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兵六餅で有名な「頬紅太郎」と共に巡る 鹿児島のほろ酔いグルメ

兵六餅で有名な「頬紅太郎」と共に巡る 鹿児島のほろ酔いグルメ

ENTERTAINMENT 鹿児島県

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数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!? ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。

頬紅太郎(ほおべにたろう)

薩摩の山に棲み、化粧をしたように顔は赤く、体は熊のように大きい。人を見ると相撲を取りたがる力自慢で、ならずものの間でも最後の牙城であると噂されるほどの屈強な妖怪。

ご利益 身体強健

菓子箱が語る薩摩の冒険物語

全国で親しまれている、緑色の背景に若侍が描かれた箱に入った「兵六餅(ひょうろくもち)」。しかしこれが鹿児島名産で、しかも薩摩文学として誉高い『大石兵六夢物語』がモチーフになっていることはあまり知られていないかもしれない。江戸時代の後期に若者たちに支持された創作読み物で、薩摩を行く兵六の冒険の日々が生き生きと描かれている。

▼ もち米と白餡(しろあん)のもちもちとした歯応えに、ほんのりきなこと微かな海苔(のり)が抹茶のような風味。正真正銘のロングセラー(セイカ食品)

さまざまな妖怪と出会うこの小説から派生した絵巻物もいくつかあり、その中で目を引いたのが頬紅太郎だった。頬が赤く牙(きば)があり、全身は毛むくじゃらで熊のように巨大。力比べを迫られた兵六はさっさと逃げ出してしまう。この妖怪を筆者がリメイクし、鹿児島に連れてきた。

鹿児島といえば桜島だが、兵六が通った道〈鹿児島市吉野町あたりから姶良(あいら)市の南端までの10㎞ほど〉はやや内陸のため直接島は見えにくい。現在はほとんどが整った住宅街になっており、次々と物の怪(もののけ)が現れるような道には見えなくなった。

6代目社長の大山陽平氏

兵六の足取りを逆からたどりつつ、一気に指宿(いぶすき)まで南下してみる。目指すは鹿児島名産の芋焼酎。錦江湾を望む宮ケ浜駅のすぐ近くにある、明治8年創業の老舗「大山甚七商店 宮ヶ浜蒸溜所」を訪ねた。とかく力強いイメージの芋焼酎だが、どっしりしたものから華やかなものまで幅広く、実は時代に合わせ繊細に変化し続けている。

▼ 焼酎の他、ジンやラム酒も蒸溜される。美しいラベルは社長のディレクション。近隣にある日本最古のハーブ農園「開聞山麓香料園」のフレッシュハーブを使用したクラフトジンが好評

大山甚七商店 宮ヶ浜蒸溜所

鹿児島県指宿市西方4657

0993-25-2410

https://jin7.stores.jp

Instagram @ooyamajin7_official

焼酎を通して味わう鹿児島

「大山甚七商店」から北上し、鹿児島市の中心へ。目指すは「ホテル&レジデンス南洲館」のレストランで食べられる、鹿児島特選黒豚しゃぶ「くろくま」(レストランのみの利用も可)。なんと直径60㎝、重さ10㎏の50年ものの鉄鍋でいただく、地元の方々が絶賛する迫力の鍋料理だ。この鉄鍋は熊襲(くまそ)(先住民)の豪快な食生活をイメージして作られた。

▲ 迫力のくろくま鍋はマンホールほどの大きさ。まずはかごしま黒豚のバラ肉のみを味わい、その後レタスの上にロース肉がのせられる

具材には、さつまいもを添加した飼料で育ち、濃厚な旨みを持ちながらいくらでも胃袋に滑り込む「かごしま黒豚」をはじめ、バラエティに富んだ新鮮な地元野菜、さらに毎朝仕込んで5時間煮込む、7種類の野菜の旨みが凝縮された特製スープが全体を盛り上げる。食中・食後に鍋のつゆをこんなにごくごくといただいたのは初めてかもしれない。

後半は名産の野菜を抱き込んだレタスボートが浮かぶ(ホテル&レジデンス南洲館)

ちなみに、くろくま鍋の後のデザートは、鹿児島名物「しろくま」のアイスバーをいただける。

▲ 煮込むほどに出汁が美味くなっていく

ホテル&レジデンス南洲館

鹿児島県鹿児島市東千石町19-17

099-226-8188

レストラン予約フォーム https://nanshukan.co.jp/food/

そして鹿児島の夜はやはり焼酎で締めたい。「焼酎BAR S.A.O」は地元素材の料理と焼酎の完璧なペアリングが楽しめる、とっておきのバー。焼酎を水で割る場合は、必ずその蔵元が使っている水で割るなど徹底しており、もちろん前出の「大山甚七商店」の焼酎も揃う。

「芋焼酎独特の力強い味わいのなかに柔らかさがあり、大山さんの人柄が表れている」と店長の金丸さん。まるで人物であるかのように焼酎を紹介してくれるので記憶に残り、酒店で買って帰らずにはいられなくなる。

焼酎BAR S.A.O

鹿児島県鹿児島市千日町8-14 貴剛ビルB1

099-239-4461

https://www.barsao.com

Instagram @bar.s.a.o

居並ぶ焼酎に、頬紅太郎もご満悦

『大石兵六夢物語』の絵巻の最後は宴会で終わる。美味しい料理と酒があれば、それだけで明日に希望が持てる。勝てそうにない怪物に出会ったら、すたこらと逃げればよいだけだ。

鹿児島の酒器「黒千代香」で焼酎を注ぐ、店主の金丸佑也氏

▲ 鳥刺しには濃厚な大山甚七商店「薩摩の誉」新酒を常温で。薩摩芋入りのさつま揚げには上品でミルキーな万膳酒造の「山小舎乃蔵 萬膳」を。チーズケーキには紅茶のような酸味がある大山甚七商店の「宮ヶ浜」を(焼酎BAR S.A.O)

取材・文・造形 森井ユカ

立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。

参考
『「大石兵六夢物語」のすべて』伊牟田經久(南方新社)
『大石兵六夢物語』西元肇(寄贈本:鹿児島県立図書館所蔵)
国立歴史民俗博物館webギャラリー

協力 正田雄為
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子