相撲愛が止まらない ANAで追うロンドン場所の夢

これまで隠していたわけではないが、私は大の好角家(こうかくか)である。物心ついたときからの相撲好き。理由は単純だ。大鵬、北の富士、北の湖、千代の富士らの横綱に憧れて、本場所中はテレビの大相撲中継に釘付けだった。同郷の関取が優勝しようものなら大喜びで、場所終了後も余韻に浸ってしばらくは興奮冷めやらずという少年時代だった。
札幌巡業の際、開催会場の近くに実家があり、毎年ちゃんこ番の力士が家に七輪を借りに来ていた。玄関に立ち塞(ふさ)がる何人もの巨漢力士に大はしゃぎした思い出が甦ってくる。
本場所を観る機会は上京した後もなかなか訪れることがなく、もっぱらテレビ観戦だったのだが、私がミュージシャンとしてステージに立っていたある日のこと。楽屋に鬢(びん)付け油の香りを漂わせつつ現役のお相撲さんが訪ねてきた。2場所連続で横綱貴乃花から金星を挙げるなど絶好調の前頭筆頭・敷島関(現・浦風親方)が、「マンボ最高っす!」と現れたのだ。ライブ会場やナイトクラブを、ちょんまげ、浴衣姿で渡り歩き、DJをする姿が“渋谷系関取”と呼ばれていた。
現役引退の際、国技館の土俵上で、私は敬意を表してフリフリ袖のマンボな正装で断髪式に臨んだ。同じく相撲好きの友人だった消しゴム版画家の故・ナンシー関さんは「私も土俵に上がって敷島関の髪を切りたかったな〜!」と枡席(ますせき)から悔しがっていた。
歳を重ねて気がつけば、本場所を前相撲、続く序の口の取り組みから中入り、結びの一番まで朝からじっくり9時間以上に及ぶ生の相撲観戦というのが、私にとっては飛行機に乗り続けるのと同等の尊い趣味となった。言っても羽田→シドニー片道の搭乗時間とほぼ同じに過ぎないのだが、一人あたりの占有面積は、枡席でも溜席(たまりせき)でも飛行機のエコノミー席の半分程度しかない。これは、がんばって結びの一番まで耐えるしかない。
ANAマイラーの相撲好きの紹介で、熱海富士、尊富士、伯桜鵬、翠富士、草野、宝富士、錦富士と人気の関取が大勢所属する伊勢ヶ濱部屋で、本場所前に出張“餃子づくり”をしている。前日から仕込み始めて、朝の稽古終了後の朝ごはん開始までに1200個を包んで焼くのは、なかなかの“修餃(しゅぎょう)”である。餃子を頬張る力士たちの姿に惚れる。

今月、34年ぶりに大相撲ロンドン場所が開催されることとなった。今年の春先に海外巡業の予定が発表されるや否や、直ちに観戦チケットの手配をすると同時にANAのロンドン行きの航空券の予約を済ませた。もしかして関取御一行と同じ便だったらとか、想像力をフルに働かせて便と席を選んだ。体の大きな関取は、ビジネスクラスではなく、エコノミー席を2席分使うかもしれないなどという噂も耳にする。空港や機内でバッタリ遭遇できたら嬉しいなぁ。
〜つづく
イラストレーション/ソリマチアキラ
パラダイス 山元 | ぱらだいす やまもと
プロ搭乗客。 ANA ミリオンマイラー。音楽家。餃子レストラン「荻窪餃子 蔓餃苑」オーナーシェフ。著書に『読む餃子』、英語版・フランス語版餃子レシピ本『GYOZA』、『パラダイス山元の飛行機の乗り方』『なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?』などがある。全国各地で開催中の「皮からつくる本気の餃子づくり教室」などの出演イベントの詳細は X(旧Twitter) で発信中。
X @mambon

翼の王国のアンケートにぜひご協力ください。
抽選で当選した方にプレゼントを差し上げます。