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ANA接客コンテストで優勝 涙の新人時代を支えた仕事へのワクワク感〜翼の流儀

ANA接客コンテストで優勝 涙の新人時代を支えた仕事へのワクワク感〜翼の流儀

ANA REPORT 翼の流儀

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「自分の名前が呼ばれたときは、『え?ええーっ!?』という感じで、しばらく呆然としてしまって。本当にびっくりしたら、人ってこうなるんだなって、よく分かりましたね(笑)」

昨年12月、羽田空港にほど近い総合訓練施設「ANA Blue Base(以下・ABB)」で開催された「第16回空港カスタマーサービススキルコンテスト」。

グランプリ獲得の瞬間を、ANA新千歳空港のグランドスタッフ・樽澤一希は笑顔で振り返った。

ANAでは2008年度から、「『魅力ある空港』『魅力ある人財』による現場力を発揮して、旅客係員によるお客様へのサービススキルを高め合う」ことを目的に、空港カウンターでチェックイン業務などを行うグランドスタッフの接客技術を評価する同コンテストを実施してきた。

昨年度、第16回大会のテーマは「Let’s make ワクワク!」。多様な環境変化によって多忙を極める状況下でも「自らワクワクを見出し、お客様へワクワクを届けて欲しい」という思いが込められていた。

ANAグループが就航する国内と海外、全94空港の中から、53空港53人が予選に参加。予選を勝ち抜いた国内線担当8人と国際線担当3人の計11人が本選に出場した。

本番では、1人5分ほどの持ち時間で、タブレットを活用した情報提供や、次回の搭乗につながる案内、イレギュラー時の対応力などを、お客様の視点から審査。見事、グランプリを獲得したのが、樽澤だった。

その数、およそ6千人、ANAグループ全グランドスタッフの頂点に立った樽澤が語る「接客の流儀」とは――。

エアラインスクールでグランドスタッフ志望に

青森県で生まれ育った樽澤が航空業界を志したのは、幼いころに見たドラマがきっかけだという。

「木村拓哉さん主演の『GOOD LUCK!!』です。あのドラマを見て、『飛行機のそばで働く仕事があるんだ、私も働いてみたい』、そう思うようになったんです」

当初はCA志望だった。学生時代、就職活動目前にANAのエアラインスクールを受講したことで「180度、考えが変わった」と笑顔で打ち明ける。

「最初は『絶対CAになるぞ』って意気込みで受講したんですが……。エアラインスクールは現役のANAグループ社員が講師を務めていて。そこで、お話を聞かせてくれた新千歳のグランドスタッフ……いまでは先輩に当たる方ですけど、その先輩が、心から楽しそうに、仕事の話をするんです。『新千歳空港では、飛行機の扉の開け閉めはグランドスタッフの私たちがしています』とか、『ボーディングブリッジの操作もします』と。もちろんお客様への接し方や、仕事への向き合い方も聞きましたが、とにかく楽しそうに仕事の話をされる先輩が、キラキラと輝いて見えて。『この人みたいに仕事ができたら、きっと楽しいだろうな。私がやりたいのはそういう仕事かもしれない』と思ったんです」

こうして、大きく進路の舵を切った樽澤。2018年、ANA新千歳空港に入社以来6年間、旅客サービス部に籍を置き、グランドスタッフとしての仕事を続けている。

「じつは、不思議な縁があって。エアラインスクールでお話を聞かせてくれた先輩が、入社後、私のOJT(職場内訓練)を担当してくれたんです。だから業務の“いろは”を事細かに教えてくれたのも、その人。私より6期上の先輩なので、ちょうど、いまの私ぐらいの年代のときに、エアラインスクールの講師をされていました。その先輩との出会いがあって、いまの私があると言っても過言ではないんです」

コンテストのグランプリ受賞者にも、当然ながら“新人時代”はあった。そのころを振り返ってもらうと、笑みを絶やさない樽澤の顔が、少しだけ曇った。

「いま振り返ると、1年目の私は本当にポンコツ、出来の悪い新人で(苦笑)。グランドスタッフの仕事では、数百ページ、何冊にもわたる規定を覚える必要があります。お客様対応の基礎的なことから危険物のこと、それから航空券購入やチェックインの端末の操作方法に、改札機の操作方法……荷物一つお預かりするにも、単語だけでも数千も覚えなくてはいけません」

すべてを頭に入れなくてはならないのだが、はじめのうちはメモにも頼ることになる。

「さすがに規定を全部、持ち歩くわけにもいきません。『あんちょこ』と呼んでいますが、重要な箇所を自分でまとめて紙に書いて、それを持って仕事をするんです。でも、私はうまくまとめて書くことができなかったんです。そのため、わからないことがあれば、カウンターのなかを走り回って先輩に教えてもらっていました。先輩からは『自分でまとめたものは持ってる?』と聞かれましたが、間違えて迷惑をかけたくなかったので『書いたものはあります、でも教えてください』って頭を下げて……。あとで、その先輩からは、必要な情報を見やすくまとめるようアドバイスをもらいました」

1週間に3件も、立て続けにミスをしたこともあった。

「全部、確認不足のミスなんです。私、あんちょこにも『確認しないといけない!』って書いてたのに、確認漏れが多くて。ミスすると報告書を提出しないといけないんですけど、私、泣きながら書いてました。そんなとき、先輩からは『なんで確認しなかったの?』と聞かれましたけど……。『なんで?』なんて自分にもわからないというのが、そのときの正直な気持ちで(苦笑)」

楽しく仕事ができるかも――そんな希望を胸に飛び込んだ職場。だが、グランドスタッフというのは想像以上にたいへんな仕事だった。

「思っていた以上に体力を使う仕事です。それに、メンタル的にも。規定に沿ったご案内をしたら、ときに厳しいお言葉をいただき、落ち込んでしまうこともありました。自分はそんなに傷つきやすいタイプではないと思っていたんですが『あ、私も意外と傷つくんだな』と気づきました」

苦笑いを浮かべた樽澤は「それでも」と言葉を続けた。

「たいへんさよりも、やはり楽しいこと、嬉しいこと、ワクワクすることが本当に多い仕事なんです。だから、ポンコツだった私でも、ここまで辞めずに続けてこられました」

きっぱりと言い切った彼女の顔には、また晴れ晴れとした笑みが戻っていた。

「お客様とのつながりができることが嬉しい」

「6年間でいちばん嬉しかったことは、私がした何気ない応対に、お客様からお褒めの言葉を頂戴したり。千歳にまたいらっしゃったときに、わざわざ『樽澤さんいます?会いたいんですが』というお客様も。そんなふうに、お客様とつながりができたときが、いちばん嬉しいです」

それは入社5年目の夏だった。迫り来る台風で翌日は多くの便が欠航になることが予想されていた。チェックインカウンター前は前日から搭乗予定の客が溢れ、ごった返していたという。

「そのとき、ロビーを通りかかった私に、あるお客様から『東京に帰りたいんですが、どうしたらいいですか?』と声をかけられて。もちろん、お客様には飛行機に乗っていただくのがベストなんですが、それが叶わないときは何がセカンドベストかを考え、提案するようにしています。『地上交通で行っていただいた方が早いです』とか『○○行きの便はまだ飛んでいるので、そこまで行って、その先は地上交通がよいです』とか。その台風で予定を変えようとしているお客様には『明日、朝いちばんの便でしたら、台風の影響を受けずに飛ぶ可能性があります』とお伝えしたと思います。後日、その方からは、丁寧なお礼のお手紙をいただきました」

スクール講師になって夢を叶える後押しをしたい

「各空港によって、代表に選ばれる仕組みは違うと思うんですが。私たちのところは、新千歳空港独自のカスタマーサービススキルコンテストがあるんです。そこで優勝した人が、代表として本選に応募するんです」

そして、昨年12月。樽澤の姿は空港カスタマーサービススキルコンテストの本選が開催されていたABBにあった。

「当日まで新千歳空港の仲間と繰り返し練習をし、本番を迎えました。本番中は緊張しすぎて、ほぼ記憶がないんですが(笑)。おそらく言葉遣いとか、所作とか、私以上に丁寧に、きちんとできている方がほかにもいたと思うんです。ただ、私は学生時代、ずっとチアリーディングをやってまして。就活のときも、明るさと元気さだけを売りにしてたんですけど、コンテストでもそれが評価につながったのかなと思っています。ANAグループの行動指針では、冒頭に『あんしん、あったか、あかるく元気!』という言葉があります。ほかの出場者以上に、明るく元気にやれたのかなと思っています」

コンテストの模様はANAグループ内に中継配信されていた。

「私を育ててくれた先輩は、本番の前も、後も連絡をくれて。『配信、見てたよ〜、おめでとう!』って。もう、自分のことのように喜んでくれました。コンテストで4位以内に入った人には金色のバッジがもらえるんです。私はそのバッジが欲しくて出場したんですが……、出来の悪かった私をずっと支え続けてくれた先輩に、バッジを渡したいぐらいです。本当に感謝です」

そういって満面の笑みを浮かべた樽澤には、夢があるという。

「私、エアラインスクールの講師になりたいんです。講師は現役のグランドスタッフじゃないといけないので。このままいまの仕事を続けて、エアラインスクールの講師になって。学生さんたちに『こんなに航空業界の仕事は楽しいんだよ』っていうことを伝えたいんです。夢を叶える後押しを、今度は私がしてみたいなって思っています」

明るく元気な彼女なら、たくさんの学生の背中を押すに違いない。