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自ら考え行動する人に 安全で快適な空の顔 ANA CAの訓練に迫る〜翼の流儀

自ら考え行動する人に 安全で快適な空の顔 ANA CAの訓練に迫る〜翼の流儀

ANA REPORT 翼の流儀

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客室乗務員(CA)の仕事は多岐にわたる。ANAに入社したCA候補の訓練生たちは、約3ヶ月という時間をかけ、訓練を通して、緊急・保安やサービスについての知識を身につけていく。

そのインストラクターが訓練生に教える上で大切にしていることは何か。現役CAでもある二人に話を聞いた。

安全面とサービス面 両立が求められるCAの指導

「マニュアルのすべてを教え込むだけなら、簡単だと思うのですが、自ら考え、判断し、そして行動化できる――、そういうCAを育てなければならないのです」

客室訓練部に籍を置き、保安教育を担当している本間晴美は、インストラクターという仕事の難しさを尋ねると、こう力を込めた。

いっぽう、サービス訓練を担うインストラクター・森山友翔は居ずまいを正し、こう続けた。

「私の教え方に間違いがあれば、これからCAとして仕事をしていく人たちの基礎の部分が崩れてしまうことになりますから。責任は重大だと思っています」

緊急・保安対応にサービスにと、多岐に渡る客室乗務員(CA)の仕事。

今回は、一流のCAを育てる2人のインストラクターに聞いた「人財育成の流儀」――。

もっとも難しいのは「行動化」すること

現在、ANAにおよそ60名いる保安(セーフティ)担当のインストラクター。そのなかで、もっとも長いキャリアを誇るのが本間だ。これまでに約200人もの新入社員を、ゼロから育て上げ、実機のフライトに送ってきた。そんなキャリアのことに水を向けると「長いだけ、もう、ただただ長いだけですから」と、本間は慎み深くほほえんだ。

「インストラクターの経験を経てさまざまなスキルを向上することができ、今後のキャリアの選択肢が増えると感じています」

「CAとして7年、インストラクターとして7年です。そうですね、フライトと同じだけ、インストラクターを務めていますね」

こう続けて話した本間。彼女がANAに入社したのは2010年のこと。そして、2017年からは現在の客室訓練部に所属している。

「セーフティ訓練には、現役CAが年に1回、受けなければならない定期訓練や、休職から復帰するための訓練、それにボーイングやエアバスといった機種ごとの訓練など、いくつもの種類があります。コロナ禍が明けた昨年度からは新入社員のための客室乗務員資格取得訓練、いわゆる新入訓練も再開され、私は今、主にそちらを担当しています」

訓練の場所は、羽田空港にほど近い総合訓練施設「ANA Blue Base」。巨大な建物のなかには、さまざまな機体の実物大模型(Cabin Emergency Evacuation Trainer=CEET)や、緊急着水時の脱出訓練のためのプールも。CEETのそれぞれのドアには、訓練用の脱出スライドも整備されている。

「緊急脱出の誘導は大きな声ではっきりゆっくり、また私たちが落ち着いていることを示すため普段より少し低い声を心がけます」

「通常運航の際の保安業務を学ぶ日常保安訓練に始まり、緊急脱出や火災、急減圧などの緊急保安訓練を行います。緊急脱出の訓練では、予測される緊急着陸や緊急着水、それに備えて準備をしていきます。お客様にライフベストを着用していただいたり、緊急着水に向けた機内での準備を行ったり。お一人で脱出できない方の援助のため、お客様同士協力していただくよう指示したり……。覚えなければならない手順は、数多く多岐にわたります」

訓練でもっとも難しい点を尋ねると、本間は「行動化すること」と即答した。

「やらなければならないいくつもの項目、その流れを頭に入れるところまでは、多くの訓練生ができる。ですが、それを行動化まで引き上げることが難しいんです。たくさんの項目を、状況に合わせて確実に、かつ臨機応変に迅速にできるよう、訓練の中で繰り返し、習得につなげています」

機長や客室の責任者であるチーフパーサーへの報告は重要だが、緊急時にはその余裕もない可能性もある。

「そのため、各自がチーフパーサーに頼ることなく、それぞれが自ら行動できるようになる、それができるようになってはじめて一人前のCA、ようやく実機に移ることになります」

経験はもちろん、知識も技量もゼロという人財が、一人前のCAになるのは、計り知れない苦労を要する。本間自身もかつて、新入訓練を受けた一人だ。

「連日、新しい科目を学び続けるので、予習復習は必須。予習しなければついていけませんし、すべての科目が繋がっていますから、復習を怠ると、訓練内容を理解できなくなってしまう。だから私の場合は、一日一日を必死に過ごしながら、訓練に捧げて、できることを精一杯やりました」

その経験があるから、訓練生たちの苦労も、本間には手に取るようにわかる。

「気持ちをキープできるよう、訓練生一人ひとりのメンタルにも気を配ります。訓練中、気持ちが弱くなってしまったり、どうして自分がうまくできないのか理解できず混乱し、涙が溢れてきてしまう訓練生も。そういう訓練生にはその都度、個別に向き合うようにしています。もちろん厳しいことを言わざるを得ないときはありますが、そんなときも個別に面談するなどして、一緒に考えるようにしています」

訓練生の良い面を引き出す 小さなことでも褒めていく

「サービスインストラクターは、国内線、国際線エコノミークラス、ビジネスクラスやファーストクラス、それぞれの資格を取る際に受けるサービス資格取得の訓練を担当します。新入訓練では前半に本間さんたちが担当のセーフティ、後半にサービスの訓練が行われています」

こう話す森山は2008年にANAに入社し、2020年に客室訓練部に異動になった。現在は「ファーストクラスサービスコード取得教育」や「サービスインストラクター養成教育」の企画立案や教案作成、運営管理にも携わっている。

「ANAでは、それぞれのクラスに合わせたサービスの手順(メソッド)が規定されているのですが、それをまずはしっかりと覚えてもらって、訓練施設で行動化しながら体得してもらいます」

一例としては、飲み物や食事を提供する際、それぞれの物の正面を乗客側に向けて置く、という細かな規定も。森山は「たとえば紙コップは、ANAのロゴを必ずお客様側に向けなければなりません」と言ってほほえんだ。

すると、ここで森山の表情が、少しだけ厳しくなった。

「ですが、手順だけを覚えて行動化すればいいわけではありません。それ以外の立ち居振る舞い、身だしなみ、言葉遣い、そして笑顔……、何よりお客様に寄り添う気持ちが大切で、そのマインドのところを教育のなかでは同時に指導しています」

訓練中もそこに目を光らせる。

「やはり、その訓練生の立ち居振る舞い、身だしなみ、あとは表情。そこはよく見ています。まずは自分自身が楽しいと思いながらサービスをしてもらいたいのです。もちろん、訓練生は緊張しています。ですが、実習が始まってサービスをする際に、お客様と会話をしながら、実際に動きながら少しずつ笑顔が出てきて、楽しい雰囲気を醸し出す、そのためにも自分が楽しい気持ちでいないと……そんなところも気をつけて指導しているポイントです」

サービスの楽しさを実感して欲しいと、教育中にはBGMを流すなどして、訓練生にリラックスしてもらうよう配慮も。

しかし、当たり前なのだが、時には厳しい言葉をぶつけなければならないこともある。

「それでも言葉は選びます。それから、訓練生のマイナス点を指摘するときも、その人の良い面を同時に伝えることも心がけています。基本動作が徹底できていない訓練生には、そこをしっかり指摘しつつ、たとえばその人の笑顔が素晴らしければ『表情はすごくいいから、その笑顔はこの先も忘れないように』と。訓練生の良い面を引き出す、小さなことでも褒めていく、そんなふうにしています」

“卒業”するころに変わる表情 成長を見届けるやりがい

「リラックスした状態で、サービスの楽しさを訓練生たちにより実感してもらうため、訓練中は BGM を流したりもしています」

本間も森山も、そもそもは自ら志願してインストラクターになったわけではない。森山は「もともと、人にものを教えるのは苦手」だった。本間にいたっては「最初は訓練生の前に立つのも怖かった」と打ち明ける。

「ですから、訓練部への異動の内示をいただいたときは『まさか自分が!?』と驚きました」

それでも、訓練生への指導を重ねるなかで、そのやりがいを見出していく。森山は言う。

「最初は不安そうな顔をしていた訓練生たちが“卒業”するころにはすごく表情も変わってきて。『サービスの楽しさを知ることができました』と笑顔で言ってもらえたりすると、こちらも嬉しい気持ちになります。時には『独り立ちしても、森山さんのようなCAを目指してがんばります』という言葉をもらうこともあって。みなさんの目標になれた嬉しさと同時に、インストラクターというのはやはり、尊敬できる、背中を見せても恥ずかしくない存在でいなくてはならないと、気づかされる瞬間でもあります」

先述したように、インストラクターの彼女たちも、CAとして乗務することもある。時には、かつての“教え子”と一緒に飛ぶことも。インストラクター歴7年の本間は、「人の成長を見届けることにやりがいを感じる」と話す。

「訓練中は頼りない面が垣間見えて『大丈夫かな』と心配していた教え子が、実際のフライトでお客様にもしっかり対応できていたり、一つひとつの業務に自信を持って遂行できているのを見たときは、本当に嬉しいです。インストラクターの仕事というのは、そのように一人ひとりの成長を間近で見ることができる。最初はつまずいていた訓練生が、努力し成長した結果を目にすると、心底良かったなと思いますし、それがこの仕事のやりがいだと思っています」

森山はユニバーサルサービス教育も担当している。お手伝いが必要なお客様への対応に関する教育により、客室乗務員のユニバーサルサービス向上の一翼を担っている。

※所属部署は取材当時のものです。

撮影 加治屋誠
取材・文 仲本剛