厳格なジャイナ教のビーガンランチ マンドビで文化と宗教に浸る 西インド4
インドの西の果て、パキスタンとの国境に近いカッチ地方。世界的に名高い手工芸を特産とする村々をめぐりながら、移動する民、伝統と進化、食と信仰など、様々な要素が織りなす旅のタペストリーを藤代冥砂が語り紡ぐ。
ジャイナ教
3日目はブージから南進しマンドビに向かった。アラビア海のカッチ湾に面した街である。カッチには海路でエジプトなどの遠国と交易をしていた時代があった。今ではインド最西の僻地の感はあるが、時代を遡れば西方諸国文化の窓口としての華やぎがあった。
海を近くにした河口の造船所には作りかけの巨大な木造船が並び、さながら往時の海運の隆盛をしのばせた。それらは遠洋への現役船であることも驚きである。
古い街並みを歩いていると地中海文化の影響が見られるレリーフが家の門や外壁に残り、陸伝いとは別の海路があったことをはっきりと今に伝えていた。
そんなエキゾチックなマンドビ散策中の路上でジャイナ教徒の尼僧二人に声をかけられた。これから礼拝があるから寺院へ来ないかと言う嬉しいお誘いである。
礼拝が始まると先ほど声をかけてくれた尼僧は、その日の礼拝の主事者でもあった。
壇上に胡座を組んで座り、時に厳しい口調を交えながらエネルギッシュに語りかける様は内容こそ分からないにしても引き込まれる。
当日は別のジャイナ教寺院も既に訪れていて、付設食堂で厳格なビーガンランチをいただいていた。殺生を厳しく諌める教えから根菜すら口にしない。収穫時に土中の生物の命を奪う可能性を案じているのだ。
その食事は外連味なく、あっさりとシンプルでありがなら、とても美味しかった。食を通して文化や宗教を垣間見ることができるのも旅の楽しさである。
思い返すとムンバイで食べたパールシー料理も美味しかった。パールシーとはペルシャ(現イラン)移民の呼称で、料理はペルシャとインドのミクスチャーであり優しく洗練されていた。その時もゆっくり咀嚼しながら好奇心は広がり、ペルシャから遥々やって来た民の姿に思いを馳せたのだった。
Jimmy Boy Restarant & Cake Shop Fort(ジミー ボーイ)
イギリス植民地時代の重厚な建物が多く残るムンバイ・フォート地区にあるパールシー(ゾロアスター教)レストラン
Plot 11, Ground Floor, Vikas Building, Nyamurti, GN Vaidya Road, Central Library, Fort, Mumbai
Tel 022 2266 2503
東の果ての島国に住む私にとって、大陸に起こる文化と民のダイナミックな移動には常に圧倒され刺激を与えられる。歩幅を大きく取り、遠くを見やり、深く息することを喚起させてくれる。
再びムンバイ
美しいムンバイ空港で自分への土産にとローズウォーターやトルシィ茶葉を買っていると、あるインド人の少年がフランスのハイブランドスニーカーを履いていることに気づいた。おそらく十万円くらいするものだろう。これからはインドの時代だと聞くが、その勢いを確認したような気がした。
空港という場所は様々な人や物が交差する。遠くを目指す旅ならば、ほぼ空路一択になるが、私がこの数日で垣間見て来た西インドの人々の歴史的な旅は主に徒歩によるものだった。その速度は文化のグラデーションを生む。私はムンバイで買ったストールをさっそく首に巻きながら、アラブ世界から中央アジアを通り南下して来たカッチの民に想いを馳せた。あるいはペルシヤからインドへ移ったパールシーたち。
Kala Ghoda Café(カラ ゴーダ カフェ)
ムンバイの『アルチザン アートギャラリー&ショップ』近くにあるスイーツも人気なおしゃれカフェ
Bharthania Building A Block 10 Ropewalk Lane,Kala Ghoda Mumbai
Tel 098 3380 3418
人は耕し地縁を持ち定住する者である。一方で昨日とは違う新しい土地へ移ろう者でもある。アフリカに始まったとされる人類の長い歴史を見れば、移ろっていた時代の方が遥かに長く、その95%は移動生活であった。今でも人が旅を好むのは、その記憶が疼くからかもしれない。
そして旅をするのは人だけではない。時間と愛情を費やして生まれた手仕事の品々も作り手から使い手へと旅をする。幸運にもそれらを得て生活の友とすることは、異なる文化に乗って過去と未来、東へ西へと揺れて旅することではないだろうか。
藤代冥砂(ふじしろ・めいさ)
葉山、沖縄暮らしを経て、現在東京町田市在住。主に写真家、小説家、エッセイストとして活動中。自身の写真を用いたフォトアパレルブランドPIP(meisapip.thebase.in)のディレクション、YouTubeチャンネル(@MFUJISHIRO)も手がける。瞑想のインストラクターとしても知られる。
案内人 山本束花咲(やまもと・つかさ)
2008年に訪れたカッチで、多様な文化が生みだす手しごとの美しさに衝撃を受け、そこに暮らし伝統を繋いできた人々の純粋さと温かさに魅了される。ライフワークへの昇華を模索する中で服作りと出会い才能が開花。Flower of Tripデザイナーとして旅を続けながら、纏う人の個性が輝く服を、主にオーダーメイドで制作している。
Instagram @flower_of_trip
写真・文 藤代冥砂
編集 中野桜子
案内人 山本束花咲
Special Thanks 寿枝/印度手染織布探求者・通訳者・ヨーギニー、Imran Manjothi/ガイド(Kutch Safari Tours)
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