兵庫・明石“まえもん”の聖地へ 潮流に鍛えられた絶品「明石蛸」
蛸と海苔とウイスキーと……潮風に“まえもん”が溢れるまち

兵庫県明石市は、日本標準時の基準となる東経135度子午線が通る「時のまち」だ。
明石の豊かな海に育まれた魚介類は“まえもん”と呼ばれ、とりわけ「明石鯛」「明石蛸」、速い潮流の中で育てられる海苔は広く知られる。また、西灘と呼ばれる兵庫県屈指の酒どころ明石で始まったウイスキー造り。時が紡ぐジャパニーズウイスキーの未来にも期待が高まる。明石の人々の台所として親しまれる商店街では、豊かな食文化の一端を気軽に体験し、暮らすように旅する感覚も味わうことができる。
明石海峡と潮風に育まれた自然の恵みと、「時のまち」で紡がれ、熟成していく食文化を巡る。
兵庫県神戸市と淡路島を結ぶ明石海峡大橋。大阪湾と播磨灘をつなぐ明石海峡の幅は約4 km、水深は約110m、潮流は最速で毎秒4.5m に達する。「鹿ノ背」と呼ばれる砂地の浅瀬もあり、多様な生き物が棲む豊かな漁場を形成している。
“まえもん”が獲れる海 可能な限り活かして競りに出すのが明石浦の流儀

大阪湾と播磨灘をつなぐ明石海峡は速い潮流で知られる。潮流に鍛えられて身が引き締まった魚、明石海峡を中心とした豊かな漁場が育む魚は明石の“まえもん”と呼ばれ、その美味しさは高く評価されている。
まえもんの水揚げは年間100種類以上の少量多品種。明石港に水揚げされた魚はひと晩、暗い水槽で活け越し(※1)、海水を溜めた生け簀の中で生きた状態で昼前に始まる競りにかけられる。競り落とされた魚は「昼網」と呼ばれ、昼過ぎには近隣の鮮魚店の店頭に新鮮な魚が並ぶ。魚のクオリティを高めるシステムや努力に明石の人々の気概を感じる。
しかし、近年は明石の漁獲量が減少している。要因の一つ“栄養塩不足”を解消するため「海底耕うん」(※2)を行い、鶏糞を使った肥料を撒くなど明石の人々が一丸となって豊かな海を守り育てる取り組みが行われている。
※ 1 魚の興奮状態を鎮め未消化物を吐き出させる
※ 2 海底を耕し栄養塩(窒素やリン)を海中に供給



港に戻ってきた漁船から水揚げされる魚。タモの中には大きな真鯛が跳ねていた。

水揚げされたばかりの元気な明石蛸(真蛸)。


競り落とされた魚は“ 明石浦〆じめ” と呼ばれる伝統の技で新鮮さを保つ。
明石“まえもん”を代表する明石蛸 受け継がれる匠の技が伝統の味を守る
明石蛸はこうして極上の茹で蛸になる
大正10(1921)年創業、水産物加工の老舗・金楠(かねくす)水産の四代目・樟(くす)陽介さんは受け継いだ技術力に磨きをかけ、たゆまぬ探求力で極上の茹で蛸を作る。
塩揉みでは水分を抜くことで筋肉の旨みを最大限に引き出し、茹ででは1秒単位で時間を調整して1mm の芯を残しサクッとした食感を生み出す。漁獲量は最盛期の10分の1となった明石蛸に匠の深い愛情が注がれる。

墨を取り除いた蛸に一匹ずつ、蛸の中心部にあるカラス口(蛸の口)の周りの、もっとも肉厚な部分から手で塩を揉み込んでいく。使用するのは和歌山県産の粉砕天日塩。不均一な粒は塩揉みの際に全身にムラなく塩を行き渡らせるのに効果的。水は硬度800 のミネラル豊富な地下水を使用。




茹でにはニガリ成分の入った塩を使用。茹で時間は2分45秒ほど。時計の秒針から目が離せない。


金楠水産株式会社
撮影 牧田健太郎
取材・文・編集 齊藤素子
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