メインコンテンツにスキップ
キジムナーに会いにガジュマルを訪ねる

キジムナーに会いにガジュマルを訪ねる

ENTERTAINMENT 沖縄県

share

ニッポン47妖怪さんぽ with47 Japanese folk monsters
ニッポン全国津々浦々、6000あまり存在するという伝承から都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、独自の解釈で造形しました。妖怪に誘われるがまま旅にでかける空飛ぶ百鬼夜行に、ようこそ。

第一回 沖縄/キジムナー

【開運招福】ガジュマルなどに住みつく樹木の精霊。身体は赤く、手は枝のように伸びる。好物は魚の左目。親しくなった人間と一緒に漁に出かけ豊漁をもたらす。親交がある家は繁栄し、追い払えば凋落する。

妖怪とは人の心を映すもの。妖怪を知ると、その土地が何を大切にして、何を恐れているのかが見えてくる。今回は愛らしい樹木の妖怪、キジムナーに誘われて沖縄を旅した。
キジムナーの住処(すみか)はガジュマルの樹。その語源は「木(き)」と琉球語の「ムン」(魔物の意)である。いくつもの異名を持ち、17世紀初頭、琉球王国に滞在した僧侶が残した記録にも登場する。沖縄県立図書館で検索すると、関連文献は240冊ほども出てくる。10数冊を厳選し読み解くと、ほぼ必ず書いてあるのがキジムナーの二面性。人懐っこく子どもの姿で漁師を手伝い豊漁をもたらすが、濃厚な付き合いを疎まれると猛烈に怒り報復に出る。沖縄で聞くと「親しみを感じる」と同時に、「ちょっと怖い存在」という声も少なからずあった。ガジュマルの生命体としての存在感と美しさには圧倒される。絡みつかれた木は朽ち果て、民家の庭などに植えると、根の旺盛な成長によって建物が崩壊することもあるらしい。ときに優しくときに厳しい自然との付き合いを、身をもって教えてくれているような姿だ。

キジムナーの大好物グルクンを食す

キジムナーは豊漁をもたらすが、魚の左目だけ食べると、後は人間に授けてしまう。とりわけ好むのが沖縄近海で獲れるピンク色の魚、グルクン。関東ではタカサゴと呼ばれる15〜20㎝の白身の魚だ。スーパーにもあるが、地元の人のすすめで那覇市第一牧志公設市場へ行ってみることにした。

まず1階の市場で、ずらりと並んだ魚から食べたいものを選ぶ。とはいえ知らない魚介類が多いため、店員さんに教えてもらいながら決めるのだが、これがまた楽しい。控えを持って2階に行き、調理してくれる店を選ぶ。調理法を相談し(手数料などは明記してある)、追加の料理や飲物を注文して、あとはワクワクして待つだけ!グルクンは定番の唐揚げに。じっくり揚げるので骨まで噛み切ることができ、クセがないからいくらでもいける。イラブチャーは半身ずつ刺身と中華風あんかけで。これも見かけによらずあっさりとして食べやすい。両手に余るほど大きな夜光貝は刺身とコッテリとしたバター焼きでお願いした。どれもシンプルな持ち味なので、どんな調理法でも活かされる。思いっきり魚が食べられるところが案外少ない那覇で、ここで魚料理を堪能するのも面白い。ちなみにキジムナーの嫌いなものはタコ、鶏の鳴き声、人間のおならだそう。

キジムナー、ぶながや本物はどっち?

キジムナーの故郷として高く手を挙げているのが、那覇から車で2時間の国くに頭がみ郡ぐん大おお宜ぎ味み村そん。ただしここでは徹底して「ぶながや」と呼ばれ、村のキャラクターも務める。村役場前の広場にも「ぶながやの里宣言」という立派な石碑が立っている。
「道の駅おおぎみ」の観光案内所で尋ねると、キジムナーとは区別して「ぶながやは悪さをしない」とする人たちもいるそうだが、近年この区分けにこだわりはなくなりつつあるとのこと。
 ところで沖縄を離れる日、那覇の三原出身のタクシー運転手さんに話を聞いた。60年以上も前に、キジムナーを呼び出す遊びを何度もしたとのこと。ガジュマルのふもとに土で祭壇を作り、丸い石を何個か置く。少し隠れて「わあっ」と叫びながら出ていくと、慌てたキジムナーが石をひっくり返して逃げる、というものだ。
「何度もやりましたけど、子供心にも出てくるわけはないと思っていました。でもね、一度だけ、本当に石が全部転がっていたんですよ」

取材・文・造形 森井ユカ