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変幻自在、神出鬼没。柿の妖怪はどこにいる?

変幻自在、神出鬼没。柿の妖怪はどこにいる?

ENTERTAINMENT 宮城県

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ニッポン全国津々浦々、6000あまり存在するという伝承から都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、独自の解釈で造形しました。妖怪に誘われるがまま旅にでかける空飛ぶ百鬼夜行に、ようこそ。

たんたんころりん

仙台駅東側の二十人町に伝わるとされる柿の妖怪。晩秋、柿の実を収穫せずに放置しておくと僧や入道に化け、柿を方々に投げながら町を練り歩いたり、甘い香りの排泄物を撒いて回るという。

クリエイターの創造力を刺激してやまない、いくつもの姿を持つ妖怪が日本にはたくさん存在する。有名どころでは河童や天狗が代表格だが、コロナ禍で一世を風靡した熊本県のアマビエも記憶に新しい。仙台発祥とされる柿の妖怪「たんたんころりん」も、水木しげる氏をはじめ漫画家やイラストレーターなど、描き手により姿が大胆に変わっている。「柿を枝に放置し続けるとたんたんころりんがやってきて、町中に柿の実を投げ散らかす」という。残さずありがたく収穫しろという教訓から生まれ た妖怪であろう。僧に見えるという伝承もあることから、人らしい姿で描かれることも多い。筆者は柿の実そのものからたくさんの手が伸びている風体(ふうてい)で造形したが、これは絵本作家・沼野正子氏の解釈に近い。不思議なことに仙台のあちこちで尋ねても、この妖怪を知っていたという人はまずいなかった。地元の友人知人はおろか、飲食店や図書館、観光案内所にも。庭の柿の木が激減した現代では、描こうという者にのみ降りてきて、人の中に住みつくことはなくなったのだろうか。

柿を探して東奔西走 妖怪追ってどこまでも

意外にもその知名度はかなり低いと言わざるを得ない、柿の妖怪たんたんころりん。柿を収穫しないで放置する と、妖怪となって柿の実を投げながら町を練り歩く。いつ頃からの伝承なのかは謎だが、発祥の地は仙台駅東側の二十人町(にじゅうにんまち)とされている。ところが現在ここに柿の木はない。驚くほど広い車道の両側にはいくつかの寺や学校があり、そこそこ樹木も生えているのだが、残念ながら肝心の柿の木を見つけることはできなかった。
 仙台出身で山旅文筆家の大内征氏に聞くと、昔は飢饉(ききん)に備え頼れる存在だった柿の木も、近年は簡単に実が手に入るようになったことや、落ちた実を片付ける作業などの煩(わずら)わしさから、仙台の中心部に残したり、新たに植えたりするということはなくなったのでは……とのこと。妖怪たんたんころりんが出現しようにもできない現状に落胆したが、ならば気を取り直し柿の実を使う料理店を探すことにした。

柿を贅沢に使ったブルスケッタがあるというイタリアンの『arco』を二十人町の大通りからすぐ、仙台駅東側に見つけた。この厚み! 迫力あるブルスケッタは、焼き目のついた柿の下からペコリーノチーズが顔を出す。ステーキを食べるように頬張れる、大満足の一品。柿の時季が終わればその季節に合った果物が登場する。パスタは全て手打ちで、とても小さなラビオリ「トルテッリーニ」の滋味深いスープには感動した。

そしてもう一軒、駅の西側に訪ねた柿料理のお店もイタリアン。イタリアでは日本から伝わった柿が「kaki」とそのまま呼ばれ、素材として使われているそうだ。東京・目黒の名店『トラットリア・チャオロ』が新たに仙台に出店した姉妹店、ラザニアが名物の『オステリア・カンタービレDaチャオロ』ではシェフがイタリア修業時代に作っていた品をいただいた。オードブル(写真左)は、柿をレモン、塩、エクストラバージンオリーブオイルでマリネし、生ハムで巻いたもの。甘くとろける柿に塩味ある生ハムはこれ以上ないほど相性がよい。香り高いマルサラ酒(シチリア島の酒精強化ワイン)風味の柿のソテーに、マスカルポーネのアイスを添えたデザート(写真右)。温かい柿とアイスの取り合わせはお店でないと味わえない、至福のひととき。宮城の食材がふんだんに使われ、2月頃からは県産の魚介を使ったアクアパッツァが楽しめる。どちらの店でも日本の柿の個性が余すことなく生かされ、濃厚で奥深い味わいが楽しめた。ということはここにもたんたんころりんの出てくる幕はなさそうだ。

どうしても柿の木を見たく なり、仙台からレンタカーを調達して南部の丸森町へ向かう。都市部を出てやや険(けわ)しい山道を走ればポツリポツリと柿の木が見え始め、心からホッとする。茶色い柿の木の幹と目の覚めるようなオレンジ色の柿の実は、改めて日本の原風景に相応(ふさわ)しいものだと実感した。ここで作られているとろける舌触りの干し柿は、1月上旬から出回り始める。

仙台から南下すること約50km、丸森町に柿の里があった。『いなか道の駅やしまや』では、丁寧に剥かれた柿がずらりと干された光景は壮観この上ない。縦に吊るすのではなく横に連ねれば、実がどこにも触れず美しい形のまま仕上がるそうだ。11月には干し柿ワークショップが数回開かれる。また干し柿の販売は毎年1月上旬頃から。
『いなか道の駅やしまや』店主の八島哲郎氏に周辺を案内していただく。何度となく水害に見舞われた地であるが、人は住み続け木々もたくましく実を付ける。撮影時、柿の季節は終盤。春からはタケノコの収穫に沸く。

枝に残る丸森町の柿の実。たんたんころりんに出てきてほしいような、ほしくないような。仙台での柿探しから、丸森町へ足を延ばすことによって宮城県の広さを実感できた旅。今回も妖怪に感謝せねば。

森井ユカ

立体造形家/キャラクターデザイナー。ポケモンカードゲームのイラストレーション、小麦粘土セット『ねんDo!』のディレクションなどを担当。著書多数。

出典:『決定版 日本妖怪大全 妖怪・あの世・神様』水木しげる(講談社文庫)/『東北怪談全集』山田野理夫(荒蝦夷)『こどものとも年少版 タンタンコロリン』沼野正子(福音館書店)/『東西の食文化−日本のまんなかの村から考える−』大石貞男(農山漁村文化協会)

取材・文・造形 森井ユカ
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子

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