石川県の妖怪「スマボン」と巡る古民家と食の旅
縁の下から現れ、夜泣きする子どもを戒めたと伝わる小さな妖怪・スマボン。その足跡をたどると、能登では人と地域をつなぐ古民家の宿に憩い、金沢では茶屋街や町家で、この土地ならではの食文化に出会った。妖怪伝承は怖い話ではなく、土地に息づく暮らしや文化へと旅人を導く道しるべ。スマボンに誘われるまま歩けば、石川県の豊かな時間がゆっくりと姿を現す。
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!? ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
石川県・スマボン

ご利益 家内安全
縁の下から現れる小さな妖怪。夜泣きする子には太鼓を叩く!
夜が更けると部屋の隅から太鼓を叩きながら出現する小さな妖怪。子どもの夜泣きが止まらないときには「スマボンがやってくるぞ」と言ってなだめていた。
妖怪を追いかけて辿り着く 細部に神が宿る古民家
妖怪の仕事は、注意喚起や道徳心を育てることが多いのだが、人にはままならぬことを託されるものもいる。石川県のスマボンは身長30センチほどの小さな妖怪。室内でけたたましく太鼓を鳴らすため、「夜泣きするとスマボンが来るぞ」と、親が子どもをなだめるために引き合いに出されたそうだ。姿の記録はないが、太鼓を体にたくさんつけた姿で造形してみた。

伝承地の志雄町(しおまち)は押水町と合併し、現在の宝達志水町(ほうだつしみずちょう)になった。能登半島の付け根のあたりだ。スマボンがやってきそうだと思い訪ねたのが、この伝承地に隣接する羽咋(はくい)市の「神音(かのん)Stay」という一日2組限定の宿。


【上】フィンランド式の薪サウナが設えられ、薪には地元の廃材を使用。武藤さんによる熱波や薪入れの施しは贅沢時間で、サウナ室の香りも外気浴のロケーションも素晴らしい。
築約100年の古民家を丁寧にリノベーションして造られ、コーヒーとカレーの美味しいカフェ、木漏れ日(こもれび)がうっとりするほど美しいサウナもあり、デザインのセンスとこだわりがところどころできらきらと輝いていた。オーナーの武藤夫妻は地域とのつながり、地元経済の循環を軸としており、たとえば宿の客には夕飯時に近くの飲食店を選んでもらい、送迎している(安心してお酒が飲める!)。


【上】その後はカレーとコーヒーを味わう。この日のカレーはカシューナッツチキンカレー(右)、豆と豚ひき肉のカレー(左)。
カフェは20年前、宿は3年前の能登半島地震の直前にオープンしたが、屋根が陥没するなどの被害で修繕に1年半はかかった。まだ復興していない地域は多々残るが、観光客として宿に泊まり、食を楽しむことで小さな循環の一つになり、応援できる。


コーヒーはここで焙煎した豆で、もちろん購入することもできる。ホスピタリティ溢れるオーナーの武藤夫妻にまた会いに行きたい(神音Cafe)
神音
金沢の茶屋街で時代を越える家と食に会う

今回の石川県の旅は、妖怪スマボンがやってきそうな古民家を訪ねる旅。羽咋市から南下し、金沢方面へ。まずは風情ある旧家が連なる、ひがし茶屋街の「Cafeたもん」へ。
堂々たる古民家の構えは、記念撮影に列ができるほど。食材は肉も野菜も地産地消を旨とし、なかでも石川県の米を使った米粉のパンケーキが大人気。


インバウンドや修学旅行生たちも、繊細でふわふわの食感に舌鼓(したつづみ)を打ち、金沢の金箔をふんだんに使用した「金の米粉パンケーキ」が運ばれたテーブルからは歓声が上がる。今年で10周年、まだまだ進化しそうな、金沢に行くたびに訪れたい場所になった。

Cafe たもん
そしてすぐ近くの浅野川を渡り向かったのが、彦三町(ひこそまち)の茶屋街そばの「鮨 木場谷(すし きばたに)」。こちらも開業して10年目、落ち着いた内装の築100年超の古民家で、季節ごとの北陸の魚を心ゆくまで堪能できる。
店主の木場谷光洋氏は江戸前の技を礎に、持ち前の探究心で独自のスタイルを貫く。甘くない寿司酢がきりっと締めてくれるシャリも、忘れられない味になった。木場谷氏の何よりの好物は、食べた瞬間に顔をほころばせる客の顔だそうだ。
手をかけ、住み続け、訪ねることで生き続ける古民家。スマボンのおかげで美味しいものにたくさん出会うことができた。これだから、妖怪さんぽはやめられない。




鮨 木場谷
参考
『志雄町の民話と伝承』(志雄町教育委員会)
『能登はくいMAGAZINE』(はくい市観光協会)
「ニッポン47妖怪さんぽ」が2025年度グッドデザイン賞を受賞いたしました!

取材・文・造形 森井ユカ
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子
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