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飛行機に1人で乗る人へ おすすめ座席は「予約困難の修行席」

飛行機に1人で乗る人へ おすすめ座席は「予約困難の修行席」

LIFE STYLE 快適な空だけの旅

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これまでの人生を振り返ってみると私はずっと損をし続けてきたのかもしれない。「こんな美味(おい)しいもの、食べないと損するわよ」と、子どもの頃、何度も母親から言われていた。実際口にして美味しかったためしがなかった。ところが、大人になって、そういえばあの時まずいと感じたアレを食べてみたら意外にも美味しかったというものが、ここ最近増えている。食わず嫌いというのではなく、一度食べてはいたものの、歳をとって味覚が変化してしまったのか。それとも、美味しいものばかり食べすぎて、自分の舌先の評価軸がブレてしまったのか、原因がなんなのか自分でもわからない。

飛行機の座席選びでも、たぶん損をしていた。飛行機でも鉄道でも窓側原理主義の私は、国際線でも国内線でも、あまり考えずにとりあえず窓側をアサインする癖がついている。深夜の長距離便の普通席などではお手洗いに行くのに、窓側席からだと隣に座った見ず知らずの方を跨(また)いで通路へ出ることになったり、寝ている場合は声をかけて起こして一旦立ってもらわなければいけないこともままある。隣人が立ったついでに、同時に自分も用を足しに立つ場合も。

最初から通路側を指定しておけば、いつでも行きたい時に行けるという考えもわからないではないが、隣人に何度も立たれてしまうと、その都度自分も立たないといけなくなる。それよりも窓側席で、自分のペース優先で、外の景色をずっと眺めていた方がよかったりする。

イラストレーション ソリマチアキラ

搭乗直前の予約で、窓側席が1席しか空いていなかったことがあった。窓側席だから窓があってあたりまえと思って搭乗したら、その窓側席には窓がなかった。機体構造上、継ぎ目の位置にあたるらしいのだが、これには面食らった。あってあたりまえの窓がない。グランドハンドリングのグッバイウェーブも、離着陸風景も、大好きな富士山も見ることができない。そんな時に限って「左手に大変美しい富士山がご覧頂けます」などとアナウンスが入ってしまって地団駄を踏むことに。ところが、この景色もなにも見えない窓なし席の居心地が、思いのほかよいのだ。ここは、瞑想(めいそう)したり、仕事をしたり、一人で搭乗する際、何事にも集中できる。この原稿も、窓なし席に座って携帯端末で書いている。窓なし席は、予約画面上の座席表に斜め赤線で“窓なし”と表示されている。機種によって、前方、中央、最後尾に1、2、4席とまちまち。

比較的窓側席にも空席が多い便でも、精神を集中したい時はあえてここをアサインするようになった。もっと以前から窓なし席の価値を体験していたらと悔やむほどだ。正直なところ、今は人気のない席なのかもしれないが、今後は“修行席”として予約の取れない人気席になってしまいそうな予感がする。

〜つづく

パラダイス 山元 | ぱらだいす やまもと

プロ搭乗客。 ANA ミリオンマイラー。音楽家。餃子レストラン「荻窪餃子 蔓餃苑」オーナーシェフ。著書に『読む餃子』、英語版餃子レシピ本『GYOZA』、『パラダイス山元の飛行機の乗り方』『なぜデキる男とモテる女は飛行機に乗るのか?』などがある。全国各地で開催中の「皮からつくる本気の餃子づくり教室」などの出演イベントの詳細は X(旧Twitter) で発信中。

X @mambon

パラダイス 山元  写真