うどん県・香川の隠れグルメ「骨付鳥」を食べ歩く 妖怪ケマリと百鬼夜行
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!?ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
ケマリ

仲多度(なかたど)郡の伝承。夕暮れの道を歩いていると、灰色の毛が生えた手毬が足にまとわりついてくる。じゃまなので蹴飛ばすが、蹴飛ばすごとにどんどん大きくなり……最後には股座(またぐら)いっぱいの大きさになってしまう。
ご利益 家内安全
謎の妖怪ケマリを追えば絶品うどんに行き当たる
「……で?」と思わず口を衝(つ)いて出てしまう妖怪話は少なくない。しかしそれこそが妖怪さんぽの醍醐味。その成り立ちを考えてみるのはとても楽しい。
仲多度郡まんのう町に伝承が残る妖怪ケマリ(ケマクリ、アシマガリとも呼ばれる)は、夕暮れの道を歩くと足にじゃれついてくる灰色の手毬(てまり)。じゃまになって蹴ってもまたついてくる。蹴るたびに大きくなり、ついには歩けなくなってしまうという妖怪。筆者の独自の解釈でケマリを造形し、香川に飛んだ。
古い地名を今に置き換えると、野口川の近くだった。行ってみると細い山道だったので、夜に出る獣などを警戒する教訓が生んだ妖怪なのかもしれないと思った。しかしその後聞いた話では、のどかに見えた地域でも、江戸時代には歴史に残らない領地争いが多く繰り広げられていた……という説もあり、獣どころではない可能性もありそうだ。
さてこの伝承地のすぐ近くにあるのが、訪れた人々に鮮烈な印象を残す「谷川米穀店」のうどん。香川でうどん巡りをする人は多いが、ここは都市部からは離れた、うどん愛が試される場所にある。うどんには生卵とネギ、醤油と酢をかけ、決め手は自家製の青唐辛子の調味料「青明神」。辛いのになんと味わい深いことだろうか。ケマリにじゃまされたらたまったものではない、明るいうちに、そして早めに訪れることをおすすめする。


山あいの店に入ると、中には大きな釜で麺が茹で上げられる蒸気が立ち込め、いやがおうにも食欲が刺激される。ツヤ、コシのある極上の麺があっという間に胃に滑り込み、おかわりをする人も多い(谷川米穀店)



多彩な調味料から自分で味付けできるが、筆者の定番は酢と生醤油、それに青唐辛子の自家製調味料「青明神」。忘れられない味になる(谷川米穀店)
谷川米穀店
香川県仲多度郡まんのう町川東1490
0877-84-2409
うどん・鶏もも・こんぴら参りケマリが来ないうちに急げ
もう一つのうどんの聖地、「日の出製麺所」。坂出(さかいで)駅の近くにありアクセス抜群、1930年に当地で創業された。地元客の要望を叶え、製麺所の一角で昼の1時間だけ食事の提供をするように。麺のみオーダーして、テーブルにずらりと並ぶ調味料、薬味、ちくわの天ぷら、甘辛く煮た「味付け肉」などから好みのものをトッピングする。歴史を守ってきた製麺所としての味と技術が込められた、ここでしか味わえない麺がある。



茹でたてにだし醤油をかけてもポットに入っただし汁をかけても。自分なりのアレンジができるのが魅力

日の出製麺所
そして香川で飲食店が集中したエリアを歩くと、すぐに気づくことがある。スパイスで味付けした鶏のもも肉を揚げた「骨付鳥」を出す店のなんと多いことか。その元祖といわれる1952年創業の「骨付鳥一鶴」(土器川店)を訪ねた。歯応えがあり濃厚な旨みの親鶏と、柔らかくてジューシーな雛(ひな)鶏があるが、肉自体だけではなく、染み出た脂の味わいもそれぞれ個性があり、これをおにぎりやキャベツにつけていただくのがたまらない。まさしく四世代に愛される香川の味だ。




店内でじっくり焼かれるため、うっとりするような香りが外にも漂う。食べ方に作法はないが、残った肉汁をおにぎりにつけていただくのがたまらない(一鶴 土器川店)
骨付鳥 一鶴 土器川店

境内での商いを許された、五人百姓の5つの傘が見える(金刀比羅宮)
さて香川まで来たら、ここに行かずしてどこに行く?ということで、海の守神であり薬・医療・商売のご利益がある「こんぴらさん」(金刀比羅宮(ことひらぐう))へ。御本宮まで785段の石段があるが、上り切った達成感と絶景に、体全体で記憶する参拝になる。
金刀比羅宮
香川県仲多度郡琴平町892-1
ここには日本で唯一の、境内で商売を許された5軒「五人百姓」が作る、美しいことこの上ない「加美代飴(かみよあめ)」が販売されており、ご利益を分け合える何よりの土産になる。約30代続く五人百姓の一つ「池商店」では、新たな若き世代が伝統を守りつつ革新的な試みにも挑戦していた。






妖怪を追いかけたら、美味しいものとともに明るい未来が見えたようだった。でも、夜道の独り歩きはケマリにお気をつけて……。
五人百姓 池商店
参考
『琴南町誌』琴南町誌編纂委員会(琴南町)/『香川県史第十四巻資料編民俗』香川県(四国新聞社)金刀比羅宮公式サイトwww.konpira.or.jp/『金毘羅山名所図会』文化年間編纂
取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子
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