北欧暮らしのシンプルな習慣 「ラーゴム」を楽しむカフェへ
インテリアやテキスタイルをはじめ、男女平等、福祉の充実などの先進性でも憧れを集めるスウェーデン。この国で特にこよなく愛されているのが、温かい飲み物とスイーツを嗜む「フィーカ」の習慣なのだという。高い水準を誇るストックホルム市内のカフェやベーカリーの中でも絶大な人気を誇る2店で、このカルチャーについて聞いた。
人々の心に微笑みを灯す、身近な“ラグジュアリー”
まず訪れたのは、フィーカ文化を背負って立つ老舗のひとつである「ヴェーテカッテン」。1928年創業のカフェダイニングは、一日のあらゆる場面において心地よいブレイクタイムを提供する名店だ。店には地元の常連や旅行客がひっきりなしに訪れるが、歴史ある店内を少し歩いて見回せば、たいていは席が見つかるはず。各年代ごとに建て増しや改装を重ねてきた空間には驚くほどの奥行きがあり、各セクションをこだわりのインテリアが飾っている。
「私たちが提供しているのは単なる食べ物や飲み物ではなく、“経験”なんです」と話すのは、オーナーのヨハンさん。もともとシェフとしてキャリアをスタートさせた彼だが、製菓に魅せられパティシエとしてこの店へ。15年の勤務を経て、経営を引き継いだのだという。
「スイーツは美しく陳列されボックスに詰められて口に運ばれる瞬間まで、人々の期待やワクワクする心を掻き立てるでしょう。そこに魅力を感じました。スウェーデンでは企業や学校でもフィーカタイムが設けられ、時には義務づけられるほど生活の一部になっているんですよ」
きらびやかなショーケースには昔ながらのスイーツが揃うが、どれもさっぱりと優しい味わい。「スウェーデンの三大名物といえばイケア、王室、そしてフィーカ。朝、昼前、ランチタイム、午後、夕方……いつだってチャンスはあります!」。インテリアにはこの国最古の家具メーカー「ゲムラ」をはじめ、職人技が光る製品を数多く採用している。
おいしいケーキとコーヒーを味わいながらスタイリッシュな空間でおしゃべりに興じるひとときは、彼に言わせれば「お手頃価格のラグジュアリー」だ。
「スウェーデンには“ちょうどよい”とか“ほどほど”を意味する『ラーゴム』という言葉があります。現代では忙しくて時間がなかったり、カロリーが気になったりという声も聞きますが、格別なスイーツでのブレイクタイムを“ほどよく”取り入れれば、疲れが取れて生産性もアップするに違いないのです」。
楽しく働き、適度に休憩する。こんなシンプルな習慣づけが、真の意味で人生を豊かにするのかもしれない。
Vete-Katten
Kungsgatan 55, Stockholm
地方農家への感謝と尊重が生む、ミニマルで上質なペストリー
古着屋が立ち並ぶエリアの憩いの場として絶大な人気を誇る「スヴェディアンバーゲリー」。ベイカーのアルフレッドさんは幼い頃からフィーカとともに育ち、この時間が大好きだったとか。
「北方の小さな村出身で、街まで1時間ドライブしないとスイーツが買えなかったため、おのずと自分でクッキーやパンを焼くようになったんです」。
しっとり濃厚ながら軽やかな口当たりのペストリーの秘密は、主に彼の故郷から仕入れる新鮮な材料たちだ。
「愛すべきフィーカを楽しんでもらうこの仕事を通し、低収入が問題となっている農家の人々へ利益を還元していきたいですね」
Svedjan Bageri
Brännkyrkagatan 93, Stockholm
案内人 ヴェントゥラ愛
写真 伊達直人
コーディネーション 明知直子
取材・文・編集 山下美咲