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推し活が証明する音楽の本質─ユニバーサル ミュージック藤倉尚 “AI時代のヒット論”

推し活が証明する音楽の本質─ユニバーサル ミュージック藤倉尚 “AI時代のヒット論”

LIFE STYLE 旅で解放する

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トップアスリート、アーティスト、経営者が通う会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」の代表・竹下雄真さんが、各界の第一線で活躍するトップランナーと対談し、「旅」を通じて見えてくるウェルネスや仕事術などの秘訣などを伺う連載企画。第4回シリーズのゲストには、ユニバーサル ミュージック合同会社社長兼最高経営責任者(CEO)・藤倉尚さんをお迎え、「人を愛するビジネス哲学」をテーマに、ヒットを生み出すための人材の活用方法やリーダーシップ論、そして、心と身体を整えるためのリトリートの考え方についてお話を聞きました。(全5回の1回目)。

竹下 藤倉さんがデポルターレクラブに通ってくださって、もう11年になりますね。ちょうどその頃に社長にご就任されましたが、音楽業界のトップランナーとして、今、特に力を入れていることがあれば教えていただけますか?

藤倉 この11年を振り返ると、音楽の世界がガラッと変わったなと感じますね。2014年当時、日本ではまだストリーミングがそれほど普及していなかったんですよ。音楽はCDか、ダウンロードで買うのが主流で、ストリーミングサービスはほとんど知られていませんでしたから。

竹下 今では当たり前のように使われていますけど、当時はなかったんですね。

藤倉 音楽の届け方や、アーティストの見つけ方も、ものすごく変化しました。アナログ盤、CD、ダウンロード、ストリーミング……音楽産業は、常にテクノロジーの進化に対応していかなければならないのですが、変わらないものもあります。それは、「才能を発掘すること」。ユニバーサル ミュージックのルーツは130年前に創設されたドイツ・グラモフォンに遡ります。円盤型の蓄音機を作った世界最古のクラシック音楽レーベルですが、やってきたことは一貫して「新しい才能を探す」。これに尽きます。

竹下 やはり、何かが変わるときというのは不安もあると思いますが、どういうふうに乗り越えていますか?

藤倉 1人でどれだけのことができるのか。それを考えると、結局、自分1人では限界があるということです。だからこそ、「人」の存在が非常に重要で、私たちのミュージックカンパニーも、人によって成り立っています。アーティストはもちろん人ですし、そのアーティストを支える社員たちも人。会社の状態がいいとすれば、それは才能あふれるアーティストと、彼らと一緒に素晴らしい作品を世の中に届ける社員たちの力によるものです。そして、その作品を受け入れてくれるファンの皆さんや取引先の方々の存在も大きい。結局、すべては人によって成り立っているんですよ。だから何か困難に直面したときには、私たちは人に頼ることを大切にしています。

竹下 今、AIが台頭してきて、人間がやらなくてもいいことが増えてきたと思います。音楽業界で革新的に変化したことはありますか? 

藤倉 これからますます変わるでしょうね。海外ではすでに問題になっていますが、AIによる楽曲も増えています。でも、AIが生成する音楽の元になっているのは、作詞家や作曲家、アーティストなど人間のクリエイターが過去に生み出した作品です。これは音楽業界に限らず、ほかの分野でも同様でしょう。

竹下 最近ではAIが学習を通じてデータを集め、新しい音楽や絵、本などを次々と作り出していますからね。

藤倉 利用者にとっては非常に便利なツールですよ。実際、私自身も個人的には使うときもあります。ただ、会社としては、AIの使用が人間のクリエイターの価値を損なうことがないよう、使用に関してはかなり慎重です。現在、AIに関する法律は国ごとに異なりますが、日本は比較的AIの活用に寛容なのではないでしょうか。ただし、私自身はAIが音楽業界に与える影響についてぼんやりとした答えを持っていて。それは、AIがどんなに優れた音楽を生み出したとしても、それを聴く人々がその作品を愛し続け、ファンとして応援を続けてくれるどうかは疑問だということです。例えば、AIが作った人気アーティスト・〇〇風の曲がそれなりに感動する曲を生むこともあるでしょう。でも、聴き手である私たちがその曲に共感でき、応援し続けられるかな、と。結局、私は「人は人を好きになる」と信じたいのです。

竹下 なるほど。音楽自体が好きなのはもちろんですが、歌手やアーティスト、その人自身を応援したいという気持ちってありますよね。

藤倉 そうです。日本には昔から歌舞伎や宝塚、そして近年のボーイズグループやガールズグループなど、今は「推し活」と言われる文化が続いています。AIが作る音楽もいいと思いますが、それが増えれば増えるほど、逆に「人の大切さ」に立ち返る流れになるのではないかとも感じています。例えば、音楽のデジタル化が進み、聴き放題サービスが普及する一方で、国内外でのアナログ盤のレコード人気を見ると、人々の「人間的なもの」への回帰が続くのではないかという気がします。

竹下 まさに僕たちパーソナルトレーナーも同じで、クライアントに寄り添うことが重要だと感じています。先日、オールハンズのミーティングで、スタッフに向けて「AI時代のパーソナルトレーナー」というテーマで話をしました。例えば、現在ではトレーニングメニューを作成する際、年齢、体重、性別、生活習慣、体脂肪率などの情報を入力すれば、AIがすぐにプランを提示してくれます。そのプランを実行すれば、原理原則に基づいて望む体型に近づくことは可能だと思います。でも、そこに私たちトレーナーの価値があるのかという問いが浮かんできます。藤倉さんがおっしゃるように、大切なのはやはり「人」という部分では、人間性が重要であり、それをどう磨いていくかが私たちトレーナーのテーマだと感じています。

藤倉 竹下さんはじめデポルターレのトレーナーの方は、本当に皆さん魅力的だと思います。自分の中で大切にしていることは、約束を守るっていうことが非常に大きくて。トレーナーの皆さんは、自由でいいですよと言ってくれるけど、たぶん、機械と約束したら簡単にキャンセルしてしまうだろうなって感じています。

竹下 おっしゃる通りです。僕らも「約束と習慣」っていつも言ってるんですよ。それがやっぱり一番の価値だと考えています。ちゃんとクライアントの方との関係性が成り立っているからこそ、「今日は彼と約束してるから行こう」って思えるわけです。そうじゃないと、飲みに誘われたり、寝不足だったりしたら「今日はいっか」って簡単に飛ばしてしまうんだと思います。そこが、僕らが追求していかなきゃいけないポイントですね。

藤倉 約束していると、1時間のセッションでも、たとえ30分でも行くようにしています。完全にキャンセルすることは避けています。

竹下 ジムは週にどのくらい通われているんですか?

藤倉 今は週2回です。以前は1回でしたが、体の調子を考えて、なるべく週2回は通うようにしています。お酒の抜けも良くなりました(笑)。

竹下 それは一緒ですね。やっぱり習慣の力って大きいですね。

藤倉 あと、ストレスが強いときほど運動したくなるんですよ。体を動かすことで、頭も整理されるというか。キャパが狭いので、疲れるとすぐに頭が動かなくなる(笑)。

竹下 最近、サーフィンはされてないんですか?

藤倉 日本ではなかなか時間が取れないのですが、本社のあるサンタモニカにいるときはやりますね。

竹下 さすがですね。ライフスタイルがかっこいい。

藤倉 かっこよくないですよ(笑)。でも、体を動かしていないと自分がダメになってしまう感覚は常にあります。

藤倉 尚 | ふじくら なおし

1967年東京都生まれ。1992年にポリドール株式会社(現・ユニバーサル ミュージック合同会社)入社。邦楽レーベル・ユニバーサルシグマ宣伝本部本部長、同プロダクトマネジメント本部本部長などを経て2008年、執行役員就任。2012年に副社長兼執行役員就任、邦楽事業を統括。2014年1月より現職。米ビルボード誌がアメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard Global Power Players】に2019年、2021年から2025年と日本から初めての5年連続で選出され、計6度の受賞に輝いた。

藤倉 尚 写真

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 | たけした ゆうま

会員制トレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。1979年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。都内パーソナルトレーニングジムにてトップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わる。著書に『外資系エリートはすでに始めているヨガの習慣』(ダイヤモンド社)、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(パブラボ)などがある。

https://www.deportareclub.com/

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 写真

取材・文・編集 服部広子
写真 細田純平