山形の石は語る──化け石と歩く山形観光 無添加の蕎麦と季節のパフェに出会った
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!?ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
山形県 化け石

情けは人のためならず。不思議な力を持つ、石の恩返し
上山市・生居の伝承。あるとき大きな石が通りがかりの庄屋の主人に「子どもたちが飢えている」と食糧を懇願した。一俵分の握り飯を与えたところ、礼にと小石を渡された庄屋はみるみる繁盛した。
ご利益 商売繁盛
妖怪から広大な石切場へ 山形を彩る石の文化

山形で化け石のことを尋ねても「知っている」と返ってきたことがなく、非常に心細くなるが、地元の県立図書館に行ってみると……あるわあるわ、何冊にもわたって伝説が見つかった。
夜な夜な化けると噂される大きな石が、あるとき「子どもたちが飢えている」と、庄屋の主人に飯を乞う。庄屋が一俵の米でありったけの握り飯を作り石に供えると、たくさんの手が出てきてあっという間にたいらげた。礼に、と化け石から渡された小さな丸い石を庭の池に沈めると、みるみる商売は繁盛した。
妖怪によくある、善行の報いを伝えるための話であり、身を削らずして簡単に成功すると思うなかれという教訓が感じられる。この石は生居(なまい)で見ることができるが、近付くことはできない。深々とした植物に囲まれ、えもいわれぬ貫禄がある。筆者は、握り飯を掴む大きな石の姿を造形してみた。

 
            瓜割石庭公園。職人たちが長い時間をかけて切り出した石が作る景観は、高さ20~30mの崖となって残されている。入り口ではボランティアの歴史の語り部が説明してくれる。また時折この崖に囲まれた中でコンサートも催されるとのこと。
瓜割石庭公園
山形県東置賜郡高畠町安久津
調べてみると、山形には石や岩に関する名所が多い。中でも圧倒されたのが、高畠町(たかはたまち)の「瓜割石庭公園(うりわりせきていこうえん)」だ。切り立った崖のように見えるが、実は大正12年から平成22年の87年間、ほぼノミによって人の手で採石された跡の景観だ。
500万〜700万年前のカルデラ噴火による火砕流堆積物で、高畠石としてさまざまな歴史的建築物に使われ、今も町内に点在している。途方もない職人たちの歴史を感じつつ頂上をよく見ると、数匹の猿がこちらをじっと見ていた。

生居の化け石
山形県上山市下生居新山吹396
石が誘う美食の世界と岸壁に宿る祖先の魂
街でも石を追いかけてみようと、山形市内へ。「蕎麦処かねひろ」では、毎日提供する分の蕎麦粉を都度、石臼で挽(ひ)いているので、香り高い蕎麦が味わえる。店の奥では石臼が常時かいがいしく稼働して、挽いた蕎麦粉がほろほろとこぼれ落ちる様子を見ることができる。
 
            石臼に少しずつ落ちる蕎麦の実

店は令和元年オープンで7年目、無添加の蕎麦粉は劣化しやすいため、とにかく挽きたて打ちたてを提供したいという、店主の熱い思いで開店した。


蕎麦処かねひろ
そして入り口を形作る石の壁がなんとも美しく重厚なバー、「ROOTS」へ。夜はバーだが、昼はカフェとして営業されるこの店の看板は、地元フルーツたっぷりの美しいパフェ。洞窟の中のように落ち着く環境と、華やかなスイーツがユニークなギャップを醸し出している。
パフェには生ビールか山形のナチュールワインが用意され、しばし外界と切り離された静かな世界に没入できる。



子宮をイメージしてデザインされた店内で、静かに季節のパフェをいただく至福のとき。地元産フルーツは月により入れ替わる。9月はいちじく(ROOTS)
ROOTS
カフェのオーナーから「石といえば……」ということで教えてもらったのが、「峯(みね)の浦(うら)・垂水遺跡(たるみずいせき)」。山形駅からは車で20分ほどで、山寺が点在する霊所にたどり着く。
線路をまたぎ、山道を登ること15分ほどで、荘厳な石の遺跡が現れる。巨大な岩山には、まるで何かの力によってできたような窪(くぼ)みや洞窟があり、小さな神社が点在している。大正時代まで山伏が居住修行をしていたとのことだが、ここでの生活はさぞ厳しかったであろう。
先ほどの瓜割石庭公園が人の手による景観、この垂水遺跡は幻想的な天然の景観だ。石に始まり石に終わる、想像を超える山形の旅になった。

峯の浦・垂水遺跡
山形県山形市山寺千手院
参考
『月刊かみのやま』第94号(書肆犀)
『やまがた散歩』No.121(やまがた散歩社)
『山形民俗通信』第1号(山形県民俗学会)
『よくわかる地形・地質』ユーキャン学び出版(自由国民社)
『やまがた景観物語100』(リンクス出版部)
取材・文・造形 森井ユカ
        立体造形家/キャラクターデザイナーポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
撮影 五味茂雄
編集 中野桜子
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