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歌舞伎俳優・坂東彌十郎が教える逸品ごはん

歌舞伎俳優・坂東彌十郎が教える逸品ごはん

LIFE STYLE KABUKI

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新連載[私の二枚看板]第一回/案内人 坂東彌十郎

公演で日本全国、さらには海外も回る歌舞伎俳優たち。彼らの舌を魅了した「祝着至極」のメニューを毎月2皿ずつ、紹介します。第一回は、大河ドラマでブレイクしたこの人から。

私、スイスという国が大好きで、もう、かれこれ30年近く、毎年のようにヨーロッパアルプスの国に通い詰めておりました。そんななかでめぐり会ったのが「ラクレットチーズ」という逸品です。
 断面を加熱し溶かしたチーズを、ナイフで削るようにして、皮付きのジャガイモの上にドロリーー。マッターホルンの麓・ヴァレー州伝統のその味に、私はすっかり魅了されたのです。
 東京でも本場の味を探したのですが、残念なことに当初、見つけることができたのは、ラクレットとは名ばかりの、日本風にアレンジしたものばかり。懇意にしていたスイス大使館のスタッフに尋ねても、返ってくる答は「彌十郎さんがご存知ないことを、私どもが知る由もありません」でした(笑)。それでも、粘り強く探した結果、8年ほど前にたどり着いたのが、今回、ご紹介するお店「湯島天神横ラクレットグリル」でした。
 こちらのお店のラクレットチーズ、サーブの仕方はものの見事に本場と同じ。そして、その味も……、ナイフ&フォークで切り分けたチーズとジャガイモを口に含んだ瞬間、勝手に笑みが溢れてしまったほど、完璧に再現されておりました。
ラクレットを食べるとき、私はいつもスイスの代表的なぶどう品種「シャスラ」の白を合わせます。スイスの友人曰く「胃で固まりがちなチーズを白ワインが柔らかくしてくれる」のだとか。確かに、フォンデュも白ワインが欠かせませんし、彼の言葉は理に適ったもののよう。でも、そんな理屈はどうでもいいと思えるぐらい、ラクレットとシャスラの組み合わせ、もう、最高なんです。騙されたと思って、一度お試しあれ。

そして、スイスと同じく、私が愛して止まないのが、お蕎麦。
 父親が大の蕎麦好きで、物心つくころから父と蕎麦店に通ううち、私も気付けば蕎麦が大好きになっておりました。父は神田の藪派だったんですが、私は父が亡くなって以降、浅草の「並木藪蕎麦」を贔屓にしています。
 そうそう、並木藪は観音様の正面ですが、歌舞伎の世話ものの名作「直侍」には、観音裏の「入谷蕎麦屋の場」があります。この場面、役者は舞台で本物の蕎麦を食べるんですが。直侍を勤めた伯父・勘弥の蕎麦の啜り方は、じつに見事でした。いつか私も、あんなふうに粋に蕎麦を食べたい、子供心にそう思ったのを、いまもはっきり覚えています。

<profile>
ばんどう・やじゅうろう●56年、東京生まれ。父は戦前、映画界でも活躍した坂東好太郎。伯父は14代目守田勘弥。 73年、歌舞伎座『奴道成寺』で初舞台。今年、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で北条時政を演じ好評を得る

湯島天神横ラクレットグリル

東京都文京区湯島3-28-16
tel:03-3839-0011
営業時間:12:00〜15:00(ランチ)、17:00〜23:00(ディナー)
※前日までランチの予約がない場合は、ディナーのみの営業になる
定休日:月曜・祝日(不定期)

坂東彌十郎さん絶賛のラクレットチーズ(1,100円)のほか、自分で焼いた食材に溶かしたチーズをかけて楽しむスイスの家庭料理・ラクレットグリル(2,420円、2人前から)も人気。スイスワインもシャスラ(ボトル5,250円〜、グラス946円〜)など多数取り揃える。
URL:https://www.yushimatenjin-raclette.com/

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浅草・並木藪蕎麦

東京都台東区雷門2-11-9
tel:03-3841-1340
営業時間:11:00〜19:30(L.O.19:00)
定休日:水曜、木曜

焼きのり(800円)と板わさ(800円)、それに酒(800円)を注文すると付いてくるそば味噌、「これらをアテに飲む日本酒がサイコー」と語る彌十郎さん。最後はざるそば(800円)で締めるのだが。「そば湯をいただくタイミングで改めて熱燗を注文。そば猪口につゆ、そば湯、酒を均等に入れる……コレ、世界一美味しい飲み物です、本当に」(坂東彌十郎)

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