栃木・益子焼が彩る創作料理と宇都宮餃子の名店めぐり
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える! ? ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
栃木県・しずかもち

ご利益 金運招福
コツコツと音を立てて近づいてきたら、金貨があなたの手に
益子町の言い伝えで、姿を見たものはいない。夜中にコツコツという音が聞こえてきて、だんだん近づいてくる。背後に来たタイミングで後ろ手に箕を差し出すと、財宝を入れてくれる。
生きることは、器を使うこと 見えない妖怪を訪ねて益子へ

皆が重そうな袋を持って、しかしにこやかに行き交う「益子の陶器市」。初めて訪れたが、ここまで大規模だとは想像していなかった。益子産の陶器だけではなく、遠くは沖縄のやちむんまでが集まり、器だけではなくアート作品や、叩いて奏でる楽器まである。つまり陶製のものであれば何もかもが歓迎される、懐の深い市だった。
ここを伝承地とする妖怪がしずかもちだ。文献はいくつか見つかったものの、時代ははっきりしない
音のみの妖怪であり、夜中に餅を搗(つ)くようなコツコツという音が聞こえ、だんだん近づいてくるとその家に財宝をもたらすシグナルだという。直ぐそばまで音が聞こえたときにその姿を見ようとせずに、後ろ手に箕みを差し出すと財宝が入って来るという。コツコツ音が近づかずにそのまま遠ざかってしまうと、逆にその家は衰退してしまう。筆者は床を滑るような、陸のタコのような姿をしたしずかもちを造形してみた。見たら消えてしまうような、儚(はかな)い色をしている。
さて益子の陶器市はその規模ゆえに1日いても足りないほどで、必ず欲しかった器が見つかるだろう。ついには友人の分まで買い込んでしまう。
益子焼は江戸末期から益子に起こった焼き物で、やや粗めの土質のため厚手でボリュームのあるものが多い。デザイン的に自由度の高い造形で料理映えするため、界隈の飲食店では益子焼を使う店も多い。



宇都宮の醍醐味は外はパリッと中はしっとり
益子焼の食器を使う飲食店として訪ねたのが「創作料理暁(あかつき)」。旬の地元野菜と、函館直送の天然地魚などを使ったボリュームのあるランチをいただける。器はほぼ全て益子焼。器は使用されてこそ活きるもの、もしも気に入った器がある場合は店主に聞けば、町のどこで手に入るかを丁寧にアドバイスしてくれる。
奥がとろ鯖網焼き定食、手前が低温ローストポークのステーキ定食。小鉢や刺身も付いて大満足。多種多様な益子焼が、膳を華やかに盛り上げる(創作料理 暁)
創作料理 暁
益子を堪能した後は帰路、宇都宮へ。「宇都宮餃子幸楽」では外はパリッと中はジューシー、小ぶりでやや野菜多めのいくらでも食べられる焼き餃子が大評判だ。車でふらっと立ち寄る地元客が多く、絶大なる信頼を感じる。ちなみに「宇都宮餃子」とは地域ブランドで、基本的に宇都宮市内に本店・拠点があるのが条件なので、自ずと素材も地のものが使われることが多い。



宇都宮餃子 幸楽


さらに、これを食べないと宇都宮に来た甲斐がないとさえいわれるのが、かぶと揚げ。鶏の半身を開いて丸揚げした豪快な料理で、皿に置くと手羽先が跳ね上がった姿がまるで兜かぶとのように見えるため、そう名付けられたそうだ。

元祖の「みよしや」は、創業の1963年から油を絶やさず使い続けていることで知られ、ここならではの味わいを守り抜いている。揚げたてをその場でかぶり付くのは格別で、皮のちょっとスパイシーでカリッとした質感と、柔らかい肉のコンビネーションが絶妙。多幸感は家に帰るまでずっと持続する。

みよしや 本店
栃木県宇都宮市上戸祭町519
028-622-8302
帰り着いた現代の家では、夜中に窓を開けても自然の音は車の往来にかき消されてしまう。次に益子を訪れるときは静かな宿に一泊して、遠くの音に耳を澄ませてみたい。
参考
『綜合日本民俗語彙 第二巻』柳田國男監修 民俗研究所編(平凡社)
『柳田國男全集 第二十巻』柳田國男(筑摩書房)
『日本民俗文化資料集成 第八巻』谷川健一(三一書房)
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取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナーポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
撮影 五味茂雄
編集 中野桜子