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横浜中華街の春節を彩る獅子舞 地域と未来を繋げる若者たち

横浜中華街の春節を彩る獅子舞 地域と未来を繋げる若者たち

ENTERTAINMENT

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今年で4年目を迎えた2025年の横浜春節祭も2月28日に閉幕した。煌びやかなランタンオブジェや祝賀行事に欠かせない獅子舞を一目見ようと、今年も多くの人々が訪れた。

横浜中華街は、毎年春節(旧正月)の時期になると多彩なイベントで賑わうが、なかでも特に注目を浴びるのが中華獅子による獅子舞のパフォーマンスだ。獅子舞は、古くから中国で行われてきた伝統的な舞踊で、邪を祓い、福を呼ぶ「神の化身」として親しまれている。そして、この伝統を現代に引き継ぎ、パフォーマンスを行っているのが地元の若者たちだ。彼らは幼いころから獅子舞の訓練を受け、その技術と精神を受け継いできた。

横浜春節祭では、2024年から「新年の幸福と繁栄の祈願」と「令和6年能登半島地震の早期復興祈願」のW祈願として、「W祈願獅子舞」を披露。学生たちによる中華獅子舞体験ワークショップを実施するなど、若い世代の活躍が祭りをいっそう盛り上げた。

元町冬まつりで大賑わい 5歳児も龍舞で魅せる

2月1日、元町ショッピングストリートで開催された「元町冬まつり」では、獅子舞と龍舞、そして福を振りまく財神様も登場。爆竹の合図でスタートしたW祈願獅子舞は、太鼓やシンバル、ドラの音に合わせて獅子が跳びはねたり、回転したり。2人1組で舞う獅子舞は、1人は獅子の頭を、もう一人は獅子の尾を担当するが、2人の息の合った動きで、獅子がまるで生きているかのように見える。色鮮やかな衣装と華麗な動きで観客を魅了する。

パフォーマンスを見守る観客に近づき、頭をかしげたり、尻尾を振ったり、眉を動かしたりする愛らしい動作を見せる2頭の獅子舞。観客が「紅包(ポンパオ)」と呼ばれる赤いご祝儀袋を差し出すと、獅子が巧妙にくわえる姿を見ることができ、さらに、獅子に頭を噛まれると、魔除けや健康長寿のご利益があるとも言われている。横浜春節祭では昨年から引き続き、能登復興支援のチャリティー獅子舞という形で観客からのご祝儀は全額能登に寄付されている。

この日、パフォーマンスを行ったのは、横浜中華学校校友会国術団のメンバーで、高校生や大学生が中心だ。「祖父も父も獅子舞をやっていて、父は横浜中華街にある自分の店で、宴会のときに獅子舞を披露している」と語る大学生は、野球部の練習のかたわら、獅子舞の特訓に週4日費やし、春節に備えてきたという。練習を重ねたその動きは、力強さとしなやかさを兼ね備え、見る者に感動を与える。また、獅子舞を始めてからまだ2年だという17歳の高校生は、「先輩たちがいろいろ教えてくださる」とあどけない笑顔を見せたが、獅子舞のいちばんの面白さを聞くと、「お客様に楽しんでもらえたらいいなと思っているので、見てもらうと張り合いがある」と胸を張った。

続いて、横濱中華幼保園の5歳児クラスの子供たちによる龍舞がスタート。日本でも水の守護神として崇められている舞は、神獣であり神様そのもの。その龍が舞う龍舞は、中国の伝統的な舞踊で、数千年前、中国での雨乞いの儀式として行われたことが起源と言われている。現代では、雨乞い、新年の豊作祝賀、悪霊を追い払うために行われ、色鮮やかな衣装とともに華麗な舞を披露する。「日々の練習の成果をこういった行事を通して披露するため、子供たちは一生懸命頑張っています」と担任の先生。幼保園では、龍舞、獅子舞の授業があり、5歳児は毎週木曜日に龍舞の練習をしているという。

この日も、園児たちは、長い龍の模型を持ち、動きを合わせて龍が生きているかのような舞いを披露。太鼓やシンバルのリズムに乗って、リズミカルなステップを踏み、チームワークはなかなかのものだ。龍舞は単なる舞踊ではなく、団結力や互いに助け合うことの大切さを学ぶ場。元町ショッピングストーリーに買い物で訪れた人々も、子どもたちの可愛らしいパフォーマンスに足を止め、顔をほころばせる。幼保園では、龍舞の伝統を大切にし、園児たちにその技術と精神を伝えているが、横浜中華街の文化・伝統は、こうした地域の子どもたちによって支えられているのだ。

獅子舞がつなげる世代間の絆「教えることは学ぶこと」

2月15日には、横浜ハンマーヘッドで中華獅子舞体験ワークショップが開催された。幼稚園の年長さんから小学校6年生までの参加者は、横濱中華學院の高校生たちに獅子舞の基本を教えてもらうことができるというイベントだ。最初ははにかんでいた子供たちも、次第に目の色を変えて熱心に獅子の動きを習得していく。

年齢に合わせてグループに分かれ、高校生たちの丁寧な指導を受け、基本動作を覚えた子供たち。イベントの最後には、1時間の練習の成果を披露するため、実際に獅子を使った演舞にも挑戦した。一生懸命に取り組む子供たちを見守る親たちも興奮した様子だった。

ワークショップに参加した子供たちのなかには茨城からやってきたという兄弟もいた。お母さんの話では、昨年の横浜春節祭で獅子舞を見たのがきっかけで獅子にどハマりしたという。家では、昨年の春節祭のときに買った獅子の頭を被って練習しているのだとか。獅子のどこが好きなのかを訊ねると、「迫力があるところ。トカゲみたいな、爬虫類系が好きで、獅子も似たような形だと思う」と9歳のお兄ちゃん。最初は日本の獅子に興味を持ち、太鼓の団体にも入っているという強者だ。そんな兄の影響で中華獅子舞が大好きになったという弟と揃って、ワークショップ後に開催された「獅子舞お絵描き」にも参加してくれた。

地元からも大勢の子供たちが参加。元街小学校に通う小学2年生の女の子は、学校で龍舞を習っているが、獅子舞もやってみたいと、ワークショップに参加した。「初めてやった獅子舞は、思ったよりも難しかったけど、楽しかった!」と満面の笑み。

一方の講師に挑戦した高校生にも感想を聞いた。年長さんの指導を担当した高校2年生の下田隆聖くんは、「子供たちに教えるのは楽しかったです。みんな覚えがよくて、積極的に手を挙げてくれたのでやりやすかったです」と満足げな表情。同じく高校2年生の林宗馬くんは、「小学生になるとあまりやりたがらないんじゃないかと思っていたんですけど、意外にみんなやりたい! やりたい! っていう感じだったので、すごく教えがいがありました」と目を輝かせた。

そんな子供たちを見守ったのは、中華學院で伝統文化指導を担当する謝賢栄さん。今回、初めて横浜中華街の外でワークショップを実施したことについて、「やって良かった」と語り、次のように言葉を続けた。

「子どもたちがみんな目をキラキラさせて、獅子舞に興味を持ってくれたことが本当に嬉しかったです。子どもたちは本当に一生懸命やってくれました。改めて、獅子の力というもの、獅子舞は素晴らしい文化だと再認識しました」

生徒たちの指導ぶりについて、「生徒たちには常々、人に教えることは学ぶことだと言っています。今日、自分が人に教える立場を経験して、教えるということの難しさ、大変さ、楽しさというのを会得し、獅子に対する理解をさらに深めてくれたのではないかと思います。まさに、W春節にかけて私もWハッピーで、嬉しい気持ちとか感謝の気持ちでいっぱいです!」と目を細めた。

競技スポーツとして普及 獅子舞の新たな可能性

獅子舞は古代中国に起源を持つ伝統的な舞踊で、その歴史は2千年以上前にさかのぼる。学生たちは伝統文化の授業の一環として獅子舞や龍舞の技術を学び、春節や祝賀行事などで演技を披露している。幼い子供たちが獅子舞に触れるきっかけはさまざまだが、そうした行事で獅子舞を見て、「かっこいい!」と思うところから始まることも少なくないようだ。伝統や文化というのは、そんな小さな感動がいくつも重なった先に大きな力を持つのかもしれない。

近年ではその芸術性と技術が評価され、競技スポーツとしても広がりを見せている中華獅子舞。ワークショップに参加したスタッフのなかには、日本代表として世界獅子舞大会に出場した横濱中華學院校友會の長島伶翔さんの姿も。1月21日、横浜市役所で開催されたオープニングセレモニーでは、直径わずか数十センチのポールの上を自在に跳ね回るダイナミックなパフォーマンスを披露した。

「普段は、横浜中華街のイベントのみならず、地元横浜はじめ地方のイベントや企業のパーティ、結婚披露宴などにも出演しています。一昨年、2年に一度マレーシアで行われる獅子舞界最大の大会でもある世界大会に出場したのをきっかけに、さまざまな大会に招待されるようになりました。参加国は、台湾、香港、中国、マレーシア、シンガポールなど東アジアや東南アジアがほとんどで、中華圏ではない日本でここまで獅子舞をやっているというだけで注目を集めています。競技獅子舞の世界大会は、スノーボードのXゲームのようなイメージで、競技性が高くなり、パフォーマンスの難易度が非常に高いのが特徴です」

獅子舞は能登も訪問 「忘れない」が復興支援の鍵 

最後に、2024年の春節から新年祝賀と能登半島地震早期復興のW祈願獅子舞を推進してきた横浜春節祭戦略企画担当の安東千幸さんにW祈願獅子舞を実施した経緯や想いと、昨年10月、実際に能登を訪問し、祈願獅子舞を披露したときの住民の様子について伺った。

「2024年の横浜春節祭は、2月1日にスタート。能登半島の地震は、その1カ月前に発生しました。募金箱を設置して、募金を呼びかけること以外にも、横浜中華街ならではのことができたらいいなあと思って。獅子舞のご祝儀袋(ポンパオ)を配布して、獅子舞にいただくご祝儀を能登の復興支援のために全額寄付することを相談したんです。そうしたら、応援企業や観客のみなさま、そして獅子舞を演じる演者の方たちも快く協力してくださって、2025年の横浜春節祭も継続してチャリティー獅子舞をやってくださいました。獅子舞のチャリティーイベントで特に印象に残っているのは、親御さんだけでなく、子供たちが自ら自分のお小遣いを袋に入れて『獅子さん、どうぞ』と差し出している姿です。横浜中華街で育まれた文化伝統が、人々の心に響き、笑顔で参加してもらえることがわかりました。

横浜市庁舎では、能登復興の願いを込めて、メッセージボードが設けられている

さらに昨年は、『ゆるキャラグランプリ』とのご縁があり、能登を元気づけるイベントをやると聞いて、ぜひ祈願獅子舞を披露したいと、震災後初めて能登を訪問し、獅子舞演舞とチャリティーバザーをさせていただきました。能登の人たちは、初めて見た獅子舞の躍動感に驚き、魅了されていた様子で、みなさんすごく笑顔になってくださいました。また、一緒にステージに立った吹奏楽部の中学生の『横浜からわざわざ来てくれたことがうれしい』という言葉で心が温かくなりました。復興支援というのは10年、20年かかる長期的なものです。支援が一瞬で終わってしまわないように、継続的なコンタクトが重要で、それは、私自身、東日本大震災のボランティア経験から、『忘れないで』という言葉が支援の鍵であることを学びました。これからもまだ復興道半ばの能登地域の支援を続けていきたいと考えています」