北条家ゆかりの国宝の仏像と花人・赤井勝の装花が出会ったら〜伊豆で、生まれ変わる。vol.1
その古刹は、濃厚な緑と静謐な空気に包まれていた。願成就院――。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合ほか)にも登場した高野山真言宗の寺。文治五(1189)年、源頼朝の奥州討伐戦勝を祈願し、北条時政が建立した。
休館日のこの日、境内で作業をする人の姿があった。本誌で「花空遊愉」を連載する花人・赤井勝さんだ。今年1月、大河ドラマの関連番組に出演した際、願成就院を訪問した赤井さん。今回はそのときのお礼の気持ちも込めて、改めて装花を奉納するという。
「今日、奉納させていただく花のテーマは『生まれ変わる』です」こう話しながら、赤井さんは花材を一つひとつ吟味し、活ける。「ここに立って強く感じるのは、時代のうねりと、そのなかでも決してブレなかった北条家の人々の魂。それを感じるままに、私なりに表現させていただきました」
境内奥へ続く石畳の参道に、大きな作品を飾った赤井さん。続けて2つの装花を作り上げた。こちらは、大御堂内に祀られている大仏師・運慶造像の「本尊 阿彌陀如来坐像」「不動明王・矜羯羅童子・制吒迦童子三尊立像」「毘沙門天立像」、その国宝五仏に捧げられた。奉納された花を見た小崎祥道住職は、嬉しそうにこう話す。
「仏様が笑みを浮かべていますね。きっと、お花をご覧になって、喜んでいらっしゃるのでしょう」
その言葉に、赤井さんは居住まいを正し、言葉を継いだ。
「たいへんおこがましいのですが、今日、私が感じるままに花を活けさせていただいたように、運慶もまた、感じるがまま、一心不乱に造像したのではないでしょうか。だからこそ、800年の時を経てなお色褪せず、まるで生まれ変わるように仏様が日々、その表情をお変えになるのでは。私には、そう思えてしかたないのです」
小崎住職は装花の感想を「感染症や戦争など大禍が世界を覆ういま、多くの人々が一刻も早い終息を、平和が戻ってくることを願っています。今回、ご奉納していただいたお花には、そのような願いが込められていると感じました」と話す。それを聞いた赤井さんは「仏様にはこの先、さらに何百年と、人間社会を見守っていただかないといけませんからね」と笑顔で。
案内人・赤井 勝
花を通じ心を伝える自らを「花人」と称し、飾る花を「装花」と呼ぶ。08 年の北海道洞爺湖サミット会場を花で飾り、09 年、ローマ法王にブーケ献上。13 年、伊勢神宮式年遷宮では献花奉納も。