「未来を作るために」特産への挑戦~離島で感じる「地球の鼓動」vol.5
驚くほどいたるところに自生している。大きいものだと木製バットくらいはあるだろうか。だが、その見た目に反して、「パキッ!」という心地よい音とともに、簡単に根元から折ることができる。断面からは瑞々しく水分があふれ出す。
竹とともに暮らす竹島の特産・大名筍(だいみょうたけのこ)は、さっと茹でるだけでトウモロコシのような甘さを感じる、アク抜き不要の“キセキのタケノコ”と呼ばれる。刺身にして良し、焼いて良し、揚げて良し、和えて良し。どのような食べ方でも美味しいが、噛んだ瞬間に水分があふれ出る「焼きたけのこ」と「てんぷら」は絶品だ。甘くてやわらかいのに、シャキッとした触感はやみつきになる。
キセキといっても、その背景には物語がある。大名筍などの販路開拓や島の情報発信に取り組む、「NPO法人みしまですよ」代表の山﨑晋作さんが説明する。
「大名筍を収穫するには、竹のかご「テゴ」を担いで山の斜面を登ったり下ったりしなければいけません。しかし、竹島の人口は今では50人ほどになり、働き手の中心も60代以上です。たくさん生えてくる一方で、収穫できる人手が足りない」
やっかいなものになりかけていた大名筍
5月頃から収穫される大名筍は、一年のうちでわずか1か月しか採ることができない。その期間を過ぎれば、竹(リュウキュウチク)になってしまい、食べることはできなくなる。
筍という字は、「竹」に「旬」と書くが、大名筍ほど旬と隣り合わせの食材もない――といえば、聞こえはいいだろう。しかし、実際には「人手が足りない」ということは、「出荷量が限られる」ということでもある。そのため大名筍は、ほぼ流通しない幻のたけのことも言われるのだが、それは山﨑さんの本意ではなかった。
「本当はもっと収穫できるんですね。最盛期に比べると、大名筍の収穫量は10分の1ほどに落ち込んでしまっている。この状況を変えたい。大名筍は、竹島の誇りですから」(山﨑さん)
山﨑さんは、「島で子育てをしたい」という思いから、2014年に竹島へUターンした。当時の状況を振り返る。
「毎年生えてくるたけのこに悩まされていたといいますか。人手の減少により、産業の存続が難しくなり、十分な収入もないものの、大名筍という伝統を絶やさないために、毎年、多少の無理をしてでも島民が整備や収穫をし続けてきたという背景がありました。ポジティブな動機を増やしたいという思いがあった」(山﨑さん)
価値を作り出すために挑戦し続ける
収穫したたけのこを保管しておけばいいのではないか?そう思う人もいるだろう。しかし、「たけのこって生き物なんです」と山﨑さんは教える。
「大名筍は根元から折った瞬間に、鮮度が下がっていきます。数ある作物の中でも鮮度を保持するのが難しく、生きたまま密閉するとガスが出て腐ってしまい、えぐみが増すために冷凍保存もできません」(山﨑さん)
根元から折られた大名筍は、(空気が入るように)密封をしない状況でビニール袋にしまい、根元部分には水分を吸収し鮮度を保つシートを当てて出荷する。まさしく、生き物のように繊細に取り扱わなければいけないのだ。裏を返せば、それだけ繊細だからこそ、大名筍はとびきりの美味しさを誇る。
「一度茹でれば、保存期間は長くなります。そのため、竹島には収穫した筍を水煮に加工する工場があったのですが、人手不足や老朽化により、閉鎖することを決断しました」(山﨑さん)
わずか1か月しか採ることができないことに加え、保存もできない。さらには、現在の加工方法では十分な収益が上がらない。「島の財産を持て余している状況」を変えるため、山﨑さんは積極的にPRを行うだけでなく、オンライン販売など販路も拡大してきた。キロ当たりの単価は倍増し、少しずつだが収益につながるようにもなってきた。
「収穫最盛期前のゴールデンウィークに、たけのこ取り体験ツアーを企画しています。また、メンマや竹炭といった加工品であれば黒字化できる構想もある。島民たちとともに、いろいろなアイデアを考えていきたい」(山﨑さん)
現在、山﨑さんは専門家などと相談しながら、大名筍の未来を作るために奮闘する。
「大名筍の未来は、そのまま次の世代の未来です。子どもたちに、『竹島ってすごい場所なんだ』と誇りを持ってもらうためにも、自分たちで価値を作り上げていかなければいけない。それができれば、きっとこの島の魅力は、もっとたくさんの人に伝わると思っています」(山﨑さん)
NPO法人みしまですよ
鹿児島県鹿児島郡三島村大字竹島2番地
http://mishimamura.org/
撮影:久保田光一
取材&文:我妻弘崇