶウイスキーのカスク(樽)。とことんこだわり屋久杉の樽づくりからスタート。まず樽に使える貴重な屋久杉の土埋木を見つけるのに想像以上に難航したという。

ウイスキー造りを始めた大きな動機は「焼酎を世界の人に知ってもらいたい」という想い。世界中で親しまれるウイスキーに本格焼酎の製造、特に蒸溜技術を生かすことで、ウイスキーはもちろん、それを入り口に焼酎に関心を持ってもらえたら。度重なる災害やコロナ禍を乗り越え、小牧蒸溜所は確かな歩みを刻んできた。

洗練された味わいの銘柄造り、そしてブランドデザインを新たにし、すでに芋焼酎大国である鹿児島でも注目を集める。両親が守り続けてきた焼酎造りとその精神を大切にしながら、時代に寄り添う新たな酒蔵のかたちを模索する。そのこだわりとセンスで、温故知新のブランディングは邁進(まいしん)し続ける。

1909年創業以来、昔ながらのカメ仕込みで本格焼酎を造る。薩摩半島の北部にあるさつま町に位置し、蔵の横には川内(せんだい)川が流れる。
ウイスキーに使う蒸溜器はオーダーメイドで輸入。
仕込み水は紫尾(しび)山系の天然伏流水を使い、県産のさつまいもで伝統的なカメ仕込みの焼酎を造る。

ウイスキー(左)の隣は、2011年発売の新銘柄の焼酎「一尚ブロンズ」「紅小牧」。新しいロゴデザインは家紋をオマージュしたもの。

3代目・小牧伊勢吉さん。祖父から父へと受け継がれた杜氏名を襲名した。兄・一徳さんとともに小牧蒸溜所を支える。

小牧蒸溜所

鹿児島県薩摩郡さつま町時吉12

https://komakijozo.co.jp

https://www.komakiwhisky.com

Instagram @komaki.official

撮影 神林環
取材・文・編集 中野桜子

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鹿児島のおすすめホテル

  • シェラトン鹿児島

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