スウェーデンで愛される「フィーカ文化」とは?北欧の甘い生活
インテリアやテキスタイルをはじめ、男女平等、福祉の充実などの先進性でも憧れを集めるスウェーデン。この国で特にこよなく愛されているのが、温かい飲み物とスイーツを嗜む「フィーカ」の習慣なのだという。現地と日本のスイーツカルチャーの架け橋となり発信を続けるパティシエのヴェントゥラ愛さんに、気になるその全貌について語ってもらった。
季節の節目をおいしく彩る、大切で愛おしい時間
昨今の北欧ブームを受けて「フィーカ」という言葉をすでに耳にしたことのある人も多いだろう。北欧は世界有数のコーヒー消費量を誇るが、中でもスウェーデンではその時間が名のある文化として人々の生活に定着しているのだ。
同僚や友人、はたまた愛する家族たちとのコーヒーブレイク。それは、長い冬をできるかぎり暖かく快適に過ごすための知恵でありながら、心地よい会話を交わすひとときによって、瞬時に過ぎ去ってゆく短い夏を慈しみ謳歌したいという切実な願いから生まれたものなのかもしれない。
「単語自体はスウェーデン語でコーヒーを意味する『カッフェ(kaffe)』というワードから生まれたそうです。訛ったり音の順が入れ替わったりして『フィーカ』になったと聞いたことが」と教えてくれたのは、本特集の案内人でありパティシエのヴェントゥラ愛さんだ。
彼女のルーツは日本にあるが、アメリカ人の夫の仕事の関係でストックホルムへ移住。今では3人の子どもたちも加わって、賑やかで心地よい暮らしを営んでいる。
現地のスイーツカルチャーを日本に持ち帰る一方、日本の甘味やそれに付随する文化を北欧へ伝える活動も。
「スウェーデンには日本に興味のある人が多いようで、初めて開催したポップアップカフェが大盛況になったときは驚きました」
人々のスイーツへの高い関心が、フィーカにかける情熱を物語る
愛さんに改めてフィーカの定義を問うと、次のような答えが。
「コーヒーを飲みながらスナックをつまみ、ほっとひと息入れること。またその時間です。『今からフィーカしようよ』というように、動詞として用いることも。
フードはたいてい甘いものが好まれ、代表的なのはシナモンロール。この文化が根付いているためか、スウェーデンには男女を問わず、自分でお菓子を焼くという人も多いんです」
今回子どもたちとつくってもらったのは、毎年1〜2月頃から春の訪れを祝って食べられる伝統菓子の「セムラ」。カルダモンを練りこんで発酵させた生地を丸いパンの形に焼きあげ、中をくりぬいて、甘いアーモンドペーストと無糖で泡立てた生クリームで仕上げる。
カルダモンの爽やかさとアーモンドの濃厚さ、すっきりとした生クリームの味わいが見事に調和し、キッズも思わず2個、3個と手を伸ばす様子。
「長い冬を終えるタイミングに食べられるお菓子なため、味わうときは喜びと熱狂もひとしお。“その年いちばんおいしいセムラをつくる店”のランキングが発表されるほどで、ランクインしたお店の前には必ず行列が。それだけ老若男女がスイーツに関心を持っているというのも、フィーカの習慣が大きな役割を担っているからこそかなと思います」。
スウェーデンという国とその魅力を深く知るためには、欠かすことのできないフィーカの文化。もしも現地へ足を運ぶ機会があったら、ぜひ体験してみてほしい。
案内人 ヴェントゥラ愛さん
パティシエ。2013年よりストックホルムに移住し、現地のメディアやイベントで日本のスイーツに関する発信をおこなうように。家族の暮らしを記録したVlogを投稿するYouTubeチャンネル「BonAibonスウェーデン暮らしのレシピ」も人気。
写真 伊達直人
コーディネーション 明知直子
取材・文・編集 山下美咲