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就職率100%の秘密 びわこ成蹊スポーツ大学が考える次世代の大学教育

就職率100%の秘密 びわこ成蹊スポーツ大学が考える次世代の大学教育

LIFE STYLE 旅で解放する

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トップアスリート、アーティスト、経営者が通う会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」代表の竹下雄真さんが、各界のトップランナーと対談し、旅を通したウェルネスや仕事術、地方創生などのお話を伺う新連載。第2シリーズのゲストには、故郷・滋賀県のふるさと観光大使としても活動する歌手の西川貴教さんと、びわこ成蹊スポーツ大学(滋賀県大津市)学長に就任した間野義之さんをお迎え、「地方創生と観光」をテーマに、地方創生の課題や自身の健康習慣ついてお話を聞きました(全5回の3回目)。

西川貴教さんと語る滋賀の未来 「琵琶湖の水止めたろか」が映し出す価値観

「ここは日本のローザンヌ」 間野義之学長が語る滋賀

竹下 間野先生は、びわこ成蹊スポーツ大学に今年4月に着任して、7月から学長に就任されましたが、もともと滋賀に来るきっかけは?

間野 大学教員は、サバティカルと言って、特別研究期間は1年間、本来の職場を離れて世界中のどこの研究機関にも行って自由に研究していいという制度があるんです。1回目は2007年にイングランドに行って、2回目はスイスのレマン湖のほとりにあるローザンヌに行こうと思っていたんですが、コロナで行けませんでした。そんなとき、たまたま湖西線と同じ線路を走る特急サンダーバードでここを通ったら、湖があって、山があって、すごく綺麗で、「ここは日本のローザンヌじゃないか!」と思ったんです。それで、すぐにネットで検索したら、『びわこ成蹊スポーツ大学』が出てきて、そこで1年間お世話になろうと思ったんですよ。

竹下 ほぼ直感みたいな感じですか?

間野 直感ですね。大学の近くにゴルフ場もあるし、僕、スキーもやるんですけど、冬は、山の上がスキー場なんですよ。

竹下 ここから見える箱館山は人工雪でスキーができると聞きました。

間野 あと、大津市にも『びわ湖バレイ』というスキー場があります。とにかく、いろんなものが揃っていたこともあって1年間お世話になったんです。コロナ禍だったから、オンラインもいろいろ普及して、デポルターレのパーソナルトレーニングもオンラインでやってもらいましたよね。

竹下 住み心地はいかがですか?

間野 水も空気もおいしいし、本当に自然豊かでいいところですよ。琵琶湖の東側は新幹線でよく通っていたんですけど、西側にこんなエリアがあるなんて全く知らなくて、本当にここは日本のローザンヌだなあと思っています。とにかく、いろんなスポーツができるのがいいんですよ。ゴルフ、スキー、サップもやるし、あと、今日やってきたのは乗馬。ヨットもできるし、登山もできる。いろんなスポーツを楽しんで早稲田大学に戻りましたが、あまりにも滋賀が気に入って、長期休暇や連休のたびに来ていたら、びわこ成蹊スポーツ大学の前学長が、「そんなにここが好きなら、うちに来ませんか」って声をかけてくださって。ちょうど60歳になって、還暦って言葉もあるから、新しい場所で新しいことをやってみようかなと思ったんです。

滋賀の食文化と自然を生かす 西川貴教が提案する新しい地方創生の形

体育とスポーツの違い 科学を取り入れた大学教育

竹下 滋賀県にびわこ成蹊スポーツ大学という学校があるのを初めて知りましたが、どんな大学なんですか?

間野 大阪成蹊学園という学校法人に4つある学校のうちの1つです。もともとは大阪がルーツなのですが、その学園が保養所の敷地で持っていた土地に4年制のスポーツ専門大学を創設しました。それが2003年なので、まだ20年しかたっていなくてあまり知られてないんですけれども、スポーツを大学の名前の中に入れた初めての大学なんです。体育大学はたくさんありますが、スポーツ大学というのはありませんでしたから、第1号です。

竹下 体育大との大きな違いは?

間野 いわゆる、体育とスポーツの違いです。体育って教育の一環で、昔から言う知育、徳育、体育というような、体を育てるということ。どちらかと言うと、訓練とかそういうものに近いんです。それに対してスポーツというのは、まさにデポルターレが語源なんですけど、ラテン語のデは〈離れる〉、ポルターレは〈港〉という意味で、気晴らし、楽しんでやること。つまり、苦しくて頑張るのが体育で、楽しくて自分のためにやるのがスポーツというくらいの大きな違いがあるんですよ。スポーツは精神論ではなくサイエンス。もっと科学を取り入れようっていうことで、そういうこともコーチや選手たち、学生たちにも伝え始めているところです。

竹下 デポルターレという言葉は、僕が、早稲田の大学院で間野先生にスポーツビジネスを学んでいたときによく出てきた言葉だったんですよ。解放とか気晴らしって、現代にもすごく必要なことじゃないですか。

間野 室伏広治スポーツ庁長官が、うちの大学の20周年記念シンポジウムに来てくださったとき、まさに体育からスポーツへといった、根性論や精神論からもっと科学的で合理的なものになっていくべきだ、と。もっと一人一人が楽しめるようなものをやっていきましょうという話をしていましたね。

滋賀から生まれるスポーツとアートの新たな融合

西川 スポーツ関連の話をすると、今、滋賀にウェーブプールを作る話があって、海なし県の滋賀からプロサーファーを育てようという計画を進めているんですよ。今までサーフィンとかサーフカルチャーというと、湘南や伊豆、九州、沖縄でやるものと思われていたと思うのですが、海なし県で、地元出身のプロサーファーでオリンピアンが生まれたりすれば、これが次のイノベーションになると思うんですよ。それと、長浜に本社を置くヤンマーさんが持っているマリーナで世界大会規模のヨットレース「BIWAKO DRAGON INVITATION 2024」が11月21日から守山市で開催されます。

間野 守山でトライアスロンの大会はやっていますけど、世界大会が誘致されたら、滋賀のいい宣伝になりますね。来年、滋賀は国スポ、障スポもあります。スポーツのイベントの誘致も地域発展に効果があると思います。

竹下 間野先生も今後、学長としていろいろ取り組まれると思いますが、今、どんなことを考えていますか?

間野 うちの大学は比良という駅がある地域なんですが、この自然が気に入って、京都や大阪からの移住者も多いんですね。絵画や音楽、工芸製品とかアートの分野で人間国宝が3人いるんだったかな。木工や陶芸などの作家さんが結構いるんです。アートや音楽とスポーツをもっと融合させていけたらいいなと思っているんです。やはり、スポーツも音楽や美術などいろんな感性が必要で、スポーツ大学だからスポーツだけをやっていればいいわけではない。せっかくこの地にあって、自然もあって、そういうアーティストがいるのだから、もっとそういうものに触れる機会を持ってほしい。もっと豊かな、いまどきの言葉で言うと「ウェルビーイング」を育んでいく種はいっぱいあるんですよ。学生たちにそういうことを気づかせたい、気づいてほしいという思いはあります。

西川 うちのイベントにも、ぜひ、参加していただきたいですね。地元の学生のみなさんがイベントに積極的に関わってくださることで、どういう人がこういったものに興味を持ってくれているのかとか、僕らがどういったことを通じてみなさんにメッセージを届けようとしているのかとか、そういう解釈をしていただくだけでも、いろんな見方ができるんじゃないかなと思います。例えば、成安造形大学の学生さんが、フォトスポット的な作品を作って展示してくださっているんですよ。つまり、アーティストの展示スペース、かつフォトスポットにもなるという。また、立命館大学がパーク&ライドで手を挙げてくださったり、そういう形で地元のみなさんとどんどん繋がっているので、ぜひ、びわこ成蹊スポーツ大学の学生さんも、興味のある方は参加していただきたいです。

就職率100%の秘訣は挨拶にあり!社会で輝く人材の共通点

間野 それはぜひ実現させたいですね。うちの大学って、この何年か就職率がずっと100%なんです。

西川 びわこ成蹊スポーツ大学のすごいところは、名前にスポーツが付いているから、プレイヤーやコーチとかその周辺の方というイメージですけど、マーケティングもやりますから。

間野 スポーツビジネスや、スポーツパフォーマンスのデータ分析を専門にやっている学生もいます。

竹下 就職率100%はすごいですね。

間野 うちの学生のすごいところは、誰にでも挨拶をするところなんですよ。誰とすれ違っても、「おはようございます」「こんにちは」と言うんです。

西川 本当に大事です。

竹下 僕がトレーナーを入れるとき、正直、何を学んできたかというのは、実はあんまり問わなくて。今、先生がおっしゃったように挨拶ができるとか、気持ちいい人間かどうかがやはり重要なんですよ。特にトレーナーはお客様のパーソナルデータをほぼほぼ知っているわけですよ。その人が何を食べて、何時に起きて、今、どんな悩みを抱えているのかとか。そう考えると、やはり気持ちいい人であるってことは結構、重要なポイントなのかなと思います。挨拶って、どんな世界でも基本だと思うんですけど、意外にできない人が多いんですよ。

間野 挨拶や、スポーツを通して身につけた人間力が評価されて、就職率100%につながっていると思います。

竹下 中学生の野球チームの監督をやっていて、彼らにいつも言うのは、「応援される選手になりなさい」と。応援される人にならないと、いい情報ももらえないし、いい指導もしてもらえない。「そうしたらお前、うまくなれないじゃん」っていうのはいつも言っています。それは社会人になっても一緒だと思いますし、スポーツというのは、そういうことを学べるチャンスがありますよね。

西川貴教 | にしかわ たかのり

1970年滋賀県生まれ。1996年、ソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてデビュー。2018年から西川貴教名義での音楽活動を本格的に始動。2008年に故郷である滋賀県から「滋賀ふるさと観光大使」に任命された。また、県初の大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催し、地元自治体の協力のもと毎年開催している。2020年、滋賀県文化功労賞受賞。2019年にはNHKの連続テレビ小説『スカーレット』に俳優として出演するなど、多岐にわたって新しい挑戦を続けている。2020年と2021年、2年連続でベストボディ・ジャパン日本大会のモデルジャパン部門ゴールドクラスで優勝。2021年1月には50歳を記念した写真集『西川貴教 五十而知天命 ~五十にして天命を知る~』(小学館)が発売した。

西川貴教 写真

間野義之 | まの よしゆき

1963年神奈川県生まれ。1991年、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、同年に三菱総合研究所に入社。中央省庁・地方自治体のスポーツ・教育・健康政策の調査研究に従事。2002年同社を退職し、早稲田大学人間科学部助教授に就任。2009年には、早稲田大学スポーツ科学学術院教授に。2024年7月、びわこ成蹊スポーツ大学第6代目学長就任した。スポーツ庁・経済産業省「スポーツ未来開拓会議」座長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会参与など多数。著書に『オリンピック・レガシー:2020年東京をこう変える』(ポプラ社)、『2019・2020・2021ゴールデン・スポーツイヤーズが地方を変える』(徳間書店)、『スポーツファシリティ・マネジメント』(大修館書店)など。

間野義之 写真

デポルターレクラブ代表 竹下雄真 | たけした ゆうま

会員制トレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。1979年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。都内パーソナルトレーニングジムにてトップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わる。そのほか、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、早稲田スポーツビジネス研究所招聘研究員、経済産業省地域×スポーツクラブ産業研究会委員などを務めている。著書に『外資系エリートはすでに始めているヨガの習慣』(ダイヤモンド社)、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(パブラボ)などがある。

https://www.deportareclub.com/

デポルターレクラブ代表 竹下雄真 写真

取材・文・編集 服部広子
写真 松村シナ

*次回の「旅で解放する」は11月22日配信予定です。