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滋賀の食文化と自然を生かす 西川貴教が提案する新しい地方創生の形

滋賀の食文化と自然を生かす 西川貴教が提案する新しい地方創生の形

LIFE STYLE 旅で解放する

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トップアスリート、アーティスト、経営者が通う会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」代表の竹下雄真さんが、各界のトップランナーと対談し、旅を通したウェルネスや仕事術、地方創生などのお話を伺う新連載。第2回目のゲストには、故郷・滋賀県のふるさと観光大使としても活動する歌手の西川貴教さんと、びわこ成蹊スポーツ大学(滋賀県大津市)学長に就任した間野義之さんをお迎え、「地方創生と観光」をテーマに、地方創生の課題や自身の健康習慣などについてお話を聞きました(全5回の2回目)。

水の恵みが育む滋賀の美味

竹下 琵琶湖の水質保全の取り組みや比良山系の伏流水を利用した水文化のお話を聞いて、まず、滋賀は水が大きな資源だとわかりました。水がいいということは当然、美味しい食べ物もたくさんあるのでは?

西川貴教さんと語る滋賀の未来 「琵琶湖の水止めたろか」が映し出す価値観

間野 もちろんです。豆腐、そば、米、そして酒も美味しいですよ。そばは、日本そばの発祥の地として知られる滋賀県米原市の伊吹山の「伊吹そば」が有名です。江戸時代には、彦根藩主だった井伊家が徳川家康に献上していたと伝わっています。湖西地域では箱館山麓で採れたそばの実でつくる「箱館そば」もありますね。米は、「みずかがみ」という近江米の代表的な品種があって、さらに昨年、10年ぶりに「きらみずき」という近江米の新しい品種ができたんですよ。今年の秋から本格的に全国販売されます。

西川 「みずかがみ」は、滋賀県で温暖化に対応する品種として開発したお米で、高温に強いんですよ。

間野 環境にも配慮していて、農薬や化学肥料の使用量も半分以下に抑えて栽培しています。新品種の「きらみずき」もオーガニック栽培で安全安心、そして美味しい。コシヒカリに匹敵する美味しさだと言われているんですよね。

西川 とてもいいお米ですよ。しかも、比良の湧き水で炊いたお米は非常に美味しい。

竹下 そういうお話を聞くと、県外の方に滋賀に足を運んでもらって、ぜひ、ここのお水で炊いたお米を食べてほしいですね。

西川 毎年9月開催している「イナズマロック フェス」(滋賀県草津市にて)の会場内に滋賀県の魅力をPRするブースを設置していますが、今年は、世界農業遺産である「琵琶湖システム」の要素のひとつ、『環境こだわり米』に触れていただく内容で展開していただきました。これまでも「イナズマロック フェス」だけでなく、フェスから派生した食のイベント「イナズマフードGP」はじめ、さまざまなイベントを実施してきまして、11月には、彦根でお米を使ったイベント「SHIGA KOMECON 2024」を開催します。やはり、地域の魅力というところでは、お米は欠かせないと思いますし、お米の美味しさはもちろんのこと、お米がいかに日本人の体に合っている食べ物かということに注目していただきたいんです。食文化というものは、人間が何十年、何百年と生活を営むなかで、その地域、日本の風土に合った食べ物、調理方法などが習慣となって受け継がれてきた。ですから、本来の食生活にもう1回、回帰したほうがいいんじゃないかと考えています。今、日本は円安だと嘆いていますが、食物の自給率を上げるにはいいタイミングです。日本のいいものを再発見することにもっと力を入れるべきだと思います。

※ 写真はイメージ

間野 お寿司の発祥も、もともとは近江の鮒(ふな)寿しだと言われていますもんね。琵琶湖で獲れたニゴロブナなどを塩漬けにして、炊いたご飯を重ねて自然発酵させた鮒寿しは滋賀県の郷土料理です。

西川 また、昔は琵琶湖の西側は鯖街道(さばかいどう)と言われる道が数本ありました。福井県の若狭で獲れた海産物はその道を通って京の都に運ばれていたんです。その一つが鯖で、江戸時代になると鯖がたくさん運ばれるようになって鯖街道と呼ばれるようになりました。滋賀は海なし県ですが、その街道沿いにあったおかげで魚も食べられて、昆布もとれて、と昔から非常に豊かな土地なんですよ。

イナズマロックフェスが変えた地域PRの形

竹下 地域の魅力を再発見して、今後やっていかなければならないのはどんなことでしょうね。

西川 やはりPRです。いくら滋賀の人が控えめだと言っても、PR不足ではいいものも生かされませんから。そういう意味では、地方に欠けているもので、一番重要なのは革新的なデザインやアイデアですね。やはり、どうしても既存のものに頼りがちで、自治体のトップの高齢化が進むほど新しいアイデアは出てこないし、イノベーションが起きづらい。それこそ、そういうところにAI や新しい技術で補ってもらえたりしたらすごくいいなあって思います。

竹下 PRということでは、西川さんがやられてきた「イナズマロック フェス」も滋賀のPRになっていると思います。今年で16回目になるんですよね。今でこそ、地域復興を謳ったイベントも増えましたが、イナズマを立ち上げた当時は大変なことも多かったのではないですか。

西川 そうですね。まず、開催場所の草津市烏丸半島を、前知事の嘉田由紀子参議院議員に勧めていただいたときは、正直、アクセスもよくなかったですし、そこでやるべきかどうか悩みました。でも、やはりフェスに来られる県外の方に琵琶湖と滋賀の環境ということを理解してもらうためには、ここしかないなという思いで草津市を選びました。イナズマロック フェスをやっているからではないですけど、自治体としては、今、草津は圧倒的な力がありますよ。

間野 大津よりも?

西川 大津をはるかに凌いでいますね。草津、守山あたりは、イナズマを始めたころと大きく変わりました。草津市は、立命館大学の学舎があるので学園都市化していますし、若者だけでなくいろいろな方を受け入れる街づくりが進んでいます。また、守山には今度、駅前に村田製作所ができるので、そうすると、かなりの雇用が生まれると思います。また森中高史市長は40代で、とても精力的に活動されています。昨年、イナズマ会場までのシャトルバスの乗降場を守山駅直結にしたいという話になったとき、その森中市長が陣頭指揮をとって周辺住民の方を説得してくださいました。そんなふうに周辺の町のご協力もどんどん広がっていますし、フェスを取り巻く環境、交通インフラなどを含めて、イナズマが果たした役割は大きかったと思います。フェスという一つのカルチャーが日本に確立しましたよね。

間野 9月20、21日は両日、西川さんは出られるの?(取材は7月に実施)

西川 もちろんです。

間野 去年、誘っていただいたんだけど、小型船舶二級の免許を持っているんで、ボートで行きたいとお願いしたら、掛け合ってくださって。

西川 でも、プレジャーボートで来られては大変なことになるのでダメですって言われて。そうしたら間野先生、「じゃあ、行きません」って言って来なかったんですよ、ひどい人ですよ(笑)。

竹下 僕もフェスに行かせてもらいましたけど、バスのピストン輸送がとてもスムーズで、待つこともほとんどなかったですよ。

間野 フェスの収益の一部は県に寄付しているんでしょう。

西川 はい、チケット代の一部が寄付になるような仕組みを作りました。もともと海外に行くと、博物館や美術館を観て回るのが好きだったんですけど、どこもチケット代に寄付が含まれているのが当たり前じゃないですか。「寄付してください」じゃなくて、いいなと共鳴したものに対してや歴史的価値のあるものを守っていくためにみんなが寄付的な行為を行う。それはお金だけじゃなくてチャリティーでもいいんです。そういうことがもっと当たり前になったらいいなあと思って、それをチケットの中に導入したのはイナズマが走りではないでしょうか。

滋賀の可能性「なんでもできる分 地域が発展する」 

竹下 西川さんは、エンタメを通して地元の活性化に尽力してきましたが、地方でやることの難しさや、地元の人たちの理解を得るためにしてきたことは何ですか?

西川 今でこそ、さまざまな形でたくさんの方とお話させていただけるようになって、いろんなことがスムーズに運ぶようになりましたが、最初は大変でした。滋賀にしても、もともとは保守的な方が非常に多かったですから。10数年かけてようやく関係値ができて、ここからという感じですね。性急に進めたい気持ちがあっても、1つずつ対処しながら関係を築いていくことは大切ですし、そうして初めてできる関係性もあります。今後も、何ができるかということを丁寧に説明しながら進めて行きたいと思っています。

間野 リゾートトラストが、「サンクチュアリコート琵琶湖ベネチアンモダンリゾート」という会員制リゾートを琵琶湖の北のほうに作ったんですよ。年20泊で1番いい部屋が3,600万円くらいだったかな。それが今、バンバン売れているんです。ここのよさに気づき始めている人がいるというのは、僕にとってはちょっと脅威なんです(笑)。知って欲しいけど、そっとしておいてほしいところもあるし、滋賀県の人って、そんな感じじゃない?

西川 観光っていうことで言えば、自治体の方とかと話していると、まず名所旧跡を見つけて世界遺産登録させようみたいなことが多いんですよ。でも、それができたからって、行こう!とはならないと思いますし、見に来てくださったとしても、そこにホテルも、レストランもなければ、滞在してお金なんか落とさないですよ。場所とか特産品じゃなくて、そこでどういうサービスを提供できるかという意味では、滋賀はいろんな可能性があると思います。逆に言えば、 何もないからなんでもできるので、僕は、その発想でフェスやイベントを作ってきました。これが北海道とかね、大阪や京都みたいにコンテンツがひしめき合うような状態だったら何も入る余地がないですけど、滋賀はもう、先生がおっしゃるように、ポカーンとしてて、湖があって素敵でしょ〜、なんでもいいですよ〜みたいな感じなのでね(笑)。なんでもできるぶん、地域が発展する可能性は大いにあると思います。

西川貴教 | にしかわ たかのり

1970年滋賀県生まれ。1996年、ソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてデビュー。2018年から西川貴教名義での音楽活動を本格的に始動。2008年に故郷である滋賀県から「滋賀ふるさと観光大使」に任命された。また、県初の大型野外ロックフェス「イナズマロック フェス」を主催し、地元自治体の協力のもと毎年開催している。2020年、滋賀県文化功労賞受賞。2019年にはNHKの連続テレビ小説『スカーレット』に俳優として出演するなど、多岐にわたって新しい挑戦を続けている。2020年と2021年、2年連続でベストボディ・ジャパン日本大会のモデルジャパン部門ゴールドクラスで優勝。2021年1月には50歳を記念した写真集『西川貴教 五十而知天命 ~五十にして天命を知る~』(小学館)が発売した。

西川貴教 写真

間野義之 | まの よしゆき

1963年神奈川県生まれ。1991年、東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、同年に三菱総合研究所に入社。中央省庁・地方自治体のスポーツ・教育・健康政策の調査研究に従事。2002年同社を退職し、早稲田大学人間科学部助教授に就任。2009年には、早稲田大学スポーツ科学学術院教授に。2024年7月、びわこ成蹊スポーツ大学第6代目学長就任した。スポーツ庁・経済産業省「スポーツ未来開拓会議」座長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会参与など多数。著書に『オリンピック・レガシー:2020年東京をこう変える』(ポプラ社)、『2019・2020・2021ゴールデン・スポーツイヤーズが地方を変える』(徳間書店)、『スポーツファシリティ・マネジメント』(大修館書店)など。

間野義之 写真

デポルターレクラブ代表 竹下雄真 | たけした ゆうま

会員制トレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。1979年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。都内パーソナルトレーニングジムにてトップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わる。そのほか、慶應義塾大学SFC研究所上席所員、早稲田スポーツビジネス研究所招聘研究員、経済産業省地域×スポーツクラブ産業研究会委員などを務めている。著書に『外資系エリートはすでに始めているヨガの習慣』(ダイヤモンド社)、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(パブラボ)などがある。

https://www.deportareclub.com/

デポルターレクラブ代表 竹下雄真 写真

取材・文・編集 服部広子
写真 松村シナ

*次回の「旅で解放する」は11月8日配信予定です。