飛騨高山の飛騨牛グルメが絶品 食べ歩きで堪能する贅沢な味
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家・森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!? ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
覚(さとり)

飛驒や美濃に出没する、人の心を見透かす妖怪。黒く長い体毛の大きな猿のような姿で、人に危害は与えない。山で焚き火をしているとやってきて仕事を手伝ってくれることもあるという。
ご利益 事業発展
妖怪と行く飛驒高山 随一の炎は屋台村にあり
江戸時代の浮世絵画家・鳥山石燕(とりやま せきえん)による『今昔画図続百鬼(こんじゃくがずぞくひゃっき)』にその姿が描かれた、飛驒や美濃の山に棲(す)むといわれる妖怪、覚(さとり)。焚き火を見るとあたりに来て、言葉を交わし、作業があれば手伝うが人の心を見透かしてしまうので、間違ったことは言えない。石燕による妖怪画は毛が黒く長く、見かけはどう見ても猿そのもの。筆者なりに造形し、一緒に飛驒高山を訪れた。
地元ではその存在は知られておらず、飛驒で妖怪の話をするとまず出てくるのが『呪術廻戦』の主人公に憑依(ひょうい)する呪いの王・両面宿儺(りょうめんすくな)だった。古くは『日本書紀』に異形の鬼神として登場するが、実は飛驒では英雄視されていたという伝承が残る。
飛驒のJR高山駅は標高573mの位置にある。訪れたのは晩冬、身を切られるような寒さは実に辛(つら)いが、その美しい雪景色に世界中から観光客が引きもきらない。
覚とともに火を探して飛驒高山の街を彷徨(さまよ)ったところ、この上ない場所が見つかった。屋台村「飛驒高山でこなる横丁」の中にある「炭火焼 三三九(さんさく)」には、非常に珍しい、カウンターをぐるっと囲む迫力の炭火台があり、炉端焼きを銘々が楽しめる。オレンジ色の炎が気分を高揚させ、食事も酒も進むことこの上ない。飛驒牛はもちろん、季節の魚から名物の団子までなんでも炭火で焼けてしまう。覚がやってきても、居心地よすぎて働くどころではないだろう。




炭火焼 三三九
岐阜県高山市朝日町24 でこなる横丁内
地元の味をより多くの人へ 歩いて回れる食の街

川縁の一本道でわかりやすい
飛驒高山に残る商人町の上町・下町の三筋は「古い町並」と称され、季節を問わずにそぞろ歩きとちょっとした立ち食いが楽しめる。また70年ほどの歴史があり、日本三大朝市にも数えられる宮川朝市では、地元生産者の果物や野菜、味噌や餅とともに、団子や肉まんなどが並ぶ。飛驒高山はいつのまにか食べ歩きの聖地になっていた。


産直の野菜で作る漬け物類も好評

焼きたての香ばしい醤油団子は不可避(宮川朝市)
飛騨高山宮川朝市
岐阜県高山市下三之町
もともと少しずつ食べさせる店が多かったこの地域で、飛驒牛を寿司にすることは20年ほど前に始まったそうだ。その魁(さきがけ)の一店である「梗絲(きょうし)」へ。最高級の牛がリーズナブルに食べられる。牛に合う白米にこだわり、同じく相性の良い奥能登の塩を使っている。牛も美味いが、この店オリジナルの天然汐ぶりと地域の特産である赤かぶのスライスがのった「飛驒のぶり寿司」は、飛驒牛とはまた違うコントラストが味わえる。昔、飛驒では富山の漁港からの天然ぶりを塩漬けにして焼いて食べる風習があり、それをまた長野の松本まで運ぶ「ぶり街道」も存在した。


創作郷土寿司本舗 梗絲
岐阜県高山市本町282
0577372039

そしてシメには「豆天狗」で高山ラーメンを。昭和初期の屋台から始まった飛驒高山中華そばの特徴は、醤油味のスープと細めの縮れ麺。比較的あっさりしていて罪悪感もあまりない。豆天狗ではスープを一日中弱火にかけて熟成させるため、朝と夕方ではそれぞれ味わいが変化するので、その食べ比べも楽しみの一つになっている。


豆天狗 本店
岐阜県高山市下一之町33
0577335177
@mametengu1948
自慢の地域食材を使った食が、常に手の届くところにある飛驒高山。妖怪のおかげでここに来られたことに心から感謝しよう。
取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
参考
『今昔画図続百鬼』鳥山石燕
『両面の鬼神 飛騨の宿儺伝承の謎』小関章(勉誠出版)
『飛驒の鬼神 両面宿儺の正体』廣田照夫(叢文社)
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子
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