天橋立を巡って海の幸を堪能 丹後地方の妖獣「件」と巡る京都旅
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家・森井ユカの独自の解釈で創造しました。
妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!?ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
件(くだん)
現在の京都府宮津市・倉梯山に出現したとされる、顔が人間で体が牛の妖獣。姿を写し住居に貼れば疫病を退散させ、豊作を招く効力があるという。似た伝承が他所にもあり。予言するものもいた。
ご利益 疫病退散・五穀豊穣
「件」を飾れば、疫病を退散させ、豊作を招く!?
人偏に牛と書いて「くだん」。天保7年(1836年)に発行された瓦版によると、丹後国の倉橋山(現・宮津市の倉梯山)の山中に、体は牛で顔は人の件という獣が現れたとのこと。この件を写し、画を貼れば災害を免れ豊作を招くという、ありがたい存在である。
妖怪件は天下のゴシップ?
コロナ禍の折、疫病を退散させる妖怪としてブームとなった熊本県のアマビエと共に、件も少々話題になったことをかすかに憶えている。毎度ながら現地・宮津の図書館に赴き、件についての資料を探したが思うように集まらない。しかし居合わせたみなさん……どころか、町で接点のあった方々のほとんどが件についてうっすらと認知していた。なるほど、瓦版とは江戸時代から明治にかけて発行された刷物で、いわゆるゴシップ誌の役目も担っていたもの。その情報が今も地域に伝播されているのかと思うと恐れ入る。
さてこの丹後地方の写真を見て魅了されたのは、北部の伊根町にある「舟屋」群。各家が木造船を風雨から守りながら停泊させるために作られた建物で、約230軒が今に残り、一階に船、二階は漁具置き場や住居、宿としても使われている。湾に島があるおかげで波風にそれほど大きく干渉されず、穏やかな地域だ。なかには江戸時代に建てられた舟屋も残り、海上タクシーで一回りすれば、海とともに生きる地域ならではの暮らしが見えてくる。
伊根の舟屋
京都府与謝郡伊根町平田77
「鮨割烹海宮(わだつみ)」は舟屋の並びにあり絶好の眺め。いつでも伊根近海の海の幸を存分に堪能できる。秋からは味わい深いぶりしゃぶ、夏場は手のひらほどもある大きな岩牡蠣が。
鮨割烹海宮
お食事処油屋
豊かな地形と食材の町京都の丹後で散歩三昧
伊根町から件の伝承地である宮津を目指し南下する。ここには松島、宮島とともに日本三景としてあまりにも有名な天橋立がある。神話に由来する神聖な景観の全長は3.6km、川から流れ出る土砂と海から流れ来る砂粒がぶつかり合うことで土地が盛り上がり、橋のような形になっている。
高台はこの壮観な景色を眺めようと、国内外からのたくさんの観光客で賑わい、体を折り曲げ股の間から逆さに風景を見ている様子は平和なことこの上ない。こうすると海が空に見え、細い陸地がまるで天に昇っていく龍のような姿となる。「飛龍観」と呼ばれているそうだ。
天橋立
京都府宮津市文珠
天橋立の東側、宮津の市街地へ。近海と大地の恵みを存分に味わえる、カウンター割烹の『西入る』は、ポルトガルと日本の和食店で修業を積んだ店主のリカルド・コモリさんと、小森美穂さんが2022年の6月にオープンした。
「西入る」の芸術品のような宮津のアジの寿司、そして真摯に食材と向き合うリカルドさん。
かねてから食材の近くで開業したいと思っており、この場所に初めて訪れたときあまりにもイメージ通りだったため、即決したそうだ。毎晩限定7席、誰もが魅了される繊細で奥深い懐石コースは、丹後の夜を締めくくるのに最適だ。
椀には自家製の朝取り野菜、デザートのパォンデローはカステラのルーツと言われるポルトガルの郷土菓子。
西入る nishiiru
「コメトテ」のおしゃれな植物性ジェラートは、丹後コシヒカリ米が原料。
コメトテOMUSUBI RICEGELATO
最後に丹後の妖怪・件が出現したとされる宮津市の倉梯山の付近を歩いてみる。近くの消防署で行き方を教えてもらったが、道路と私有地が周りを占めているため一定の距離を置いて眺めるしかなかった。標高93mの、緑が深く大変静かな低山であり、この中に件が出現したかと思うと感慨深い。一礼して丹後をあとにした。
取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナー「ネコカップ」「ネゴ」のデザイン、ポケモンカードゲームのイラストレーション、粘土あそびセット『ねんDo!』のディレクションなどを担当。著書多数。
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取材・文・造形 森井ユカ
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子