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【大阪・関西万博】空飛ぶクルマ初飛行の舞台裏 ANAがチームで挑む未来体験

【大阪・関西万博】空飛ぶクルマ初飛行の舞台裏 ANAがチームで挑む未来体験

ANA REPORT SPECIAL

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電気自動車と同じように、飛行機も電気の時代が来たーー。電気で飛べる「Joby S4」は、エンジンがないため暖機運転が必要なく、起動後5秒で離陸が可能という画期的なエアモビリティ「eVTOL」(電動垂直離着陸機、通称“空飛ぶクルマ”)。Joby Aviation(以下、Joby)独自の技術開発によって、プロペラで浮かびながら斜め上に上がっていくと、翼に風が当たって浮く力、前に進む力を発生させる画期的な飛行機だ。 

そんな次世代の空飛ぶクルマを実現させようと、チーム一丸となってプロジェクトを進めてきたのが、ANAホールディングス(以下、ANAHD)のモビリティ事業創造部 エアモビリティ事業チームだ。

大阪・関西万博にあるモビリティエクスペリエンス(EXPO Vertiport)では、ほぼ連日、デモフライトが1日2回ほど運航され、ANAHDメンバーはJobyのメンバーと連携をして、どのようにすれば一般来場者に楽しんで見ていただけるかなどを考えている。

事業企画をリードする保理江裕己と、オペレーションをリードする原口祐樹に、万博会場でのデモフライト公開に対する感想や思い、これからの目標などを聞いた。

ANAの文化とJobyの文化が混ざり合って生まれる一体感

――次世代のモビリティをお披露目しようと大阪・関西万博に参加表明したのが、2023年2月とお聞きしています。10月1日、ようやくJoby S4が大阪・関西万博で一般来場者に向けてのデモフライトを無事終え、10月2日には、15分ほどフライトしました。約3年かかったプロジェクトですが、どんな気持ちでしたか?

保理江 ……そうですね。最初に、9月24日の夕方に飛んだんですが、約3年半前からJobyと日本の空にJoby S4を飛ばしたいと思ってやってきたので、「ついに飛んだぞー!」という思いでいっぱいでしたし、なかなか味わえないような達成感を味わいました。そこには、Jobyやトヨタチーム、航空局や協会の方々そしてもちろんANAのメンバーなど、いろんな人の協力があってここまでこれたので、本当に皆さんのおかげです。「やったぞー」とみんなでハイタッチして、言葉にならないような感覚でした。いろんな方が「おめでとう!」と言ってくださるんですが、皆さんのおかげでこのフライトにつながっているので、感謝の思いがいっぱい湧いてきたという実感があります。チームメンバーみんなで、毎日運用の改善を夜遅くまでやっています。

原口 9月の初頭から、最初は機体を組み立てるところから始まりましたが、航空機を飛ばすまでのこういった一連のプロセスに携わるのは私自身初めてのことでした。ANAの中でも、組み立てから飛ばすところまでのプロセスを経験したことのある人は、あまりいないんじゃないかな。本当に貴重な機会をいただいたなと思っています。Jobyをはじめ、関係する皆様には朝早くから夜遅くまでご尽力いただいて、何とかここまでこれたという感じです。すごく価値のあることですし、私は少し涙が出る瞬間もありました。みんなの頑張りがわかるので、それが伝わってくるのが、日に日に「いいなあ」と感じます。

保理江 一般来場者の皆さんが、Joby S4に静かにカメラを向けて楽しんでくださっているのがわかるし、帰る時には「ありがとう!」「静かだったね!」「これに早く乗ってみたいです!」というふうにお声をかけてくださるんです。そういうお声を聞くと、デモフライト公開をやってよかったなあと思います。いかに皆さんに伝えるか、どう伝えるかが大事ですね。でも実は原口は、グランド・コントロール・ステーションの中にずっといるので、こんなにたくさんの人が集まっていることも、見られないんですよ。

原口 画面越しにモニターで見てはいるんですけどね。

保理江 だから、僕らでその様子を撮って、「こんなにたくさんのお客様がいたよ」と見せて伝えています。Jobyのチームメンバーは、孤独な環境の中でフライトをがんばって支えてくれているんです。

――やっぱりチームワークの良さは、このプロジェクトの最大の武器ですね。
 
原口 JOBYとANAのワンチームでやっています。ANAの文化やJobyの文化、いろんな文化が混ざり合いながら、一緒にやっていて、価値観が重なる部分で、今まで味わったことのない達成感や一体感も生まれてきているので、「いいなあ」と思っています。

保理江 そう。ありますよね、一体感。

20代、30代前半が中心の優秀なメンバーたち

――皆さん、若いメンバーが多いようですが、いかがですか?
 
保理江 メンバーは、Jobyも若いし、ANAも若い。私は39歳で原口は40歳なのでひとつ違いです。その上に、50代のリーダーがいて、その下は20代、30代前半のメンバーですね。

原口 私は、グランド・コントロール・ステーションで仕事をしているんですが、そこで働いているJobyのメンバーは20代のメンバーが多くて、私も来た時は、本当に驚きました。皆さんすごくしっかりしていて、プロフェッショナルな仕事をしていただいているなあって。みんな、本当にすごいです。

――そういう若いメンバーの方々の仕事ぶりを目の当たりにすると、責任感もさらに湧いてきますね。

原口 特にセーフティー、安全にかかわる意識の高さを見ていると、我々もとても安心します。航空会社は安全第一。そういう文化がJobyの中にもあって、ANAと価値観が共通するところでもあります。

保理江 意見が違った、ということはそんなにないんです。Joby S4という空飛ぶクルマ、新しいモビリティをみんなで飛ばそう、そして、それを多くの人に見てもらって、Future of Transportationを感じてもらおうと、安全第一で確実に飛行機を飛ばしていこうという気持ちでやっています。ひとつの目標に向かってみんなで話し合いをしていっているというのが現状ですね。 

安全認証のハードルを越えるたび深まる機体への愛着

――機体に対する愛着はいかがでしょうか。

保理江 今あるJoby S4の機体は最新の試験機のひとつです。このエアモビリティの新規事業を始めて私は8年になるんですが、Jobyとパートナーシップを結んだのが、3年半前の2022年。ANAのカラーになった特別塗装機は、コラボレーションを象徴するものですし、新しい電気飛行機という次世代の飛行機がANAの塗装となっているのは、社員としてもうれしいです。ANAファンの方々にも喜んでもらえるんじゃないかなと思いながら、この機体を見ています。

原口 Joby S4は、世界の中でトップを走っているeVTOLだと思っていますし、世界で最初に商用化されると信じています。そういった中で、機体自体に愛着が湧きますし、万博というナショナルイベントの中で多くの人に見ていただけるというのは、すごくうれしいことだなと思っています。これが早く社会実装されて、お客様に実際に乗っていただけるステージに行くのが、次の大きな目標になるのかなと思っています。Jobyは今、アメリカでの認証に向けて一生懸命取り組んでいて、それが完了したら次は日本での認証です。

保理江 飛行機としての安全認証ですね。そのためには、設計がきちんとなされているかという設計の認証と、ちゃんと造られているのかという製造の認証を、実験をしながらデータを取り、実績を積んで、全部問題がないかチェックをしていきます。数年かけてチェックをパスした飛行機だけが安全認証の許可を得て、お客様を乗せることができます。そういう厳しいハードルを今、順番に超えているところです。今は、最終コーナーを曲がっているところです。最終の第5段階の入口くらいまで来ています。ご期待ください。

取材・文 西元まり
撮影 西元譲二